
Spiine
Tetraptych
Spiine
Tetraptych
- release date /2025-03-27
- country /Australia
- gerne /Blackened Doom, Depressive Black Metal, Doom Metal, Doomgaze, Funeral Doom, Post-Rock
オーストラリアのブラッケンド・ドゥームメタル・デュオSpiineのデビューアルバム。
Spiine〜Virgin Black×Ne Obliviscarisの鬼才によるコラボ〜
Virgin BlackのギタリストSesca Scaarba(Samantha Escarbe)と、元Ne ObliviscarisのボーカリストXen(Marc Campbell)によって結成。バンド名Spiineは「背骨」を意味し、2人の背骨を結合させることで精神を強化し、彼らの音楽が描く「暗く惨めな絶望」を世界に伝える決意を表している。「i」が並ぶのは、2人が精神を預け合う象徴である。※曲名の「i」もすべて2つになっている点に注目
本作はドラムにWaltteri Väyrynen(Opeth、元Paradise Lost)、ベースにLena Abé(My Dying Bride)を迎え、暗黒ドゥーム界屈指の布陣で制作された。
Virgin Blackはオーケストラや聖歌隊をフィーチャーした荘厳なサウンドで知られていたが、Spiineはその儀式的なムードを受け継ぎつつ装飾を抑え、ギターを主体としたフューネラルドゥームへとシフト。Xenの表現豊かなスクリームとグロウルは、悲しみや痛み、絶望といった負の感情を容赦なく描き出し、冷酷で無慈悲な暗黒世界へと踏み込んでいる。
Spiine『Tetraptych』各曲レビュー
#1 “Myroblysiia”
フューネラルドゥーム風のロングトーンの合間に陰鬱なトレモロリフが顔を出し、ドゥームゲイズやポストロック、DSBMを思わせるアプローチを展開。イントロの哀しげなピアノとともに鳴り響くギターの音色は、まるでMONOが葬送曲を奏でているかのよう。ヘヴィなロングトーンが鳴り始めると、オーケストラの厳かな旋律とXenのドス黒い咆哮が重なり、リスナーを闇の深淵へと引きずり込む。容赦なき暗黒美に思わず戦慄すら覚える一曲。
#2 “Glaciial”
重苦しい圧殺ギターにXenのグロウルが交錯する暗鬱ドゥーム。後半に重厚なストリングスがひと時の光をもたらすが、それも束の間。SescaのギターとXenの咆哮が全てを黒く塗りつぶしていく。終盤の哀愁味あふれるギターワークは本作のハイライトの1つ。
#3 “Oubliiette”
トレモロリフが効果的に用いられ、フューネラルドゥームとDSBMの混血と呼べるサウンドを展開。オーケストラの重層的なテクスチャーと相まって、本作中で最も「Gaze」の要素を感じさせる一曲。
#4 “Wriithe”
亡者の呻きのような声で幕を開け、陰鬱で重苦しいリフが闇を這いずり回る。幽玄で静謐なブレイクを挟んで、わずかに光が差し込むも、すぐにブラックメタル風の爆走へと切り替わる。最後には再び葬送曲のような悲壮なメロディが舞い戻り、亡者たちの魂を奈落へと還していく。
「Tetraptych」=「4つのパネルから成る連作絵画」というタイトルが示す通り、全4曲で約1時間という濃密な構成も、暗黒音楽好きには格別のご褒美だ。
NorttやEvokenといった重鎮のリリースで沸く2025年のフューネラルドゥーム界に新たな傑作が誕生した。本作はフューネラルドゥームでありながら比較的メロディアスで聴きやすいため(当社比)、FVNERALSやPresence of Soulといった暗黒ドゥームゲイズ好きにもぜひチェックしてほしい。
なお、2025年12月2日付で Lena Abé(My Dying Bride) が正式にメンバーとして加入した。これは本プロジェクトが今後も継続されることを示すものであり、続報に注目したい。

Orchid Mantis
Possession Pact
Orchid Mantis
Possession Pact
- release date /2025-04-25
- country /US
- gerne /Ambient, Dream Pop, Indie Pop, Slowcore
アトランタを拠点とするローファイ・ドリームポップ・アーティスト、Orchid Mantisの13thアルバム(※Spotify準拠)。
Orchid Mantisは、シンガーソングライターのThomas Howardによるソロ・プロジェクト。これまでローファイでノスタルジックなインディーポップ/アンビエントで多くのリスナーを夢見心地にしてきましたが、本作では作風を大きく変化させ、Low、Bedhead、Codeineといった90年代の陰鬱なスロウコアにフォーカスしています。
深いリバーブをまとったギターの音色は、宵闇にしたたる雨音のよう。そして削ぎ落とされたノーツの間から、Thomasの歌声が幽霊のように浮かび上がります。過去作が「草原でウトウトお昼寝」だとすれば、本作は「目覚めたら深夜の霊安室に安置されていた」くらいのギャップ。全編に渡って冷たくも甘美なメランコリーが満ちていて、じっくり落ちていきたい時にぴったりです。
イチオシは#4 “All The Passing Days”。葬送曲のような物悲しいメロディが、美しい思い出たちを静かに灰へと還していく。どの曲も徹底してスローテンポなので、人によっては平坦で退屈に感じるかもしれませんが、ボーカルものとインストがうまく配置され、ほどよい起伏が楽しめる点も好印象。
アートワークの時点でただならぬ雰囲気がありましたが、想像以上の変化で大興奮でした。2025年のドリームポップAOTY筆頭候補!

