ダークシューゲイズ・ドリームポップのベストアルバム(2025年版)ダークシューゲイズ・ドリームポップのベストアルバム(2025年版)

BEST OF
DARK
SHOEGAZE & DREAMPOP
2025

Orchid Mantis

Possession Pact

Orchid Mantis

Possession Pact

  • release date /
    2025-04-25
  • country /
    US
  • gerne /
    Ambient, Dream Pop, Indie Pop, Slowcore
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Pop
Extreme
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Pop
Extreme

アトランタを拠点とするローファイ・ドリームポップ・アーティスト、Orchid Mantisの13thアルバム(※Spotify準拠)。

Orchid Mantisは、シンガーソングライターのThomas Howardによるソロ・プロジェクト。これまでローファイでノスタルジックなインディーポップ/アンビエントで多くのリスナーを夢見心地にしてきましたが、本作では作風を大きく変化させ、Low、Bedhead、Codeineといった90年代の陰鬱なスロウコアにフォーカスしています。

深いリバーブをまとったギターの音色は、宵闇にしたたる雨音のよう。そして削ぎ落とされたノーツの間から、Thomasの歌声が幽霊のように浮かび上がります。過去作が「草原でウトウトお昼寝」だとすれば、本作は「目覚めたら深夜の霊安室に安置されていた」くらいのギャップ。全編に渡って冷たくも甘美なメランコリーが満ちていて、じっくり落ちていきたい時にぴったりです。

イチオシは#4 “All The Passing Days”。葬送曲のような物悲しいメロディが、美しい思い出たちを静かに灰へと還していく。どの曲も徹底してスローテンポなので、人によっては平坦で退屈に感じるかもしれませんが、ボーカルものとインストがうまく配置され、ほどよい起伏が楽しめる点も好印象。

アートワークの時点でただならぬ雰囲気がありましたが、想像以上の変化で大興奮でした。2025年のドリームポップAOTY筆頭候補!

散▽巡

渦流に鳴く

散▽巡

渦流に鳴く

  • release date /
    2025-03-29
  • country /
    Japan
  • gerne /
    Alternative Rock, Ambient, Grunge, Post-Rock, Shoegaze, Slowcore
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Extreme
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Pop
Extreme

大阪のシューゲイズ/オルタナティブロック・バンド、散▽巡(さんざめく)の1st EP。

2023年3月26日結成。本作の制作メンバーはぺん(ギター/ボーカル)、あかね(ギター)、しま(ベース)、yuyA(サポートドラム)の4名。

私が散▽巡を知ったのは2024年7月。東京初ライブの告知をきっかけに音源をチェックしたところ、そのダークな世界観に触れてたちまち虜になりました。

儚く繊細なパートはSigur Rós、ポエトリーリーディングと激情のダイナミズムはenvy、日本語で仄暗い情念を歌い上げる姿には天野月子がふと浮かんだりと、既存のシューゲイズに収まらない多彩な要素が絡み合い、独自の世界観を創り上げています。とりわけ静と動のダイナミズムは圧巻で、陽光きらめく草原から暗黒の深海までをも横断するような体験をリスナーにもたらします。

そして特筆すべきはぺん氏のボーカルの表現力。サウンドの起伏に沿って、母が子を寝かしつけるような優しい囁きや、轟音を切り裂くほどのエモーショナルな叫びも巧みに操り、語り手として強烈な存在感を放ちます。ぺん氏が紡ぐ歌詞も、哀しみや痛み、嘆きといった生々しい感情が渦を巻き、日本語ならではの陰影もあいまって聴く者の心を強く揺さぶります。

散▽巡『渦流に鳴く』各曲レビュー

#1 “光芒”
光が降り注ぐようなギターと儚げなウィスパーボイスが溶け合う美しいイントロダクション。

#2 “残鳴”
ポストロック風にゆったり進行しながら、徐々にボルテージを上げ、美轟音を解き放ちカタルシスを演出。

#3 “=rand(scp)”
陰鬱なメロディとともにノイズが激しく渦巻き、カマイタチのように全身を切り裂いていく。本作で最もダークな1曲。タイトルの「scp」というフレーズに思わずニヤリ(狙ってますよね?)。

#4 “息吹”
トライバルなリズムによって陶酔へと誘う新境地的ナンバー。降り注ぐギターの美しさといったら、神々しさすら感じられるほど。

#5 “雫の中の彗星”
壊れそうなほど繊細なサウンドスケープに「知りたくなかった」のリフレインが切なく響く。突如轟音が波のように押し寄せたと思うと、また静寂が戻り、切なさをいっそう際立たせる。

#6 “浮遊” ※CD限定ボーナストラック
岡山のシューゲイズ・バンドlittle lamplightのギタリスト黒田麻衣を迎えた美轟音シューゲイズ。トリプルギターが織りなす重厚なテスクチャーと美しいメロディの融合はまさしくシューゲイズの真骨頂。この曲のためにCDをゲットする価値あり!

光と闇、静と動、美と狂気──そのすべてが渦流のように交錯する全6曲。散▽巡の美学を存分に味わえること間違いなし。

さらに会場限定で入手できるデモ音源には、『サンザメク』や『ニヒリズム』、『崩潰』といったライブの定番曲も多数収録。いずれも名曲なので、ライブに行かれる際はぜひゲットしてください。

本作リリース後に神崎渚(ドラム)が正式加入し、バンドが本格始動した今、「さんざめく」(ざわめき立つ)の言葉どおり、日本のシューゲイズ界を大いに賑わせてほしいですね。

Presence of Soul

Silent Sins

Presence of Soul

Silent Sins

  • release date /
    2025-05-03
  • country /
    Japan
  • gerne /
    Ambient, Dark Ambient, Inprovisation, Noise, Post-Rock
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Slow
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Pop
Extreme
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Dark
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Pop
Extreme

東京のポストメタル/ドゥームゲイズ・バンド、Presence of Soulのライブアルバム。

2024年7月24日に吉祥寺NEPOで行われた3人編成による即興のノイズ/ダークアンビエントライブを音源化した作品です。

ライブメンバーは、Yuki(ボーカル、シンセサイザー、ノイズ)、Yoshi(ギター)、Takurow(ベース)の3名。ダークアンビエントと聞いて「暗くて退屈」と思うのはもってのほか。わずか約30分間で、暗黒の宇宙を旅するような壮大な体験が楽しめます。

#1 “Silent”は、Presence of Soulの繊細でメロディアスな側面が味わえる瞑想系ポストロック。柔らかなノイズを背景に、ポエトリーリーディング、幽玄なクリーンボーカル、重層的なギターが溶け合い、無数の星々が瞬く銀河のような神秘的な光景を浮かび上がらせる。ああ、アムロ……刻(とき)が見える……!

#2 “Board the Shipwreck - Drift”は、不安を掻き立てるノイジーなギターとともに、マントラのような歌声が延々と唱えられ、まるで闇落ちしたDead Can Danceのごときダークなサウンドを展開。後半では歪んだギターと狂気を帯びた歌声が重なり、怖気立つほどの凶悪なノイズが襲いかかる。大音量で恐怖に怯えながら聴くのもよし、暗闇で目を閉じてじっくり浸るのもよし。あるいはあえてボリュームを控えめにして聴くのもオススメ。ノイズに不慣れな方はぜひお試しあれ。

私はこのライブを現地で体験しましたが、暗闇に包まれて演者の姿はほとんど見えず、VJの映像だけが目に映る状態だったため、自分が立っているのか浮いているのかすら分からない不思議な感覚に陥りました。音響面では特にTakurow氏のベースが印象的で、重低音による振動が床を通して全身へ伝わり、内臓が揺れるほど強烈だったのをよく覚えています。音源だとその振動はさすがに伝わってきませんが、次の機会にぜひ現地で体験してください。

なお、本作はCD限定で、売り切れ次第終了となります。ファンは早めにゲットしましょう。購入者はライブに使用された映像付きの音源をダウンロードできるので、爆音で再生できる環境があれば、ぜひ最大音量でお楽しみください。おそらくライブハウスに近い感動が得られるでしょう。もし耐震レベルが低くて建物が倒壊しても、当サイトは一切保証しないのであしからず。

2beef

Orbs

2beef

Orbs

  • release date /
    2025-07-02
  • country /
    Japan
  • gerne /
    Alternative Rock, Grunge, Nu Gaze, Post-Rock, Shoegaze
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Pop
Extreme
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Extreme

東京のシューゲイズ・バンド、2beefの2nd EP。

前作の1st EPでは、NothingやWhirrといったUS産ヘヴィシューゲイズから、20年代のニューゲイズまで幅広く吸収しつつ、ブレイクコアをも取り込んだ感度の高いサウンドで、多くのリスナーを驚かせました。また、90〜00年代のアニメやゲームなどのオタクカルチャーを融合した世界観も、彼らの大きな特徴です。

以前は3ピースでしたが、ドラムが脱退し、現在の正規メンバーはウエダ(ギター・ボーカル)と梁取瑶(ベース)の2名。※梁取瑶氏はアートワークやグッズのデザインも担当。

本作は、異世界転生をテーマにしたストーリー性のある構成となっています。では、さっそく異世界へとダイブしてみましょう。

2beef『Orbs』各曲レビュー

#1 “Helvetica standard”

幻想的なイントロに続き、ヘヴィなギターとマイルドな歌声が重なって陶酔へと誘うオープナー。アトモスフェリックなパートはポストロックの質感もにじませ、魔法に魅了されるような心地良さが味わえます。タイトル「Helvetica standard」は、あらゐけいいち氏の漫画由来のオタク的なリファレンスであると同時に、Helveticaフォントの汎用性の高さを踏まえたデザイン的な意味も込められているかもしれません。

#2 “(where are you?)”

