
Blurred City Lights
Dystopia
Blurred City Lights
Dystopia
- release date /2025-02-07
- country /Japan
- gerne /Alternative Rock, Ambient, Dream Pop, Post-Rock, Shoegaze
名古屋を拠点に活動するシューゲイズ・バンド、Blurred City Lights(BCL)の2ndアルバム。
本作は『Utopia』と『Dystopia』という対をなす二部構成になっており、ここでは『Dystopia』を主に取り上げる。
影のDystopia、終末へいたる物語
光に満ちた『Utopia』とは対照的に、『Dystopia』はアルバムの「影」を司っている。キャッチーさはやや控えめで、陰影を帯びたメロディが主となっている他、Sigur Rósに近い繊細なアンビエントやポストロック的手法を強化しており、非常に没入感の強いサウンドスケープが展開される。コンポーザーの表記にギタリストの恵氏が多いことから、おそらく彼の嗜好が色濃く表れているものと思われる。
#1 “dreamland”の幽玄なムードの中に響くパルス音は茫漠とした宇宙空間を思わせ、#2 “Whisper”で歌われるのは「永遠の始まりから逃げ出せない」という諦念。歌詞には外部記憶やプロトコルといったフレーズが散りばめられ、牧歌的なムードの『Utopia』から未来へと針が進んでいることを示唆している。
#3 “shinjuku”はカセットテープの再生音に始まり、断続的に不穏なパルスが混入するインストで、何か不吉な予兆を連想させる。
#4 “亡霊都市”は、儚げなアルペジオが灰のように舞い落ちるメランコリックなナンバーで、荒廃した文明への深い悲しみが綴られる。終盤にわずかにアップテンポになるパートは、失ってしまった大切な人の面影を追い求め、残された僅かな力を振り絞っているかのようで、涙を禁じ得ない。
そしてハイライトは9分超の長尺曲#5 “きみのこえ”だ。MonoやExplosions In The Skyを彷彿とさせる静から動へのダイナミズムを活かした構成で、終盤に放たれる重厚な轟音が、超新星爆発やビッグバンのような天体級のカタルシスをもたらしてくれる。
ラストはピアノのインスト曲#6 “the end of Dystopia?”で幕を閉じる。この曲には『Utopia』の#5 “utopiaflorist”とどこか似た響きがあり、2つの世界の関係性を示唆しているかのようだ。
光のUtopiaと影のDystopia。通して聴くとより鮮明に分かるが、この相反する二つが陰陽道の太極図のように組み合わさり、一つの作品として完成している。だが、本作にはさらに深い考察の余地が隠されている。
新宿という特異点、あるいは輪廻する環
鍵となるのは『Dystopia』の#3 “shinjuku”だ。初めは空想上の世界が綴られていると考えていたが、そこに突如として現れる「新宿」という実在の地名によって、この物語が我々の世界と地続きである可能性を帯びてきたのだ。映画『猿の惑星』における自由の女神のように叙述トリックとして見事な効果を発揮している。
さらにもう1つ、新宿というフレーズで私が閃いたのは、ゲーム『ドラッグ オン ドラグーン』のEエンド、通称「新宿エンド」である。「マルチバッドエンディング」と呼ばれる中でも、特に衝撃的な内容で、脳を灼かれたプレイヤーは数知れない。
新宿エンドが後の『ニーア レプリカント』や『ニーア オートマタ』へと続く物語の起点であることは、ファンの間ではよく知られている。そして『ニーア レプリカント』をはじめとしたニーアシリーズは、2周目のプレイで物語の裏に隠された真実を提示し、プレイヤーの価値観を反転させる手法を取っている。これは『Utopia』と『Dystopia』の表裏一体の構成と奇妙な共鳴を見せている。また、シリーズ第3作『NieR Re[in]carnation』では、『ドラッグ オン ドラグーン』世界との接続を示唆する描写が散りばめられており、両シリーズが相互に干渉し合うループ構造を形成していると捉えることもできる。
アルバムのクロージング“the end of Dystopia?” に付けられた疑問符も、ディストピアが単なる終わりを迎えるのではないことを示している。新宿を接点としたドラッグ オン ドラグーンとニーアシリーズの構造と同様に、DystopiaはUtopiaへ回帰し、またUtopiaはDystopiaへと、メビウスの輪のように輪廻しているのではないだろうか?
太陽が昇り、沈み、また昇るように。あるいはビッグバンで宇宙が誕生し、膨張の後に縮小へ転じてビッグクランチへ至り、再びビッグバンを迎える「振動宇宙論」のように。始まりも終わりも存在しない永遠のループに彼らは囚われているのかもしれない。CD版の盤面においてUtopiaとDystopiaのタイトルが点対称に配置され、180度回転させても同じレイアウトになるデザインも、このループ説を裏付けている。
どちらが先で、どちらが後か。その先入観を排除するために二作に分けたのだとしたら、推奨される聴き方は一つしかない。プレイリストでこの二作を繋げてループ再生し、永遠の螺旋に囚われるのみだ。
全ては私の妄想に過ぎないかもしれない。しかし、一見対極にある二つの世界が、実はメビウスの輪のように表裏一体で繋がっているという解釈を許すだけの強固なパワーが、このアルバムには宿っている。Blurred City Lightsは、我々に無限の空想へと飛び立つ翼を授けてくれる。そんなバンドなのだ。
音源の先へ――Blurred City Lightsの真価はステージで証明される
本作で初めてBlurred City Lightsに触れて気に入った方は、ぜひライブへ足を運んでみてほしい。トリオ編成とは思えないほどの重厚なサウンドに驚かされるはずだ。彼らのYouTubeではギターサウンドの秘密を公開しているので、興味がある方はぜひチェックを。【本格シューゲイザー】現役シューゲイザーバンドのエフェクター・ギターフレーズ紹介【轟音】
なお、CDおよびBandcamp版には、Utopiaに“夕立”、Dystopiaに“sumire”というボーナストラックが追加されている。どちらも彼ららしさ全開の名曲なので、ファンであれば必ず押さえておこう。