散▽巡
渦流に鳴く
散▽巡
渦流に鳴く
- release date /2025-03-29
- country /Japan
- gerne /Alternative Rock, Ambient, Grunge, Post-Rock, Shoegaze, Slowcore
大阪のシューゲイズ/オルタナティブロック・バンド、散▽巡(さんざめく)の1st EP。
2023年3月26日結成。本作の制作メンバーはぺん(ギター/ボーカル)、あかね(ギター)、しま(ベース)、yuyA(サポートドラム)の4名。
私が散▽巡を知ったのは2024年7月。東京初ライブの告知をきっかけに音源をチェックしたところ、そのダークな世界観に触れてたちまち虜になりました。
儚く繊細なパートはSigur Rós、ポエトリーリーディングと激情のダイナミズムはenvy、日本語で仄暗い情念を歌い上げる姿には天野月子がふと浮かんだりと、既存のシューゲイズに収まらない多彩な要素が絡み合い、独自の世界観を創り上げています。とりわけ静と動のダイナミズムは圧巻で、陽光きらめく草原から暗黒の深海までをも横断するような体験をリスナーにもたらします。
そして特筆すべきはぺん氏のボーカルの表現力。サウンドの起伏に沿って、母が子を寝かしつけるような優しい囁きや、轟音を切り裂くほどのエモーショナルな叫びも巧みに操り、語り手として強烈な存在感を放ちます。ぺん氏が紡ぐ歌詞も、哀しみや痛み、嘆きといった生々しい感情が渦を巻き、日本語ならではの陰影もあいまって聴く者の心を強く揺さぶります。
散▽巡『渦流に鳴く』各曲レビュー
#1 “光芒”
光が降り注ぐようなギターと儚げなウィスパーボイスが溶け合う美しいイントロダクション。
#2 “残鳴”
ポストロック風にゆったり進行しながら、徐々にボルテージを上げ、美轟音を解き放ちカタルシスを演出。
#3 “=rand(scp)”
陰鬱なメロディとともにノイズが激しく渦巻き、カマイタチのように全身を切り裂いていく。本作で最もダークな1曲。ちなみに読み方は「ダミースケープ」だそうです。※ぺん氏に教えていただきました
#4 “息吹”
トライバルなリズムによって陶酔へと誘う新境地的ナンバー。降り注ぐギターの美しさといったら、神々しさすら感じられるほど。
#5 “雫の中の彗星”
壊れそうなほど繊細なサウンドスケープに「知りたくなかった」のリフレインが切なく響く。突如轟音が波のように押し寄せたと思うと、また静寂が戻り、切なさをいっそう際立たせる。
#6 “浮遊” ※CD限定ボーナストラック
岡山のシューゲイズ・バンドlittle lamplightのギタリスト黒田麻衣を迎えた美轟音シューゲイズ。トリプルギターが織りなす重厚なテスクチャーと美しいメロディの融合はまさしくシューゲイズの真骨頂。この曲のためにCDをゲットする価値あり!