ギターの淡いレイヤーにピアノやささやき声が溶け込み、現実と幻想の境界を曖昧にするサウンドコラージュ。最後に聞こえる微かな「さようなら」の残響が、そっと空虚感を植え付ける。

#3 “unreal”

スローテンポでじっくりメランコリーを紡ぐヘヴィシューゲイズ。轟音の中に切ない歌声が響き渡り、狂おしいほどに胸を締め付ける。本作のハイライト。

#4 “if you are still here”

#3を継承したヘヴィなサウンドながらも、光が差し込むような開放感があり、微かな希望を漂わせながら、物語は幕を閉じます。「もしまだあなたがここにいたら」──主人公は元の世界へ帰ったのでしょうか……それとも──?

4曲12分とコンパクトながら起伏のある構成で、想像力が掻き立られること間違いなし。異世界転生ものは多くの人気作品がありますが、皆さんはどんな物語を思い浮かべましたか? 個人的には『エルハザード』を思い出して、胸が熱くなりました。

2beefの世界観を表現するアートワーク

2beefはスタイリッシュなアートワークも大きな見どころ。Helvetica系のサンセリフ体とブルーを基調としたデザインで統一され、Y2K的デジタルアートの雰囲気を巧みに表現しています。それでいて、普段の梁取瑶氏は有機的なデザインがメインという点も興味深いところ。気になる方は、ぜひ彼のアート活動もチェックしてください。梁取 瑶 Yoh Yanatori(Instagram)

ライブ活動再開、海外勢との交流の期待

2beefは、ドラムとギターのサポートメンバーを迎え、2025年8月29日よりライブ活動を再開しました。私も現地で拝見しましたが、出音や佇まいはまさに最前線のUSシューゲイズそのもので感動しました。USシューゲイズ勢が来日したらガンガン対バンしてほしいですね!

今後のライブ情報は、2beefのXまたはInstagramでチェックしてください。NothingやWhirr、Leaving Time、Trauma Ray、Glareなどが好きな方はぜひ!

バンド名「2beef」を考察

2beef」=「2つの牛肉」と、一見意味のないフレーズですが、名は体を表すもの。彼らのアイデンティティがこっそり仕込まれているに違いありません。私は音楽性や世界観から、この2案を導き出しました。

  1. 2beat説:ハードコア・パンクでよく用いられる2ビートからの連想。
  2. ToHeart説:Leafの名作ADV『ToHeart』から派生し、2heart → 2beef という遊び心。heart(心)の対義語としてbeef(肉)に置き換えた?

オタクカルチャーに精通した彼らなら、こうした言葉遊びもあり得そうです。気になる正解は、ぜひライブで本人に確認してみてください(笑)。

YouTubeは未配信のため、試聴用に『Kanon』を貼っておきます。本作には未収録ですのでご了承ください。

前作のレビューはこちら▶2beed『Lucky』レビュー

Blackwater Holylight

If You Only Knew

Blackwater Holylight

If You Only Knew

  • release date /
    2025-04-18
  • country /
    US
  • gerne /
    Doomgaze, Post-Metal, Progressive, Psychedelic Rock, Shoegaze,
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Pop
Extreme
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Pop
Extreme

オレゴン州ポートランド出身のサイケデリック・ドゥーム・ロック・バンドBlackwater Holylightの1st EP。2016年に結成され、独自の実験精神あふれる音楽性で注目を集めてきた女性4人組のバンドです。

現在のメンバー

Sunny Farris – ベース/ギター/ボーカル
Sarah McKenna – シンセサイザー
Mikayla Mayhew – ベース/ギター
Eliese Dorsay – ドラムス

デビューアルバム『Blackwater Holylight』(2018年)で、サイケやストーナーをベースにした妖艶で酩酊感のあるサウンドで一気に存在感を確立。続く『Veils of Winter』(2019年)ではさらにヘヴィネスを追求し、3rdアルバム『Silence/Motion』(2021年)ではヴァイオリンや呪術的なボーカルを導入し、陰鬱な世界観を開拓。作品ごとに様々な変化を見せ、多くのリスナーに新鮮な驚きを与えてきました。

本作では、Black Sabbathの重厚感、Dead Can Danceの神秘性、サイケデリック・ロックの酩酊感、プログレの構成美という既存のパレットに、シューゲイズの夢幻的なテクスチャーを加え、新たな冒険へ踏み出しています。

その変化が最も顕著なのは、#2 “Torn Reckless”。キャッチーな歌メロを主体にしたポップソング……と思いきや、My Bloody Valentine級のギラギラと乱反射する轟音ギターで大胆にコーティング。もし“when you sleep”をBlackwater Holylightがアレンジしたら……なんて想像が掻き立てられます。

#1 “Wandering Lost”は、浮遊感のあるキーボードとボーカルで穏やかに始まり、ヘヴィなギターで広大なサウンドスケープを構築。中盤は一気にアグレッシブな変拍子リフで翻弄し、再び序盤の展開へと収束します。プログレ譲りのドラマティックな構成が光る名曲。

#3 “Fate Is Forward”は、スロウコアとドゥームゲイズをブレンドした陰鬱なナンバー。幽玄なボーカルが霧のように広がり、ふと気づけば視界不良&遭難寸前。

ラストを飾るのはRadiohead “All I Need”のカバー。原曲を踏襲しつつ、後半はヘヴィなギターで自己流に仕上げるあたりは流石。どの曲も単なるシューゲイズ化に終わらず、色の異なる4つの宝石を生み出しています。その手腕は、さながらサイケ/ドゥーム界の錬金術師!

多彩なアレンジセンスを持つ彼女たちにとって、シューゲイズの導入は変化の序章に過ぎないのかもしれません。次はどんな地平を切り拓くのか、非常に楽しみです。

IressやKing Woman、Shedfromthebodyなどのファンはぜひチェックしてください。

An Empty City

a lucid dream last night

An Empty City

a lucid dream last night

  • release date /
    2025-02-28
  • country /
    China
  • gerne /
    Alternative Metal, Breakcore, Drum&Bass, Gabber, Hardcore, Metalcore, Nu Gaze, Shoegaze
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Pop
Extreme
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Pop
Extreme

中国・広州を拠点に活動するメタルコア・バンド、An Empty Cityの4thアルバム。

2016年に結成され、現在の編成はMatt Huang(ギター)、Goldfish(ベース)、Chester Tam(ボーカル)、Dante Sum(ドラム) の4名。2022年のメンバーチェンジを経て、最新作ではクリーンボーカルやアトモスフェリックなギターサウンドを取り入れ、メタルコアとシューゲイズのクロスオーバーを開拓しています。

注目曲ピックアップ

#1 “broken mirror”
メタルコアの激しさとシューゲイズの幽玄美を融合した新境地的ナンバー。獰猛なスクリームと儚いクリーンボーカルが交錯し、苦痛と安堵の狭間を揺れる悪夢へと誘う。

#2 “feather”
Deftones風のメランコリックなヘヴィシューゲイズ。胸を裂くような哀しみを歌い上げ、ラストのブレイクダウンとスクリームでどん底へと突き落とす、メタルコア出身ならではのセンスが光る名曲。今年のベストチューン候補の1つ。

#4 “a fleeting mind captive in a shattered dream”
Djent風の激重リフで内臓を搔き回したか思うと、一気にブラストビートで爆走し、サビでダークなシューゲイズにシフト。陰鬱なギターと儚い歌声の対比が秀逸。

後半はメタルコアを軸にしつつも、ブレイクコアなどのエレクトロニック要素を取り入れ、多彩なアレンジでリスナーを惹きつける。青を基調としたアートワークから、fromjoyの影響もありそうです。ラスト2曲はクリーンボーカル主体の甘美な轟音ヘヴィシューゲイズで鮮やかに幕を閉じる。

現時点ではメタルコア要素がやや優勢ですがが、シューゲイズとの融合は非常に巧みで、今後の活動が楽しみです。新生fromjoyやLoatheが好きなリスナーはぜひチェックしてください。

来日への期待

中国出身ということで、アジアの注目アーティストが集まる音楽フェスBiKN shibuyaにもぜひ来てほしいところ。昨年は香港のArchesを呼んだくらいですから、きっとチェックしているはず……観たい人はどんどんBiKNへ声を上げてください。もちろん私も全力でプッシュします!

An Empty City来日のご要望はBiKNのXアカウントへどしどしお寄せくださいませ!

fromjoy

Ataraxia 19.13.8.1.19

fromjoy

Ataraxia 19.13.8.1.19

  • release date /
    2025-06-13
  • country /
    US
  • gerne /
    Ambient, Alternative Metal, Electronica, Industrial, Metalcore, Nu Gaze, Shoegaze
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Pop
Extreme
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Pop
Extreme

テキサス州ヒューストンのメタルコア・バンドfromjoyの3rd EP。

デビュー作『It Lingers』から描かれてきたIcarus(イカロス)の物語の終幕を担う作品であり、メタルコアを軸にブレイクビーツ〜ドラムンベース、ハイパーポップ、ヴェイパーウェイヴを融合した独自のスタイルをさらに拡張しています。

2024年8月にメインボーカリストDenver Dowlingが脱退し、ギタリスト兼バックボーカリストKellan Kingがボーカル専任にスイッチ。これを契機にメタルコアとエレクトロニックの融合を維持しつつ、ギタリスト兼クリーンボーカル担当のGiovanni Alaniの歌唱パートを大幅に増やし、シューゲイズの要素も取り込むことで、よりメロディアスでアトモスフェリックなサウンドへ進化を遂げました。

注目曲ピックアップ

#1 “Etana”
前作ラスト“Icarus”をサンプリングしたイントロダクション。物語の連続性を印象付ける一曲。

#2 “Monochrome”
エレクトロ、ニューエイジ〜トリップホップ風の幻想的なイントロから、Deftonesを彷彿とさせるメランコリックなヘヴィシューゲイズへシフト。後半は浮遊感のあるサウンドから一転して、ブレイクダウンでVildhjarta風の激重陰鬱リフをぶち込んでくるのが最高にクール! クリーンボーカルが主役で驚いたファンも多かったようですが、あえて最初のシングルにして、新章を印象付ける狙いだったようです。本年度のベストチューン候補の1つ!