光と闇、静と動、美と狂気──そのすべてが渦流のように交錯する全6曲。散▽巡の美学を存分に味わえること間違いなし。
さらに会場限定で入手できるデモ音源には、『サンザメク』や『ニヒリズム』、『崩潰』といったライブの定番曲も多数収録。いずれも名曲なので、ライブに行かれる際はぜひゲットしてください。
本作リリース後に神崎渚(ドラム)が正式加入し、バンドが本格始動した今、「さんざめく」(ざわめき立つ)の言葉どおり、日本のシューゲイズ界を大いに賑わせてほしいですね。

Presence of Soul
Silent Sins
Presence of Soul
Silent Sins
- release date /2025-05-03
- country /Japan
- gerne /Ambient, Dark Ambient, Inprovisation, Noise, Post-Rock
東京のポストメタル/ドゥームゲイズ・バンド、Presence of Soulのライブアルバム。
2024年7月24日に吉祥寺NEPOで行われた3人編成による即興のノイズ/ダークアンビエントライブを音源化した作品です。
ライブメンバーは、Yuki(ボーカル、シンセサイザー、ノイズ)、Yoshi(ギター)、Takurow(ベース)の3名。ダークアンビエントと聞いて「暗くて退屈」と思うのはもってのほか。わずか約30分間で、暗黒の宇宙を旅するような壮大な体験が楽しめます。
#1 “Silent”は、Presence of Soulの繊細でメロディアスな側面が味わえる瞑想系ポストロック。柔らかなノイズを背景に、ポエトリーリーディング、幽玄なクリーンボーカル、重層的なギターが溶け合い、無数の星々が瞬く銀河のような神秘的な光景を浮かび上がらせる。ああ、アムロ……刻(とき)が見える……!
#2 “Board the Shipwreck - Drift”は、不安を掻き立てるノイジーなギターとともに、マントラのような歌声が延々と唱えられ、まるで闇落ちしたDead Can Danceのごときダークなサウンドを展開。後半では歪んだギターと狂気を帯びた歌声が重なり、怖気立つほどの凶悪なノイズが襲いかかる。大音量で恐怖に怯えながら聴くのもよし、暗闇で目を閉じてじっくり浸るのもよし。あるいはあえてボリュームを控えめにして聴くのもオススメ。ノイズに不慣れな方はぜひお試しあれ。
私はこのライブを現地で体験しましたが、暗闇に包まれて演者の姿はほとんど見えず、VJの映像だけが目に映る状態だったため、自分が立っているのか浮いているのかすら分からない不思議な感覚に陥りました。音響面では特にTakurow氏のベースが印象的で、重低音による振動が床を通して全身へ伝わり、内臓が揺れるほど強烈だったのをよく覚えています。音源だとその振動はさすがに伝わってきませんが、次の機会にぜひ現地で体験してください。
なお、本作はCD限定で、売り切れ次第終了となります。ファンは早めにゲットしましょう。購入者はライブに使用された映像付きの音源をダウンロードできるので、爆音で再生できる環境があれば、ぜひ最大音量でお楽しみください。おそらくライブハウスに近い感動が得られるでしょう。もし耐震レベルが低くて建物が倒壊しても、当サイトは一切保証しないのであしからず。

2beef
Orbs
2beef
Orbs
- release date /2025-07-02
- country /Japan
- gerne /Alternative Rock, Grunge, Nu Gaze, Post-Rock, Shoegaze
東京のシューゲイズ・バンド、2beefの2nd EP。
前作の1st EPでは、NothingやWhirrといったUS産ヘヴィシューゲイズから、20年代のニューゲイズまで幅広く吸収しつつ、ブレイクコアをも取り込んだ感度の高いサウンドで、多くのリスナーを驚かせました。また、90〜00年代のアニメやゲームなどのオタクカルチャーを融合した世界観も、彼らの大きな特徴です。
以前は3ピースでしたが、ドラムが脱退し、現在の正規メンバーはウエダ(ギター・ボーカル)と梁取瑶(ベース)の2名。※梁取瑶氏はアートワークやグッズのデザインも担当。
本作は、異世界転生をテーマにしたストーリー性のある構成となっています。では、さっそく異世界へとダイブしてみましょう。
2beef『Orbs』各曲レビュー
#1 “Helvetica standard”
幻想的なイントロに続き、ヘヴィなギターとマイルドな歌声が重なって陶酔へと誘うオープナー。アトモスフェリックなパートはポストロックの質感もにじませ、魔法に魅了されるような心地良さが味わえます。タイトル「Helvetica standard」は、あらゐけいいち氏の漫画由来のオタク的なリファレンスであると同時に、Helveticaフォントの汎用性の高さを踏まえたデザイン的な意味も込められているかもしれません。
#2 “(where are you?)”
ギターの淡いレイヤーにピアノやささやき声が溶け込み、現実と幻想の境界を曖昧にするサウンドコラージュ。最後に聞こえる微かな「さようなら」の残響が、そっと空虚感を植え付ける。
#3 “unreal”
スローテンポでじっくりメランコリーを紡ぐヘヴィシューゲイズ。轟音の中に切ない歌声が響き渡り、狂おしいほどに胸を締め付ける。本作のハイライト。
#4 “if you are still here”
#3を継承したヘヴィなサウンドながらも、光が差し込むような開放感があり、微かな希望を漂わせながら、物語は幕を閉じます。「もしまだあなたがここにいたら」──主人公は元の世界へ帰ったのでしょうか……それとも──?
4曲12分とコンパクトながら起伏のある構成で、想像力が掻き立られること間違いなし。異世界転生ものは多くの人気作品がありますが、皆さんはどんな物語を思い浮かべましたか? 個人的には『エルハザード』を思い出して、胸が熱くなりました。
2beefの世界観を表現するアートワーク
2beefはスタイリッシュなアートワークも大きな見どころ。Helvetica系のサンセリフ体とブルーを基調としたデザインで統一され、Y2K的デジタルアートの雰囲気を巧みに表現しています。それでいて、普段の梁取瑶氏は有機的なデザインがメインという点も興味深いところ。気になる方は、ぜひ彼のアート活動もチェックしてください。梁取 瑶 Yoh Yanatori(Instagram)
ライブ活動再開、海外勢との交流の期待
2beefは、ドラムとギターのサポートメンバーを迎え、2025年8月29日よりライブ活動を再開しました。私も現地で拝見しましたが、出音や佇まいはまさに最前線のUSシューゲイズそのもので感動しました。USシューゲイズ勢が来日したらガンガン対バンしてほしいですね!
今後のライブ情報は、2beefのXまたはInstagramでチェックしてください。NothingやWhirr、Leaving Time、Trauma Ray、Glareなどが好きな方はぜひ!
バンド名「2beef」を考察
「2beef」=「2つの牛肉」と、一見意味のないフレーズですが、名は体を表すもの。彼らのアイデンティティがこっそり仕込まれているに違いありません。私は音楽性や世界観から、この2案を導き出しました。
- 2beat説:ハードコア・パンクでよく用いられる2ビートからの連想。
- ToHeart説:Leafの名作ADV『ToHeart』から派生し、2heart → 2beef という遊び心。heart(心)の対義語としてbeef(肉)に置き換えた?
オタクカルチャーに精通した彼らなら、こうした言葉遊びもあり得そうです。気になる正解は、ぜひライブで本人に確認してみてください(笑)。
YouTubeは未配信のため、試聴用に『Kanon』を貼っておきます。本作には未収録ですのでご了承ください。
前作のレビューはこちら▶2beed『Lucky』レビュー

Blackwater Holylight
If You Only Knew
Blackwater Holylight
If You Only Knew
- release date /2025-04-18
- country /US
- gerne /Doomgaze, Post-Metal, Progressive, Psychedelic Rock, Shoegaze,
オレゴン州ポートランド出身のサイケデリック・ドゥーム・ロック・バンドBlackwater Holylightの1st EP。2016年に結成され、独自の実験精神あふれる音楽性で注目を集めてきた女性4人組のバンドです。
現在のメンバー
Sunny Farris – ベース/ギター/ボーカル
Sarah McKenna – シンセサイザー
Mikayla Mayhew – ベース/ギター
Eliese Dorsay – ドラムス
デビューアルバム『Blackwater Holylight』(2018年)で、サイケやストーナーをベースにした妖艶で酩酊感のあるサウンドで一気に存在感を確立。続く『Veils of Winter』(2019年)ではさらにヘヴィネスを追求し、3rdアルバム『Silence/Motion』(2021年)ではヴァイオリンや呪術的なボーカルを導入し、陰鬱な世界観を開拓。作品ごとに様々な変化を見せ、多くのリスナーに新鮮な驚きを与えてきました。
本作では、Black Sabbathの重厚感、Dead Can Danceの神秘性、サイケデリック・ロックの酩酊感、プログレの構成美という既存のパレットに、シューゲイズの夢幻的なテクスチャーを加え、新たな冒険へ踏み出しています。
その変化が最も顕著なのは、#2 “Torn Reckless”。キャッチーな歌メロを主体にしたポップソング……と思いきや、My Bloody Valentine級のギラギラと乱反射する轟音ギターで大胆にコーティング。もし“when you sleep”をBlackwater Holylightがアレンジしたら……なんて想像が掻き立てられます。
#1 “Wandering Lost”は、浮遊感のあるキーボードとボーカルで穏やかに始まり、ヘヴィなギターで広大なサウンドスケープを構築。中盤は一気にアグレッシブな変拍子リフで翻弄し、再び序盤の展開へと収束します。プログレ譲りのドラマティックな構成が光る名曲。
#3 “Fate Is Forward”は、スロウコアとドゥームゲイズをブレンドした陰鬱なナンバー。幽玄なボーカルが霧のように広がり、ふと気づけば視界不良&遭難寸前。
ラストを飾るのはRadiohead “All I Need”のカバー。原曲を踏襲しつつ、後半はヘヴィなギターで自己流に仕上げるあたりは流石。どの曲も単なるシューゲイズ化に終わらず、色の異なる4つの宝石を生み出しています。その手腕は、さながらサイケ/ドゥーム界の錬金術師!