#3 “Eternal.Harvest”
メタルコアの激しいパートからサビで一気にシューゲイズへスイッチ。幻想的なエレクトロニックパートとクリーンボーカルが交錯してアクセントを添えます。これ以前にもクリーンボーカルをフィーチャーした曲はありましたが、より自然に溶け込むミックスになっており、シューゲイズらしさがアップしているのがポイント。

#4 “Ataraxia”
#3を踏襲したメタルコアとシューゲイズのクロスオーバー曲。後半にピアノを散りばめたアンビエントなパートを配置し、電脳世界のぼやけた光のエフェクトのような幻想美を演出。イカロスの物語の終焉と新たな幕開けを予感させます。

アートワークが紡ぐ物語

リリース順にアートワークを振り返ると、“Monochrome”では力を失いワイヤーを接続されたイカロスが描かれ、“Eternal.Harvest”ではサナギのような形態へと変化。そしてEP『Ataraxia』では光り輝くエーテル体となり、翼を持つ天使として再生を遂げます。墜落したイカロスが新たな命を得て、再び天へ飛翔することを示唆しているかのようです。このEPは、まさしくバンドの新生を宣言する作品といえるでしょう。

世界観のインスピレーション

fromjoyの世界観は、初期のデジタルアート全般、特にPS2時代のサイバーなヴィジュアルやアニメ『serial experiments lain』が大きなインスピレーション源となっているそうです。ブレイクコア路線のEP『away』の“Digital Armageddon”などでは、アニメ版lainのセリフが挿入されており、クリーンボーカル担当のGiovanniがライブでよくlainのTシャツを着ているあたり、コアなファンであることがうかがえます。ちなみにセルフタイトル作の初回アナログ盤に使用された玲音そっくりのイラストは、デザイナーがfromjoyのサウンドから本能的にlainの影響を嗅ぎ取って生まれたものだそう。

国内外を問わず波及するlainの影響力たるや恐るべしです。本当に世界に偏在することになるとは、当時の視聴者も想像だにしなかったでしょう。

新生fromjoyはメタルコアとシューゲイズの架け橋となるか?

新生fromjoyが、シューゲイズを取り込んだ先にどんな変化を遂げていくのか非常に楽しみです。また、fromjoyのようにメタルコアとシューゲイズのクロスオーバーを試みるアーティストは徐々に増えており、ニューゲイズの次にブレイクするのでは?と期待しています。Kardashevのデスゲイズ(デスメタル×シューゲイズ)に比べ、従来のシューゲイズファンにも受け入れやすい点も魅力です。次のムーブメントとして、早めにチェックしておくのが吉!

Slowwves

Perfect Evasion

Slowwves

Perfect Evasion

  • release date /
    2025-06-04
  • country /
    Thailand
  • gerne /
    Alternative Rock, Dream Pop, Grunge, Shoegaze
Light
Dark
Soft
Heavy
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Pop
Extreme
Light
Dark
Soft
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Pop
Extreme

タイ・バンコク出身のシューゲイズ・バンド、Slowwvesのデビューアルバム。日本の名門レーベル、P-VINEからリリース。

現在のメンバーは以下の通り。

  • Jill(Iya Ngoentaweekoon) – ボーカル・ギター
  • Peem(Juckapob Lamulpak) – ギター
  • Jump(Pawaris Chotnikhom) – ドラム

結成は2023年。Peemが友人の紹介でJillと出会い、彼女の音楽に感銘を受けて意気投合。Slowdiveのトリビュートイベントを機にJumpが加わり現在の編成となりました。いずれも20代前半の若い世代ですが、2024年3月1日に公開されたデビューシングル“Anywhere Else”によって、シューゲイズファンの間で一躍注目を集める存在となりました。バンド名は、Slow-wave Sleep(徐波睡眠)が由来で、深い眠りがもたらす安らぎや静けさを象徴しています。

SlowdiveやMazzy Star、Megumi Acorda、Zweed n' Rollなどに影響を受けたとされ、ドリーミーかつヘヴィなサウンドが特徴。Wispの幻想美とGlixenの重厚感を融合しながら、流麗なリードとギターソロを多用して深い哀愁を紡ぐ。これこそがSlowwves独自の魅力となっています。また、天使や妖精を連想させるファンタジックなWispに対し、Slowwvesはよりリアリスティックで退廃的な美学を持っている点も見逃せません。特にJillの美しいボーカルは、行き先の見えない閉塞的な現代において、闇の中に差し込む一筋の光のように感じられるでしょう。まさにアルバムタイトル Perfect Evasion(完全なる逃避)が示すとおり、現実の重圧から私たちを解き放ってくれます。

注目曲ピックアップ

#1 “Anywhere Else”
哀愁を帯びたリードギター、夜の静寂に溶けていく淡い歌声、「I wanna be there with you〜Just run away(君と一緒にいたい――逃げ出そう)」の切ないリフレイン。Slowwvesの美学が詰まった名曲。ぜひ夜の街を独り彷徨いながら味わってください。

#2 “Labyrinth”
テンポが速めで、鋭利なギターリフも飛び出す躍動感のあるナンバー。ギターソロからの大サビで哀愁を爆発させるパートは、ライブで盛り上がること間違いなし。

#3 “SWS”
ゆったりとしたテンポで、バンド名の由来になったSlow-wave Sleep(徐波睡眠)=SWSを表現。深い眠りと浅い目覚めを繰り返しながら、夢と現が溶け合っていくような感覚へ誘う。

#5 “Sen”
曲名は映画『千と千尋の神隠し』で、主人公の千尋が与えられた名前「千」に由来しています。歌詞に物語がしっかり反映されているので、じっくり読みながら聴くが吉。切ないサビメロで思わず涙腺崩壊……。

#7 “Evangeline”
同郷のシューゲイズ・バンドDeath of HeatherのギターボーカルThanakarn Tangjaiyenとのコラボレーション。前半はSlowwvesがボーカルを務め、後半からDeath of Heatherへバトンタッチ。ラストは神々しい轟音とともに両者のユニゾンによって幕を閉じます。

いずれも名曲揃いの充実デビュー作。アジアの新世代シューゲイズのクオリティたるや、マジ恐るべし。メロディアスで聴きやすいため、シューゲイズ初心者にもおすすめです。

日本と海外のシューゲイズシーンを繋ぐ架け橋へ

そんなSlowwvesですが、母国タイではWispのバンコク公演でDeath of Heatherとともにサポートアクトを務め、エイプリルブルー、明日の叙景、水中スピカ、cephaloといった日本のアーティストとの共演も活発に行うなど、国内外を問わずファンベースを拡大しています。さらにSXSW Sydney 2025への参加も決定しているため、今後さらなる注目を集めそうです。

そして本作を引っ提げての来日が決定! 10/13(月・祝) 下北沢ベースメントバー、10/14(火) 新宿SPACE TOKYOの2公演となります。ファンはぜひ足を運んで、アジアの新世代シューゲイズの「今」を目撃してください。

Slowwves来日公演についてはこちら▶

Kardashev

Alunea

Kardashev

Alunea

  • release date /
    2025-04-25
  • country /
    US
  • gerne /
    Death Metal, Deathcore, Deathgaze, Post-Metal, Progressive Metal, Shoegaze
Light
Dark
Soft
Heavy
Clear
Noisy
Slow
Fast
Pop
Extreme
Light
Dark
Soft
Heavy
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Pop
Extreme

アリゾナ州テンピのデスゲイズ・バンド、Kardashevの3rdアルバム。Killswitch EngageやCannibal Corpseなどを擁するヘヴィメタル・レーベル、Metal Blade Recordsからリリース。

Kardashevのバイオグラフィー

Kardashevは2012年に結成され、2021年にMetal Blade Recordsと契約後、2ndアルバム『Liminal Rite』で高い評価を獲得。デスゲイズという独自の音楽性を世に知らしめました。

バンド名は旧ソ連の天体物理学者ニコライ・カルダシェフが提唱した「カルダシェフ・スケール」に由来し、初期のSFをコンセプトとした作品の制作時に名付けられました。本作『Alunea』でもその世界観は継承されており、歌詞にはEP『The Almanac』で登場した人工言語「Alunea」が使用されています。これはメインキャラクターのAtlasとSky-Brotherの2人の対話を表現するために用いられ、世界観を共有する鍵として機能しています。いわばMAGMAのコバイア語みたいなものですね。

制作時のメンバーは以下の通り。

  • Mark Garrett(ボーカル)
  • Nico Mirolla(ギター)
  • Alex Rieth(ベース)
  • Sean Lang(ドラム)

デスゲイズとは?

Kardashevが掲げる『デスゲイズ』は、デスメタルとシューゲイズを組み合わせたジャンル名で、ギタリストNico Mirollaが提唱し、『The Almanac』や『The Baring of Shadows』制作期にアトモスフェリックな側面を強める過程で生まれました。フロントマンのMark Garrettも、「デスメタルの攻撃性とシューゲイズの感情性・開放性を融合させたもの」と語っています。引用:Meet the viral YouTuber who’s inventing a new death metal genre 一方で、別のインタビューでは「Instagramで誰かが言い始めたもの」とも語っており、真相ははっきりしません。より深く知りたい方は、YouTubeの解説動画を見るのがおすすめです。Nico Mirollaによって、彼らがデスゲイズという名称にたどり着いた背景が詳しく解説されています。KARDA-CAST - WHAT EVEN IS DEATHGAZE?

そんなデスゲイズですが、追随するアーティストも徐々に現れ、コアなリスナーの間で注目を集めています。

前作『Liminal Rite』の特徴

デスゲイズの魅力を知らしめた前作『Liminal Rite』は、全体的にブラストビートが多用され、デスメタルらしい複雑なギターワークやデスコア風のビートダウンを交えた非常に激しいサウンドを展開。ボーカルはスクリーム/グロウルと情感豊かなクリーンボーカルを使い分け、ブラックゲイズに通じる醜美のコントラストを生み出しています。また、クリーントーンを散りばめた静かなパートもシューゲイズ/ポストロックに通じる浮遊感を醸し出しています。ベースのAlex RiethはHoly Fawnの元メンバーなので、その影響もあるかもしれません。個人的には“Silvered Shadows”と“Cellar of Ghosts”がおすすめです。

本作『Alunea』の印象

本作『Alunea』にも、その作風は引き継がれていますが、アトモスフェリックな要素がやや減少したため、シューゲイズというよりプログ/ポストメタルとデスコアのブレンドに留まっている印象を持ちました。シューゲイズ要素を担っているのは主にクリーンボーカルですが、エクストリームメタルでのクリーンとグロウルの切り替えは、Opethを筆頭に昔から存在し、デスゲイズならではの要素とも言い難いところ。

よって現状ではデスゲイズは発展途上であり、シューゲイズの一派と認定するには少々早いと私は考えます。しかし、最近ではニューゲイズ(ニューメタル×シューゲイズ)の先鋭化にともなって、メタルコアとシューゲイズの融合もしばしば見られることから、デスゲイズの担い手も増えていく可能性がありそうです。早耳のリスナーは、今後の動向を要チェックです。

シューゲイズかどうかはさておき、Kardashevのプログレッシブな構成美や、静と動の対比、そしてボーカリストの表現力は非常に素晴らしいので、次の作品も楽しみにしています。

人工言語「Alunea」が創造する物語

楽曲の世界観に惹かれた方は、ぜひ歌詞にも注目してみてください。アーサー・C・クラークの『幼年期の終わり』やグレッグ・イーガンの『ディアスポラ』にも通じる、壮大かつ哲学的なSFストーリーが展開されています。

ちなみに、人工言語「Alunea」は、バンドが公開している辞書を使えば解読も可能です。本作を深く理解するのに役立つはずなので、ぜひ挑戦してください。Alunea [Language] - Kardashev

過去作のレビューはこちら▶Kardashev『The Almanac』のレビュー

Trevor Something

The Shadow

Trevor Something

The Shadow

  • release date /
    2025-04-04
  • country /
    US
  • gerne /
    Darksynth, Darkwave, Dreamwave, Electronica, Gothic, Synth Pop, Synthwave
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Extreme
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Extreme

フロリダ州マイアミを拠点に活動するシンセウェイヴ・アーティスト、Trevor Somethingの12thアルバム。

Trevor Somethingは、2013年に活動を開始し、2014年にデビューアルバム『Synthetic Love』をリリース。YouTubeのシンセウェイヴ専門チャンネル『NewRetroWave』で紹介され、大きな注目を集めました。特にデビューアルバム収録の“Fade Away”と2014年発表のミックステープ『Trevor Something Does Not Exist』は、2025年8月時点で500万回以上再生されています。

以降もシンセウェイヴを基調としつつ、80年代のニューウェイヴやゴス/ポストパンクの影響を色濃く取り入れ、ダークかつロマンティックな独自のサウンドを築いてきました。2022年にリリースされた『The Death Of』では「最後のアルバムかもしれない」という意味深な発言がありましたが、その後も2024年の『Archetypes』、そして2025年の本作『The Shadow』と、精力的に活動を継続しています。

本作『The Shadow』は、2019〜2024年に制作され、約1年かけてミックスされた作品で、「The Shadowはエゴの暗く光の当たらない側面。自分自身の暗部を理解すれば、光と闇の調和が得られる」と語る通り、これまでで最もダークでメランコリックなサウンドとなりました。

オーロラのように美しいシンセをまとい、ミニマルなベースとキックにのせて、甘い歌声がなめらかに響き渡る様は、まるでネオンの海を彷徨う幽霊たちの哀歌のよう。耳にしたものを瞬く間に虜にします。また、過去作に収録されたThe CureやDepeche Modeのカバーからも分かるように、ゴスの官能美・退廃美を備えている点も、Trevor Somethingならではの魅力となっています。

名曲揃いの中から特にオススメしたいのが、ジョン・カーペンター風の冷たいピアノを散りばめた#6 “Cruel Intentions”。終盤に聖歌のように荘厳なアウトロへシフトする展開がお見事。比較的アップテンポでキャッチーな#7 “Numb The Pain”も、クリスタルのような透明感のあるトーンのシンセが印象的。Trevor Something史上トップクラスの深いリバーブに包まれる#9 “Cry Until I Die”は、HEALTHの幽玄インダストリアル・ロックにも通じる趣もあり、一般的なシンセウェイヴにはない奥行きを生み出しています。

シンセウェイヴ好きに留まらず、ゴス/ダークウェイヴ/ポストパンクやドリームポップ/シューゲイズのファンにもおすすめの逸品。特にHouse of HarmやCD Ghost、HEALTHが好きなリスナーは必聴です。

最後に「アルバムが多すぎてどこから聴けばいいの?」という人のために、私のオススメを挙げておきます。

【ポップ系】

【ダーク系】

【シューゲイズ/ポストパンク系】

【ドリームポップ系】

他のアルバムもいずれ劣らぬ素晴らしさなので、「どこから聴いても問題なし!」が私の結論です(笑)。

greedi

Haymaking

greedi

Haymaking

  • release date /
    2025-02-28
  • country /
    US
  • gerne /
    Alternative Rock, Grunge, Shoegaze, Slowcore
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Extreme
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Extreme

テネシー州ナッシュビルのソロ・シューゲイズ・アーティスト、greediの最新EP。

WhirrやDeftonesの血を受け継ぐヘヴィでメランコリックなシューゲイズが特徴で、開幕の#1 “Writhe”と#2 “Like You”で、一気にひんやりとした冷気に包んでくれます。

#4 “Soft Crash”では疾走シューゲイズに挑戦し、#5 “Safe”はSlowdive風の淡く揺らめくサウンドで、雪原に陽光が降り注ぐような壮大さを演出するなど、表現の幅が着実に広がっています。若手ニューゲイズ勢の中でも、しっかりと正統派寄りなシューゲイズを鳴らしていて好印象。

ボーカルの上手さも光っており、全体的なポテンシャルは高水準。ただし、サウンドプロダクションにはDIY感が残り、まだまだ伸び代が感じられます。それを解消した上で、強力な個性が加われば、さらに魅力的な作品になりそうです。

最新シングル“fatty”以降はセルフプロデュースにも挑戦し、「創作の幅が広がり、自分の全てを曲に込められるようになった」と喜んでいるもよう。実際に聴いてみたところ、音の臨場感が格段に増していて素晴らしかったです。今後の成長が楽しみですね。

OVERSIZE

Vital Signs

OVERSIZE

Vital Signs

  • release date /
    2025-02-28
  • country /
    UK
  • gerne /
    Alternative Rock, Emo, Grunge, Nu Gaze, Shoegaze
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Pop
Extreme
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Pop
Extreme

UK南西イングランド出身のシューゲイズ・バンド、OVERSIZEによる1stアルバム。LoatheやPaleduskらを擁するSharpTone Recordsよりリリース。

制作時のメンバーは以下の通り。

  • Sam Shutler(ドラム)
  • Sam McCauley(ボーカル)
  • George Lewis(ベース)
  • Tazz Edwards(ギター)
  • Lewis  Lennane‑Emm(ギター)

EP2作を経てリリースされた本作のテーマは「喪失の悲しみとその受容」で、Sam McCauleyが母親を亡くした体験が元になっています。

90年代オルタナティブ・ロックやエモ、グランジの要素を取り込んだヘヴィなサウンドが彼らの醍醐味。SwervedriverやCatherine Wheelを思わせる轟音ギターを継承しつつ、本作ではよりアトモスフェリックで内省的なサウンドへとシフトしています。

#1 “Stalling”でしっとりと幕を開け、#2 “Are You With Me?”ではヘヴィなバッキングとメロディアスなリードギターで一気に盛り上げる。続く#3 “Fall Apart”はぐっとメランコリックな仕上がりで、アルバムに奥行きを生み出しています。

#4 “Something Clean”は、儚い旋律からシャウトとドラム連打によるドラマティックな展開へと雪崩れ込む構成が秀逸。#8 “Salt”(Heavenwardsとのコラボ)では深いリバーブが加わり、UKらしい陰影を帯びたムードを演出。

どの曲にもしっかり個性があり、緩急の起伏も備えているため、アルバムを通してダレずに聴けるのも高ポイント。

激戦区のヘヴィシューゲイズ界でも確かな存在感を放つ会心のデビュー作。Split ChainやLeaving Timeが好きな人はぜひ。

Wisp

If Not Winter

Wisp

If Not Winter

  • release date /
    2025-08-01
  • country /
    US
  • gerne /
    Alternative Rock, Dream Pop, Grunge, Shoegaze, Slowcore
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Pop
Extreme
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Dark
Soft
Heavy
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Fast
Pop
Extreme