多彩なアレンジセンスを持つ彼女たちにとって、シューゲイズの導入は変化の序章に過ぎないのかもしれません。次はどんな地平を切り拓くのか、非常に楽しみです。
IressやKing Woman、Shedfromthebodyなどのファンはぜひチェックしてください。

An Empty City
a lucid dream last night
An Empty City
a lucid dream last night
- release date /2025-02-28
- country /China
- gerne /Alternative Metal, Breakcore, Drum&Bass, Gabber, Hardcore, Metalcore, Nu Gaze, Shoegaze
中国・広州を拠点に活動するメタルコア・バンド、An Empty Cityの4thアルバム。
2016年に結成され、現在の編成はMatt Huang(ギター)、Goldfish(ベース)、Chester Tam(ボーカル)、Dante Sum(ドラム) の4名。2022年のメンバーチェンジを経て、最新作ではクリーンボーカルやアトモスフェリックなギターサウンドを取り入れ、メタルコアとシューゲイズのクロスオーバーを開拓しています。
注目曲ピックアップ
#1 “broken mirror”
メタルコアの激しさとシューゲイズの幽玄美を融合した新境地的ナンバー。獰猛なスクリームと儚いクリーンボーカルが交錯し、苦痛と安堵の狭間を揺れる悪夢へと誘う。
#2 “feather”
Deftones風のメランコリックなヘヴィシューゲイズ。胸を裂くような哀しみを歌い上げ、ラストのブレイクダウンとスクリームでどん底へと突き落とす、メタルコア出身ならではのセンスが光る名曲。今年のベストチューン候補の1つ。
#4 “a fleeting mind captive in a shattered dream”
Djent風の激重リフで内臓を搔き回したか思うと、一気にブラストビートで爆走し、サビでダークなシューゲイズにシフト。陰鬱なギターと儚い歌声の対比が秀逸。
後半はメタルコアを軸にしつつも、ブレイクコアなどのエレクトロニック要素を取り入れ、多彩なアレンジでリスナーを惹きつける。青を基調としたアートワークから、fromjoyの影響もありそうです。ラスト2曲はクリーンボーカル主体の甘美な轟音ヘヴィシューゲイズで鮮やかに幕を閉じる。
現時点ではメタルコア要素がやや優勢ですがが、シューゲイズとの融合は非常に巧みで、今後の活動が楽しみです。新生fromjoyやLoatheが好きなリスナーはぜひチェックしてください。
来日への期待
中国出身ということで、アジアの注目アーティストが集まる音楽フェスBiKN shibuyaにもぜひ来てほしいところ。昨年は香港のArchesを呼んだくらいですから、きっとチェックしているはず……観たい人はどんどんBiKNへ声を上げてください。もちろん私も全力でプッシュします!
An Empty City来日のご要望はBiKNのXアカウントへどしどしお寄せくださいませ!