サンフランシスコ出身のシューゲイズ・アーティストWisp(本名:Natalie R Lu)の1stフルアルバム。Billie Eilish、Kendrick Lamar、Lady Gagaといったトップアーティストを擁する大手レーベル Interscope Records からリリース。

Wispのバイオグラフィー:TikTok発のシンデレラストーリー

Wispのバイオグラフィーはご存知の方も多いでしょうが、先に軽くおさらいしておきます。

当時18歳のNatalie R Luが発表した“Your Face”がTikTokでバイラルヒットとなり、これを契機にInterscope Recordsと契約し、本格的にキャリアを始動。2024年にEP『Pandora』をリリースし、2025年にはCoachellaへ出演。System of a DownやDeftonesといった大物アーティストのオープニングアクトにも抜擢され、現在進行系でライブバンドとしても急速に進化を遂げています。

そんなシンデレラストーリーを含め、いまシューゲイズ好きの間で最も熱い注目を浴びているのがWispなのです。

詳しいバイオグラフィーはこちら▶Wisp『Pandora』レビュー

サウンド面の進化と制作陣

約1年の制作期間を経て完成した本作は、Wispの魅力をスケールアップし、シューゲイズの限界を拡張する冒険心に満ちた作品となりました。ミキシングはLars Stalfors(St. Vincent、Soccer Mommy)とStephen Kaye(Laufey、Ziggy Marley)、マスタリングはRuairi O'Flaherty(Phoebe Bridgers、boygenius)が手掛け、音質が飛躍的に向上。歪んだギターが炸裂しても耳障りにならず、シューゲイズらしい儚いウィスパーボイスの細部まできちんと聴き取れます。前作『Pandora』と聴き比べると一目(耳)瞭然ですね。

注目曲ピックアップ

#1 “Sword”
フォーク調のギターと霧のように儚い歌声でゆったりと幕を開け、突如として力強いドラムが加わり、一気に轟音を解き放つ。夢心地のリスナーを一瞬で現実に引き戻し、物語の始まりを鮮烈に告げるオープナー。

#5 “Guide light”
My Bloody Valentineを彷彿とさせるサイケデリックな轟音シューゲイズ。徐々にダウンテンポになり、ヘヴィさを増していく展開は、重轟音好きなら歓喜不可避。

#7 “If not winter”
スロウコア風にしっとりと離別の哀しみを綴る。アウトロの切ないピアノが追い打ちのように涙を誘う。

#8 “Mesmerized”
Wispとしては珍しいアップテンポなナンバー。サビメロの飛翔感がたまらない。

#9 “Serpentine”
柔らかな叙情とキャッチーさのバランスが光る一曲。歌メロには the brilliant green や大野愛果など、90〜00年代のJ-POPの香りもかすかに漂う。

#11 “Black swan”
再びKrausと手を組んだWisp史上トップクラスのヘヴィシューゲイズで、本作のハイライトの1つ。轟音を切り裂く美しいボーカルに息を呑む。前作のKrausプロデュース曲『Pandora』と対になる配置なのも興味深い。

#12 “All i Need”
アコースティック調の牧歌的なナンバー。雪解けを経て、緑豊かな草原へと歩みだした─そんな光景が浮かんできます。

多彩なプロデューサー/コンポーザーが参加しているのに世界観が全くブレないのは、まさにプロの仕事。一連のミュージックビデオも、Wispがお城で助けを待つヒロインに扮したり、甲冑をまとった騎士へと変わったりと、ファンタジックな世界観で統一されています。これもアルバムの物語性を強固にしている要因の1つでしょう。(『Pandora』では天使の姿でしたね)

シューゲイズ界への貢献と未来予測

新たな挑戦を取り入れつつ、Wisp流のシューゲイズをとことん磨き上げた珠玉の12曲。個人的にかなりハードルを上げて臨みましたが、『Pandora』を遥かに凌駕するほどの感動がありました。ヒット曲“Your Face”誕生の経緯から、『Pandora』では批判も少なからずありましたが、本作では全曲にコンポーザーとしてNatalie R Luの名前がクレジットされており、制作に深く関わっていることは明白。TikTokが創り上げたスターだと揶揄するのは、もはやナンセンスでしょう。本年度、いやここ数年のシューゲイズ界を代表するにふさわしい傑作。

きっと20年代のシューゲイズ(ニューゲイズ)・ブームのマイルストーンとして後世に語り継がれると思いますが、この作品以後、レッドオーシャン化したニューゲイズがさらに加熱するのか、あるいは収束するのか。いちリスナーとして非常に興味があります。今後の指標となることは確かですが、これを超えるのは並大抵ではなく、業界全体にどれほどの影響を与えるかはまだ未知数。もしかすると、いま私たちは歴史の転換期に立ち会っているのかもしれません。

来日公演への期待、そして次章へ

TikTokのいちシューゲイズ好きだった人物が、ひょんなことから作り上げた一曲が鬼バズり、大手レーベルに見初められ、世界各地をツアーで巡りながら、デビューアルバムを世に送り出す。なんというシンデレラストーリーでしょう。

しかし、これにてハッピーエンド……と言うにはまだ早すぎます。あくまでWispの第一章が終わったばかり。レーベルのバックアップを受けて、コアなシューゲイズ好きだけでなく、ジャンルにこだわりのない一般の音楽リスナーの元にも届き、その反響は厳正に分析されるでしょう。その結果は、シューゲイズ界全体の今後の運命をも左右しかねません。リリース直前のSpotify月間リスナー数は307万。ここからどう推移するのか注目したいところです。

私はいちファンとしてWispの成功と繁栄を祈るばかり……そして、来日公演が実現する日を心待ちにしたいと思います。

さて、冬(Pandora)を乗り越え、春(If Not Winter)を迎えたWispが次に向かうのは、やはり『夏』でしょうか? とことんポップでキャッチーなWispも見てみたいものです。夏への扉は、“Mesmerized”ですでに開かれた……そう感じるのは気が早いでしょうか。

前作のレビューはこちら▶Wisp『Pandora』レビュー

Hermyth

Aether

Hermyth

Aether

  • release date /
    2025-03-07
  • country /
    Italy
  • gerne /
    Ambient, Doom Metal, Doomgaze, Drone, Post-Rock, Shoegaze
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Extreme
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Pop
Extreme

イタリアのコズミック・ドゥームゲイズ・デュオ、Hermythの2ndアルバム。

Hermythは2021年に、Nick Magister(ギター、シンセ、ドラム)とTherese Tofting(ボーカル)によって結成。NickはGhostheart Nebula、ThereseはFuneral Voidといったドゥームメタル系バンドの出身であり、Hermythにもその要素が色濃く受け継がれています。なお、「Hermyth」は、おそらくギリシャ神話の神・ヘルメス(Hermes)神話(Myth)を掛け合わせた造語と推測されます。

本作のタイトル『Aether』(エーテル)は、古代において天空を満たすと信じられていた第五元素を意味しています。現在では科学的に否定されているものの、「この世のものとは思えない美しさ」を表す言葉として、今なお象徴的に使われています。

荘厳なキーボードと美しいギターにThereseの幽玄なボーカルが調和したサウンドは、まさにエーテルの名にぴったり。一方で、1stアルバムに比べるとギターのトーンに煌めきが増し、ボーカルの存在感もより前に出ているため、シューゲイズらしい溶け込むような感覚はやや控えめになった印象です。

とはいえ、近い音楽性を持つISONに比べると、曲の尺は短めで、歌メロ重視の展開となっているため、ドゥームゲイズやポストロックを「長くて退屈」と感じる人にもしっくりくるはずです。

ここからはお気に入りの曲をピックアップ。

#1 “Heavens”
星々の煌めきを宿したギター、恒星が放つ光の波のようなシンセ、儚く美しい歌声が織りなす天上の調べ。まるで幽体離脱して星間飛行をしているかのようなスピリチュアルな感覚を味わえます。日本の有名な曲に例えるなら、渡辺典子『火の鳥』をドゥームゲイズ化したらこんな感じかもしれません。

#2 “Aether”
民族音楽や伝統音楽由来のエキゾチシズムが感じられる神秘的なナンバー。古代の人々が星々の煌めきから神話のキャラクターを見出し、敬虔な気持ちを抱いた──そんな感覚を追体験できます。

#5 “Divination”
Aeonian SorrowのGogo Meloneがゲストボーカルとして参加。情感豊かにビブラートで歌い上げる姿は、Thereseとはまた異なる魅力を放っています。さしずめThereseのボーカルが青いリゲルだとすれば、こちらは真っ赤に燃えるアルデバラン。

#6 “The High Priestess”
最もアトモスフェリックで、アルバムタイトル『Aether』の世界観を濃密に味わえるナンバー。10分を超える長尺で、じっくりと浸らせてくれます。目を閉じて聴けば、満天の星空がまぶたの裏に浮かんでくるよう。

全体的にシューゲイズ要素はやや控えめになっていますが、Hermythならではの神話的宇宙観は健在。ぜひ、エーテルの海に身をゆだねて、44分間の星間旅行をお楽しみください。

Myriad Drone

A World Without Us

Myriad Drone

A World Without Us

  • release date /
    2025-03-08
  • country /
    Australia
  • gerne /
    Blackgaze, Doomgaze, Post-Metal, Post-Rock, Progressive, Shoegaze
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Pop
Extreme
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Dark
Soft
Heavy
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Pop
Extreme

オーストラリア・メルボルン発のシネマティック・ポストメタル・バンド、Myriad Droneの2ndアルバム。

Myriad Droneは、2016年にShane Mulhollandのソロ・プロジェクトとして始動し、翌年には4人編成のバンドへと発展。1stアルバム制作以降に2名のメンバー変更があり、本作のラインナップはShane Mulholland(Gt/Vo)、Jacob Petrossian(Gt)、Simon Delmastro(Ba)、Frankie Demuru(Dr)となっています。2019年のデビュー作『Arka Morgana』は、YouTubeのポストロック専門チャンネル「Where Post Rock Dwells」で2019年のベストアルバム第5位に選出。私もレビューで絶賛した名作です。

それから6年ぶりとなる本作『A World Without Us』(私たちのいない世界)は、タイトルや映画『ピンク・クラウド』を思わせるカバーアートからして、「世界の終末」がテーマであると思われます。

サウンド面では、Shaneのクリーンボーカルが大幅にボリュームアップしているのが最大のポイント。さらにスクリームも取り入れられ、柔らかな叙情と猛々しい激情とのコントラストがより鮮明になりました。彼のクリーンボーカルは、非常に繊細で美しく、まるでSigur RósのJónsiやAlcestのNeigeを思わせます。前作でも「もっと歌唱パートが増えてほしい」と思っていたので、この変化は大歓迎。曲調もややポストロック寄りで牧歌的なムードが増しており、Alcestへの接近も感じられます。

#1 “A World Without Us”
クリーンなパートから一気に轟音とエモーショナルなボーカルが炸裂。ポストロックらしい静と動のダイナミズムで揺さぶりつつ、中間部では一転して民族調のコーラスが挿入され、ボーカルとユニゾンで盛り上がるAlcest風の展開へシフトします。10分強の長尺ながら掴みは上々。

#2 “Forlorn Hope”
ギターが轟音をブチ撒けながら、神秘的なボーカルと邪悪なスクリームが交錯する様は、まるで神と悪魔による最終戦争(アルマゲドン)。レーベルが「ポストロックとシューゲイズの要素をバランスよく取り入れながら、よりダークなサウンドを追求している」と語る通り、本作を象徴するナンバー。いや〜これは巻き添えを食らった人間の生存が危ぶまれますね。

#3 “DYHAMTTAJ”
プログレッシブなリズムワークに神々しいボーカルが飛翔する壮大なナンバー。

#4 “Longing”
繊細なクリーンボーカルを活かした優美なポストロックで、クライマックスには壮大な轟音でカタルシスを演出。

#5 “Disharmonia”
ブラストビートとトレモロギターで疾走するブラックゲイズ。クリーンボーカルが一瞬光を呼び込むも、すぐに轟音にかき消されて闇へと飲み込まれます。まるで人類が滅びに抗うさまを描いているよう。

#6 “Whereabouts Unknown”
TOOL風の変拍子&民族調のイントロで幕を開け、徐々にボルテージを上げていき、聖歌隊の合唱のような荘厳なクライマックスへと到達します。ドラムのFrankieが閃いたイントロのドラムパターンから、新メンバーがアイデアを持ち寄って完成させた新境地的名曲。「TOOL meets シューゲイズ」はまだ例が少ないながら、じわじわと観測されつつあり、いま私の中で大注目のスタイル。まさかMyriad Droneがそれをやってくれるとは、嬉しい誤算でした。今年のベストチューン最有力候補の1つ!

ラストの#7 “Valediction”は、どこか物寂しくも穏やかなメロディで、余韻たっぷりに幕を閉じます。最後に訪れたこの静けさは、人類が絶えた後の世界を示唆しているかのよう。このアルバムは、いずれ滅びゆく人類への鎮魂歌なのかもしれません。

本年度のポストロック/シューゲイズ界を代表する傑作の1つ。Sigur RósやAlcest、Holy Fawnなどのファンは、必ずチェックよろです!

前作のレビューはこちら▶ Myriad Drone『Arka Morgana』

雨の中の馬

Triste EP.

雨の中の馬

Triste EP.

  • release date /
    2025-03-28
  • country /
    Japan
  • gerne /
    Alternative Rock, Dream Pop, Electronic, Shoegaze
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Soft
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Extreme
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Pop
Extreme

日本のシューゲイズ・バンド、雨の中の馬による2017年発表のEP。2025年に中国のインディーレーベル『雨模様』(Amemoyo)から初のフィジカル化。あわせて公開されたサブスク版はDisc1・Disc2の2枚組仕様となっています。

雨の中の馬は、Akihiro Nio(Gt/Vo)を中心としたプロジェクトで、本作では作詞・作曲からレコーディング、ミックス、マスタリングに至るまですべて自ら手がけています。また、サポートメンバーとしてKeisuke Yoshimura(Gt/Vo)、Rintaro Yamamoto(Ba)、Saki Miyamoto(Dr)がクレジットされており、Disc1ではシューゲイズらしいノイジーでライブ感のあるサウンドを展開。#1 “Triste”は、サイレンのように狂おしく響き渡るギターノイズに、哀しげな歌声が溶け込み、メランコリック・シューゲイズの理想形といえる上質な仕上がり。甘さや痛みも内包したイノセントな声質は、ART-SCHOOLの木下理樹を彷彿とさせ、Triste=哀しみを表す曲調とよくマッチしています。

続く#2 “Dancer In The Dark”は、後期Supercarの名曲“Yumegiwa Last Boy”を彷彿とさせる轟音ダンスチューン。クールな歌メロや、「愛されたいだけ」と「触れていたい夢幻」の語感に共通点が見られるため、オマージュの可能性もありそうです。

Disc2には、宅録バージョンの音源を収録。こちらはローファイで素朴なタッチが魅力で、同じ曲でもまったく異なる表情を見せてくれます。なお、SoundCloudには1年前に新曲が投稿されており、現在も活動を継続しているようです。気になる方はぜひチェックしてみてください。

bdrmm

Microtonic

bdrmm

Microtonic

  • release date /
    2025-02-28
  • country /
    UK
  • gerne /
    Alternative Rock, Dream Pop, Electronic, Industrial, Shoegaze, Trip Hop
Light
Dark
Soft
Heavy
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Slow
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Pop
Extreme
Light
Dark
Soft
Heavy
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Pop
Extreme

UKのハルを拠点に活動するシューゲイズ・バンドbdrmmの3rdアルバム。前作に続き、Mogwai主宰のレーベルRock Actionからのリリース。

bdrmmは、フロントマンであるRyan Smithの宅録プロジェクトとしてスタートし、やがてバンド編成へと発展。2020年の1stアルバム『Bedroom』では、ゴスやポストパンク由来の陰りをまとったシューゲイズで注目を集め、2022年の2ndアルバム『I Don’t Know』ではアンビエントやトリップホップの要素を取り入れ、新たな魅力を開花させました。

本作『Microtonic』では、その進化がさらに加速し、BjörkやFour Tet、Massive Attackといったアーティストの影響を受け、エレクトロニックな領域へとさらに深く踏み込みました(※Jordan SmithがClashのインタビューで発言)。パンデミック以降の不安や孤独、社会の閉塞感が色濃く反映され、かつてのようなシューゲイジーな轟音は影を潜めています。その代わり、不穏なメロディのシンセが霧のようにまとわりつき、じわじわと不安を掻き立てながらも、機械的なビートがトランシーな没入感をもたらしてくれます。彼らが提示しているのは、単なるレイブの高揚感ではなく、現実の不安を払うための逃避行為としてのダンスミュージックなのでしょう。

かなり大胆な変化で賛否両論ありそうですが、私は大歓迎! The KVBやSPC ECOといったダークでエレクトロニックなサウンドが好きな方はぜひお試しあれ。

SOM

Let The Light In

SOM

Let The Light In

  • release date /
    2025-07-14
  • country /
    US
  • gerne /
    Alternative Rock, Doomgaze, Post-Metal, Shoegaze
Light
Dark
Soft
Heavy
Clear
Noisy
Slow
Fast
Pop
Extreme
Light
Dark
Soft
Heavy
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Noisy
Slow
Fast
Pop
Extreme

US出身のポストメタル/ドゥームゲイズ・バンドSOMの3rdアルバム。ポストメタル界の名門レーベル、Pelagic Recordsからリリース。

SOMは、Caspian、Junius、Constantsの現・元メンバーによって結成され、これまでアルバムとEPをそれぞれ2作ずつリリース。本作のレコーディング中に創設メンバーのドラマー、Duncan Richが脱退し、それに伴ってメンバー構成が変更。現在のラインナップは以下の4人編成となっています。

  • Will Benoit(Vo, Ba, Gt, Electronics)
  • Justin Forrest(Dr, Ba)
  • Mike Repasch-Nieves(Gt, Piano)
  • Joel Reynolds(Gt, Syn)

グランジやシューゲイズ、ドゥームメタル由来の重厚なギターと幽玄なボーカルの調和が生み出す陶酔的なサウンドは、メタル系の音楽メディアMetal Injectionによって「ドゥームポップ」と形容され、まるで茨の棘に絡みつく甘美な蜜のような個性的な味わいを生み出しています。2023年のEPで見せたDepeche Modeへの憧憬や、グリーンのアートワークで示されるType O Negativeへのリスペクト*もしっかりと継承されています。

インタビューで、グリーンのアートワークがType O Negativeのオマージュであることが明かされています。また、別のインタビューでは、ボーカリストのWill Benoitがバンド初期の構想において「Type O NegativeのPeter Steeleのような圧倒的な存在感を持つキャラクター」を思い描いていたと語っています。彼自身はそのような人物にはなれないとしながらも、そのイメージは常に頭の片隅にあったとのことです。