fromjoy
Ataraxia 19.13.8.1.19
fromjoy
Ataraxia 19.13.8.1.19
- release date /2025-06-13
- country /US
- gerne /Ambient, Alternative Metal, Electronica, Industrial, Metalcore, Nu Gaze, Shoegaze
テキサス州ヒューストンのメタルコア・バンドfromjoyの3rd EP。
デビュー作『It Lingers』から描かれてきたIcarus(イカロス)の物語の終幕を担う作品であり、メタルコアを軸にブレイクビーツ〜ドラムンベース、ハイパーポップ、ヴェイパーウェイヴを融合した独自のスタイルをさらに拡張しています。
2024年8月にメインボーカリストDenver Dowlingが脱退し、ギタリスト兼バックボーカリストKellan Kingがボーカル専任にスイッチ。これを契機にメタルコアとエレクトロニックの融合を維持しつつ、ギタリスト兼クリーンボーカル担当のGiovanni Alaniの歌唱パートを大幅に増やし、シューゲイズの要素も取り込むことで、よりメロディアスでアトモスフェリックなサウンドへ進化を遂げました。
注目曲ピックアップ
#1 “Etana”
前作ラスト“Icarus”をサンプリングしたイントロダクション。物語の連続性を印象付ける一曲。
#2 “Monochrome”
エレクトロ、ニューエイジ〜トリップホップ風の幻想的なイントロから、Deftonesを彷彿とさせるメランコリックなヘヴィシューゲイズへシフト。後半は浮遊感のあるサウンドから一転して、ブレイクダウンでVildhjarta風の激重陰鬱リフをぶち込んでくるのが最高にクール! クリーンボーカルが主役で驚いたファンも多かったようですが、あえて最初のシングルにして、新章を印象付ける狙いだったようです。本年度のベストチューン候補の1つ!
#3 “Eternal.Harvest”
メタルコアの激しいパートからサビで一気にシューゲイズへスイッチ。幻想的なエレクトロニックパートとクリーンボーカルが交錯してアクセントを添えます。これ以前にもクリーンボーカルをフィーチャーした曲はありましたが、より自然に溶け込むミックスになっており、シューゲイズらしさがアップしているのがポイント。
#4 “Ataraxia”
#3を踏襲したメタルコアとシューゲイズのクロスオーバー曲。後半にピアノを散りばめたアンビエントなパートを配置し、電脳世界のぼやけた光のエフェクトのような幻想美を演出。イカロスの物語の終焉と新たな幕開けを予感させます。
アートワークが紡ぐ物語
リリース順にアートワークを振り返ると、“Monochrome”では力を失いワイヤーを接続されたイカロスが描かれ、“Eternal.Harvest”ではサナギのような形態へと変化。そしてEP『Ataraxia』では光り輝くエーテル体となり、翼を持つ天使として再生を遂げます。墜落したイカロスが新たな命を得て、再び天へ飛翔することを示唆しているかのようです。このEPは、まさしくバンドの新生を宣言する作品といえるでしょう。
世界観のインスピレーション
fromjoyの世界観は、初期のデジタルアート全般、特にPS2時代のサイバーなヴィジュアルやアニメ『serial experiments lain』が大きなインスピレーション源となっているそうです。ブレイクコア路線のEP『away』の“Digital Armageddon”などでは、アニメ版lainのセリフが挿入されており、クリーンボーカル担当のGiovanniがライブでよくlainのTシャツを着ているあたり、コアなファンであることがうかがえます。ちなみにセルフタイトル作の初回アナログ盤に使用された玲音そっくりのイラストは、デザイナーがfromjoyのサウンドから本能的にlainの影響を嗅ぎ取って生まれたものだそう。
国内外を問わず波及するlainの影響力たるや恐るべしです。本当に世界に偏在することになるとは、当時の視聴者も想像だにしなかったでしょう。
新生fromjoyはメタルコアとシューゲイズの架け橋となるか?
新生fromjoyが、シューゲイズを取り込んだ先にどんな変化を遂げていくのか非常に楽しみです。また、fromjoyのようにメタルコアとシューゲイズのクロスオーバーを試みるアーティストは徐々に増えており、ニューゲイズの次にブレイクするのでは?と期待しています。Kardashevのデスゲイズ(デスメタル×シューゲイズ)に比べ、従来のシューゲイズファンにも受け入れやすい点も魅力です。次のムーブメントとして、早めにチェックしておくのが吉!