本作では『Let The Light In』というタイトルの通り、従来のメランコリックな作風から希望の光へと歩みを進めるような変化が感じられます。パンデミック期の陰鬱なムードの中で書かれた#2 “Let The Light In”では、「光を招き入れよう」と繰り返し歌われており、その変化を象徴するナンバーとなっています。

その影響で、全体的にダークさは控えめになっており、ダークシューゲイズ目線だと少々物足りなさもありますが、静と動・光と闇のコントラストが冴える#5 “Give Blood”、退廃的で深い哀愁を放つ#8 “The Light”といったダークな楽曲たちは、かえって強く存在感を放っています。「光が強ければ、闇もまた深くなる」とは実に言い得て妙ですね。とはいえ、過去作より光のオーラが強めな点は、少々好みが分かれるところです。

10月からは、Slow CrushのUKツアーでBlanketとともに各地を巡る予定のSOM。闇の中で希望の光を見出した彼らがどんな成長を遂げるのか、とても楽しみです。いつか日本にも来てほしいですね。

Circuit des Yeux

Halo On The Inside

Circuit des Yeux

Halo On The Inside

  • release date /
    2025-03-14
  • country /
    US
  • gerne /
    Darkwave, Drone, Gothic, Industrial, Neoclassical, Synth Pop
Light
Dark
Soft
Heavy
Clear
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Slow
Fast
Pop
Extreme
Light
Dark
Soft
Heavy
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Slow
Fast
Pop
Extreme

イリノイ州シカゴのSSW、Circuit des Yeux(本名:Haley Fohr)の8thアルバム。InterpolやSnail Mailを擁するMatador Recordsからリリース。4オクターブの歌声を駆使しながら、ゴシック/ポストパンク/ネオクラシカル/ダークウェイヴ/インダストリアル/フォークを自在に渡り歩くボーダーレスなサウンドが特徴。

本作ではインダストリアル色を強化し、よりダークに進化。低音とファルセットを巧みに使い分け、Chelsea WolfeやDead Can Dance、Depeche Modeが電脳世界でセッションしたかのようなシネマティックな暗黒舞踏を展開しています。

シューゲイズ好きにイチオシなのは、#4 “Anthem of Me”。荘厳なネオクラシカルとドローン風の歪んだギター、巨像の足音のような重厚なビートが見事に融合しており、ISONやLovesliescrushingといった幽玄なドローン/ドゥームゲイズ好きにもきっと刺さるはず。

ちなみに、ドローン風の音響にフォークやネオクラシカル/ダークウェイヴを融合させる試みは、最近のEthel CainやPenelope Trappesの楽曲にもいくつか見られ、個人的に注目しているスタイルの1つ。今後も積極的にご紹介していくので、乞うご期待です。

Ritualmord

This is not Lifelover

Ritualmord

This is not Lifelover

  • release date /
    2025-03-08
  • country /
    Sweden
  • gerne /
    Ambient, Blackgaze, Depressive-Black-Metal, Folk, Industrial, Post-Black Metal, Post-Rock
Light
Dark
Soft
Heavy
Clear
Noisy
Slow
Fast
Pop
Extreme
Light
Dark
Soft
Heavy
Clear
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Slow
Fast
Pop
Extreme

Lifeloverの元メンバーによる新バンドRitualmordのデビューアルバム。

スウェーデンのデプレッシブ・ブラックメタル・バンドLifeloverの元創設メンバーである( )(本名:Kim Carlsson)と1853によって2007年に結成され、2020年から本格的に活動を開始しています。

Lifeloverの1stアルバムにそっくりなアートワークなのに「This is not Lifelover」(これはLifeloverじゃない)というタイトルで戸惑う方もいるかもしれません。これはLifeloverの20周年を祝いつつ、「何をしても比較されるからこそ、あえてLifeloverではない」と明言し、新たなスタートを印象づける狙いがあるようです。

実際に音を聴いてみると、アンビエント、フォーク、インダストリアルからポストロック〜シューゲイズに至るまで、多彩な要素がブレンドされていて、「確かにLifeloverではない」と納得させられます。一部の楽曲は、当初Lifeloverのために書かれたもので(実現はしなかったものの)、随所に挿入されるKim Carlssonのスクリームからは、Lifeloverの遺伝子を感じずにはいられません。しかしKatatoniaの『Brave Murder Day』直系のデプレ路線だったLifeloverと比べると、Ritualmordはもっとドリーミーで、ブラックゲイズやポストブラックの領域に踏み込んでいるのが最大の違い。Lifeloverの残滓をわずかに漂わせつつ、別の可能性──すなわち“Lifeloverオルタナティブ”とでも呼ぶべき、新たな世界観を打ち出しています。

デビュー作だけに、まだまだ模索中という印象もありますが、今後シューゲイズやポストロックの要素がさらに強化される予感もあり。Lifeloverという枷を外れて自由を得た2人が、今後どのような世界を描いていくのか非常に楽しみです。

なお、Kim Carlssonが関わるもう1つのプロジェクト、Kallも個性的な作品をリリースしているので、ぜひあわせてチェックしてみてください。

Glixen

Quiet Pleasures

Glixen

Quiet Pleasures

  • release date /
    2025-02-21
  • country /
    US
  • gerne /
    Alternative Rock, Grunge, Dream Pop, Shoegaze
Light
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Pop
Extreme

アリゾナ州フェニックスを拠点とするシューゲイズ・バンドGlixenの2nd EP。プロデューサーはMy Bloody ValentineやDIIVなどを手がけたSonny DiPerri。

Glixenは、2020年に結成して以来、SXSWをはじめとする多数のフェスティバルに出演し、2025年4月にはついにCoachellaのステージに立ったシューゲイズ界の超新星。現メンバーは、Aislinn Ritchie(Vo/Gt)、Esteban Santana(Gt)、Sonia Garcia(Ba)、Keire Johnson(Dr)の4人となっています。ちなみにバンド名の「Glixen」は、Lovesliescrushingの楽曲名が由来です。

砂嵐のようなノイズに、ダークで官能的なメロディを溶け込ませた重厚なサウンドが最大の特徴で、若手ながらMBVファンも唸らせる本格派のオーラを放っています。

本作は甘美さを残しつつ、さらにダークかつソリッドに深化。オープニングの #1 “shut me down” は、ドラムの連打と轟音ギターの壁で圧倒するインスト。ライブでラストを飾る定番曲となっています。日本のくゆるが好きな人にぶっ刺さること請け合いです。

イチオシは #4 “sick silent”。甘美なメロディとJesu級のヘヴィなノイズが渦巻くサウンドは、ゼクノヴァ砲さながらの破壊力。

近年のニューゲイズ勢がDeftonesやWhirrの影響下で独自進化を遂げている一方で、Glixenはその流れにMBVへの原点回帰のエッセンスを加えている印象を持ちました。新規のシューゲイズファンを原典へと導く「ジークアクス」的な循環を生み出してくれることを期待したいですね。

シューゲイズの新世代を担う存在として、Wispともども目が離せません。もし来日が実現したら、ぜひくゆると対バンしてほしいですね!

【Glixenメンバーの小ネタ集】

  • Aislinn(Vo/Gt)
    映画好きで、特にグレッグ・アラキ監督の『リビング・エンド』『ノーウェア』『スプレンダー/恋する3ピース』がお気に入り。1st EP収録の名曲 “Splendor” の由来にもなっている
    好きなアニメは『NANA』『lain』『エルゴプラクシー』『ちょびっツ』『寄生獣』『チェンソーマン』など(妙に濃いラインアップに親近感……!)
  • Esteban(Gt)
    元メタル畑の出身で、Godfleshがお気に入り
    意外にもDead Can Danceも嗜むそう
  • Sonia(Ba)
    2019年にベースを始めたばかりで、Glixenが初めてのバンド
    好きなアニメは『鋼の錬金術師』
  • Keire(Dr)
    好きなアニメは『アフロサムライ』
    インタビューで「日本に行ってみたい」と語っている

路傍の石

alternative mick

路傍の石

alternative mick

  • release date /
    2025-01-19
  • country /
    Japan
  • gerne /
    Alternative Rock, Emo, Grunge, Post-Rock, Shoegaze
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Pop
Extreme
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Pop
Extreme

ボカロPとバンド、2つの顔を持つ東京発のアーティスト・路傍の石の7thアルバム。

前作『Pater Noster』ではブラックゲイズ/ポストブラックメタルにフォーカスしていましたが、本作では一転してエモ、グランジ、シューゲイズ、ハードコアなどを融合したオルタナティブ・ロック色の強い作風になっています。

ここではダークシューゲイズ好きにおすすめの2曲をご紹介します。

#4「僕は彼女の幽霊を見た」
冬の冷たさをまとったサッド・シューゲイズ。愛する人を失った哀しみが、心に凍傷のような痛みを刻みつける。Whirrの『Sway』が好きな方に特におすすめ。

#5「生きていてごめんなさい」
路傍の石史上、最もダークな楽曲のひとつ。自罰的なセリフが延々と綴られる中、突如として悲痛な絶叫が放たれ、儚い歌声と重なり合いデプレッシブ・ブラックメタル級の希死念慮を撒き散らす。絶叫はおそらくミクさんの声を加工したもので、『深淵に心在りて』などでも使われていましたが、これほどエグいものは初めてではないでしょうか。ボーカロイドも工夫次第でここまでの感情表現ができるとは驚きです。

ただし、あまりにも暗いため、気分が落ち込みやすい方や感受性の強い方はくれぐれもご注意ください。私も元気がないときにうっかり聴いてしまって闇に呑まれそうになりましたが、咄嗟にぼっちちゃんの電子音めいた悲鳴に脳内変換して難を逃れました(笑)

なお本作の翌月には、早くも8thアルバムがリリースされ、さらに6/17にはバンド形式での初音源も公開。創作への貪欲な熱意に頭が下がります。

今回レビューを書くにあたって、比較のために過去作もすべて履修したのですが、どれも素晴らしかったです。そろそろライブで体感してみたいですね!