Slowwves
Perfect Evasion
Slowwves
Perfect Evasion
- release date /2025-06-04
- country /Thailand
- gerne /Alternative Rock, Dream Pop, Grunge, Shoegaze
タイ・バンコク出身のシューゲイズ・バンド、Slowwvesのデビューアルバム。日本の名門レーベル、P-VINEからリリース。
現在のメンバーは以下の通り。
- Jill(Iya Ngoentaweekoon) – ボーカル・ギター
- Peem(Juckapob Lamulpak) – ギター
- Jump(Pawaris Chotnikhom) – ドラム
結成は2023年。Peemが友人の紹介でJillと出会い、彼女の音楽に感銘を受けて意気投合。Slowdiveのトリビュートイベントを機にJumpが加わり現在の編成となりました。いずれも20代前半の若い世代ですが、2024年3月1日に公開されたデビューシングル“Anywhere Else”によって、シューゲイズファンの間で一躍注目を集める存在となりました。バンド名は、Slow-wave Sleep(徐波睡眠)が由来で、深い眠りがもたらす安らぎや静けさを象徴しています。
SlowdiveやMazzy Star、Megumi Acorda、Zweed n' Rollなどに影響を受けたとされ、ドリーミーかつヘヴィなサウンドが特徴。Wispの幻想美とGlixenの重厚感を融合しながら、流麗なリードとギターソロを多用して深い哀愁を紡ぐ。これこそがSlowwves独自の魅力となっています。また、天使や妖精を連想させるファンタジックなWispに対し、Slowwvesはよりリアリスティックで退廃的な美学を持っている点も見逃せません。特にJillの美しいボーカルは、行き先の見えない閉塞的な現代において、闇の中に差し込む一筋の光のように感じられるでしょう。まさにアルバムタイトル Perfect Evasion(完全なる逃避)が示すとおり、現実の重圧から私たちを解き放ってくれます。
注目曲ピックアップ
#1 “Anywhere Else”
哀愁を帯びたリードギター、夜の静寂に溶けていく淡い歌声、「I wanna be there with you〜Just run away(君と一緒にいたい――逃げ出そう)」の切ないリフレイン。Slowwvesの美学が詰まった名曲。ぜひ夜の街を独り彷徨いながら味わってください。
#2 “Labyrinth”
テンポが速めで、鋭利なギターリフも飛び出す躍動感のあるナンバー。ギターソロからの大サビで哀愁を爆発させるパートは、ライブで盛り上がること間違いなし。
#3 “SWS”
ゆったりとしたテンポで、バンド名の由来になったSlow-wave Sleep(徐波睡眠)=SWSを表現。深い眠りと浅い目覚めを繰り返しながら、夢と現が溶け合っていくような感覚へ誘う。
#5 “Sen”
曲名は映画『千と千尋の神隠し』で、主人公の千尋が与えられた名前「千」に由来しています。歌詞に物語がしっかり反映されているので、じっくり読みながら聴くが吉。切ないサビメロで思わず涙腺崩壊……。
#7 “Evangeline”
同郷のシューゲイズ・バンドDeath of HeatherのギターボーカルThanakarn Tangjaiyenとのコラボレーション。前半はSlowwvesがボーカルを務め、後半からDeath of Heatherへバトンタッチ。ラストは神々しい轟音とともに両者のユニゾンによって幕を閉じます。
いずれも名曲揃いの充実デビュー作。アジアの新世代シューゲイズのクオリティたるや、マジ恐るべし。メロディアスで聴きやすいため、シューゲイズ初心者にもおすすめです。
日本と海外のシューゲイズシーンを繋ぐ架け橋へ
そんなSlowwvesですが、母国タイではWispのバンコク公演でDeath of Heatherとともにサポートアクトを務め、エイプリルブルー、明日の叙景、水中スピカ、cephaloといった日本のアーティストとの共演も活発に行うなど、国内外を問わずファンベースを拡大しています。さらにSXSW Sydney 2025への参加も決定しているため、今後さらなる注目を集めそうです。
そして本作を引っ提げての来日が決定! 10/13(月・祝) 下北沢ベースメントバー、10/14(火) 新宿SPACE TOKYOの2公演となります。ファンはぜひ足を運んで、アジアの新世代シューゲイズの「今」を目撃してください。

Kardashev
Alunea
Kardashev
Alunea
- release date /2025-04-25
- country /US
- gerne /Death Metal, Deathcore, Deathgaze, Post-Metal, Progressive Metal, Shoegaze
アリゾナ州テンピのデスゲイズ・バンド、Kardashevの3rdアルバム。Killswitch EngageやCannibal Corpseなどを擁するヘヴィメタル・レーベル、Metal Blade Recordsからリリース。
Kardashevのバイオグラフィー
Kardashevは2012年に結成され、2021年にMetal Blade Recordsと契約後、2ndアルバム『Liminal Rite』で高い評価を獲得。デスゲイズという独自の音楽性を世に知らしめました。
バンド名は旧ソ連の天体物理学者ニコライ・カルダシェフが提唱した「カルダシェフ・スケール」に由来し、初期のSFをコンセプトとした作品の制作時に名付けられました。本作『Alunea』でもその世界観は継承されており、歌詞にはEP『The Almanac』で登場した人工言語「Alunea」が使用されています。これはメインキャラクターのAtlasとSky-Brotherの2人の対話を表現するために用いられ、世界観を共有する鍵として機能しています。いわばMAGMAのコバイア語みたいなものですね。
制作時のメンバーは以下の通り。
- Mark Garrett(ボーカル)
- Nico Mirolla(ギター)
- Alex Rieth(ベース)
- Sean Lang(ドラム)
デスゲイズとは?
Kardashevが掲げる『デスゲイズ』は、デスメタルとシューゲイズを組み合わせたジャンル名で、ギタリストNico Mirollaが提唱し、『The Almanac』や『The Baring of Shadows』制作期にアトモスフェリックな側面を強める過程で生まれました。フロントマンのMark Garrettも、「デスメタルの攻撃性とシューゲイズの感情性・開放性を融合させたもの」と語っています。引用:Meet the viral YouTuber who’s inventing a new death metal genre 一方で、別のインタビューでは「Instagramで誰かが言い始めたもの」とも語っており、真相ははっきりしません。より深く知りたい方は、YouTubeの解説動画を見るのがおすすめです。Nico Mirollaによって、彼らがデスゲイズという名称にたどり着いた背景が詳しく解説されています。KARDA-CAST - WHAT EVEN IS DEATHGAZE?
そんなデスゲイズですが、追随するアーティストも徐々に現れ、コアなリスナーの間で注目を集めています。
前作『Liminal Rite』の特徴
デスゲイズの魅力を知らしめた前作『Liminal Rite』は、全体的にブラストビートが多用され、デスメタルらしい複雑なギターワークやデスコア風のビートダウンを交えた非常に激しいサウンドを展開。ボーカルはスクリーム/グロウルと情感豊かなクリーンボーカルを使い分け、ブラックゲイズに通じる醜美のコントラストを生み出しています。また、クリーントーンを散りばめた静かなパートもシューゲイズ/ポストロックに通じる浮遊感を醸し出しています。ベースのAlex RiethはHoly Fawnの元メンバーなので、その影響もあるかもしれません。個人的には“Silvered Shadows”と“Cellar of Ghosts”がおすすめです。
本作『Alunea』の印象
本作『Alunea』にも、その作風は引き継がれていますが、アトモスフェリックな要素がやや減少したため、シューゲイズというよりプログ/ポストメタルとデスコアのブレンドに留まっている印象を持ちました。シューゲイズ要素を担っているのは主にクリーンボーカルですが、エクストリームメタルでのクリーンとグロウルの切り替えは、Opethを筆頭に昔から存在し、デスゲイズならではの要素とも言い難いところ。
よって現状ではデスゲイズは発展途上であり、シューゲイズの一派と認定するには少々早いと私は考えます。しかし、最近ではニューゲイズ(ニューメタル×シューゲイズ)の先鋭化にともなって、メタルコアとシューゲイズの融合もしばしば見られることから、デスゲイズの担い手も増えていく可能性がありそうです。早耳のリスナーは、今後の動向を要チェックです。
シューゲイズかどうかはさておき、Kardashevのプログレッシブな構成美や、静と動の対比、そしてボーカリストの表現力は非常に素晴らしいので、次の作品も楽しみにしています。
人工言語「Alunea」が創造する物語
楽曲の世界観に惹かれた方は、ぜひ歌詞にも注目してみてください。アーサー・C・クラークの『幼年期の終わり』やグレッグ・イーガンの『ディアスポラ』にも通じる、壮大かつ哲学的なSFストーリーが展開されています。
ちなみに、人工言語「Alunea」は、バンドが公開している辞書を使えば解読も可能です。本作を深く理解するのに役立つはずなので、ぜひ挑戦してください。Alunea [Language] - Kardashev
過去作のレビューはこちら▶Kardashev『The Almanac』のレビュー