Autumn's Grey Solace

The Dark Space

Autumn's Grey Solace

The Dark Space

  • release date /
    2025-01-25
  • country /
    US
  • gerne /
    Darkwave, Dream Pop, Ethereal Wave, Folk, Gothic, Shoegaze
Light
Dark
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Heavy
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Pop
Extreme
Light
Dark
Soft
Heavy
Clear
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Slow
Fast
Pop
Extreme

フロリダ州セント・オーガスティンを拠点とするデュオ、Autumn's Grey Solaceの17thアルバム。※Winterrim(2012)は新録のない編集盤なのでオリジナルアルバムは16作目だと思いますが、公式に従って17とします。

Autumn's Grey Solaceは、マルチ・インストゥルメンタリスト/作曲家のScott FerrellとボーカリストのErin Weltonによって2000年に結成されたエセリアルウェイヴ・デュオ。2002年に自主制作で1stアルバムをリリースし、今も現役で活動している大ベテランです。

彼らの紹介に入る前に、エセリアルウェイヴ(Ethereal Wave)というジャンルについて軽く解説しておきます。エセリアルウェイヴは、広義のダークウェイヴのサブジャンルの1つで、1980年代初頭のゴシックロック/ポストパンクから誕生したとされています。このムーブメントを代表する4ADの中で、とりわけ幻想的なサウンドのCocteau TwinsやThis Mortal Coilが「ethereal」と評されたことが由来のもよう。

「ethereal」の語源となったエーテルは、古代ギリシャでは天上の領域を構成する第五元素とされ、のちの近代科学では光や電磁波を伝える媒体と考えられていました。いずれの概念も現代科学では否定されていますが、その名残として「ethereal」という言葉は「この世のものとは思えないような繊細さや美しさ」を形容する際に使われています。

エセリアルウェイヴは初期ゴシックロック/ポストパンクから誕生した背景もあって、ゴシックとシューゲイズ〜ドリームポップを繋ぐ存在となっています。特に代表格であるCocteau Twinsは、現在でも両ジャンルからオリジネイターの1つとしてリスペクトされており、これが「ゴシックとシューゲイズは親和性が高い」と私がよく言っている根拠の1つでもあります(同列にThe Cureもいるけど長くなるので割愛)。

のちにエセリアルウェイヴは、1983年にBlack Tape for a Blue GirlのSam Rosenthalによって創設されたProjekt Recordsに受け継がれ、Love Spirals DownwardsLyciaといった名アーティストを輩出しました。その後、2000年初期に現れたのが、今回ご紹介するAutumn's Grey Solaceです。

Scottは14歳からギターを始めて、様々な楽器に手を伸ばしていき、作中のベースやドラム、マンドリンなどの演奏はほぼ全てScottが手掛けています。演奏を始めた頃は、Dead Can Dance、Cocteau Twins、The Cure、The Smithsなどから影響を受けていたそうです。

いっぽうErinは、完全に独学で妖精のような美しい歌声を身につけたのだとか。インタビューでは、Dead Can DanceのLisa Gerrard、Morrissey、Madonnaといった様々なボーカリストから影響を受けていると語っています。※Autumn's Grey SolaceはProjekt RecordsのDead Can Danceトリビュートで“Musica Eternal”をカバーしています。

サウンド面は、キラキラしたテクスチャーのギターによる幻想的なムードがCocteau Twinsを想起させますが、Autumn's Grey Solaceはマイナーコードを多用しており、秋や夜にぴったりのメランコリックな作風が特徴です。本作『The Dark Space』でもその魅力はしっかり継承されています。

#1 “Forever Dreaming”は温もりのあるアコースティックナンバーで、今までにない小悪魔的な歌声が飛び出します。路線変更?かと思いきや、#2 “Catch My Canaries”からはいつもの妖精のような繊細な歌声を響かせてくれます。物憂げなアルペジオの後に放たれる神秘的なソプラノはまるでDead Can Danceのよう。

#3 “Darkens the Soul”
雨や夜の光景が浮かぶメランコリックなメロディはまさにAutumn's Grey Solaceの真骨頂。

#4 “Silhouettes of Light”
美しいギターの合間に漂う哀しいメロディが、光が生む影のように心に深い陰影を刻む。アルバムのハイライトにふさわしい名曲。

これ以降も良曲揃いで、ラストまで息つく暇なく徹底的に耽美な世界へ沈めてくれます。今年の耽美部門ベスト入り間違いなしの充実作。17作目でも全く衰えないクオリティにリスペクトしきりです。

彼らがいる限りエセリアルウェイヴは不滅……と言いたいところだけど、後継があまりいないのが少々気がかり。近い系統は若いアーティストだとdearyくらいでしょうか。ところがZ世代のシューゲイズファンの間でCocteau TwinsやSlowdiveが非常に人気となっている影響で、エセリアルウェイヴも徐々に注目されているようです。この先、新世代のエセリアルウェイヴが登場してくれると期待しましょう。

最後に「アルバムが多すぎてどこから聴けばいいの?」という人のために、私のオススメを挙げておきます。

  • 2nd『Over The Ocean』:Projektと契約して初のリリースとなるアルバムで、光と闇がバランスよく楽しめます。開幕の“Waning Faithful”が超メランコリックでオススメ。
  • 4th『Shades Of Grey』:ゴシックかつ轟音シューゲイズ色強め。特に“Angel of Light”はAutumn's Grey Solace最強のシューゲイズ曲の1つ。
  • 5th『Ablaze』:キャッチーな曲からクラシカルで荘厳なもの、プログレ風にダークなゴシック系まで揃うエネルギッシュな作品。レーベル屈指のセールスを記録したのも納得の名作。煉獄さんみたいなジャケもインパクト大。
  • 12th『Englelícra』:研ぎ澄まされた高純度の美メロに溺れる至福……耽美系の1つの到達点。
  • ここに挙げきれなかったアルバムもいずれ劣らぬ素晴らしさなので「どこから聴いても問題なし!」が私の結論です(笑)

    聴き心地は同人音楽界でいう幻想浮遊系に通じるものがありますし、ZABADAKや新居昭乃、近年だと青葉市子が好きな人もハマると思うので、ぜひ気軽に触れてみてください。

    PLOTOLEMS

    para?anomaly

    PLOTOLEMS

    para?anomaly

    • release date /
      2025-05-28
    • country /
      Japan
    • gerne /
      Alternative Rock, Darkwave, Gothic, Industrial, New Wave, Noise, Shoegaze
    Light
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    Pop
    Extreme
    Light
    Dark
    Soft
    Heavy
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    Slow
    Fast
    Pop
    Extreme

    東京のオルタナティブロック・バンドPLOTOLEMSの1stミニアルバム。

    PLOTOLEMSは、さくれむ(Gt/Vo)のソロプロジェクトとして始まり、2020年7月にしょう(Dr)が加入して本格始動。その後、1st EP『A FICTION』(2020)、2nd EP『A GHOST』(2022)をリリース。現在はフジモト(Ba)が加入して3ピースとなっています。

    彼らを初めて知ったのは、シューゲイザー特化型イベント『Total Feedback』の2022年9月公演でした。全くの初見でしたが、キャッチーなバンドが集う中、ひときわダークなサウンドで攻める異質さに衝撃を受けました。

    『第一印象はコールドウェイヴ×インダストリアル×シューゲイズ。闇の中に青い炎を灯すような冷たく美しいサウンドで、冷たい音色のキーボードとアンニュイな歌声のマッチングはAsylum Partyといったコールドウェイヴの血脈を。エレクトロ色の強い曲にはSkinny PuppyやSOFT BALLETに通じるセンスを感じました。』とTwitterへ興奮気味なコメントを残しています。そして2nd EP『A GHOST』に触れて彼らの世界観にズブズブとハマっていったのでした。ちなみに2nd EPの推し曲は“This City is Hell”です。

    本作においてもオルタナティブロックにシューゲイズ、ノイズ、インダストリアル、ニューウェイヴなどを巧みにブレンドした越境的なサウンドで、彼らが掲げる「Japanese Industrial Horror Dark Alternative」にふさわしい闇深き世界観が徹底的に描かれています。あどけなさと狂気をあわせ持つさくれむ氏のボーカルはさらに表現力が増し、繊細なクリーンボーカルから悲鳴じみた絶叫をも操り、リスナーを狂気の深淵へと誘います。

    ここからは各曲の感想に移ります。

    #1“見ている”
    仄暗い水の底から響く、工場の駆動音のようなインダストリアル。太古の儀式のようなシャーマニックな響きが陶酔へと導く。

    #2“int main()”
    初期ART-SCHOOLばりに青い衝動と焦燥感をほとばしらせる疾走チューン。本作で最もキャッチーで、ライブ映えは間違いなし。

    #3 “4294967296”
    ここから一気にPLOTOLEMSらしさ全開。さくれむ氏のシャウトと、グリッチノイズばりの轟音ギターが脳を灼く。荒れ狂うノイズと淡々と鳴り響くキーボードのアンバランスさも病みつきになりそう。そして鬱々と唱えられる数字が破滅へのカウントダウンを予感させる──Wikiによると4294967296は、32ビットCPUが(素直に)管理することができるメモリアドレス空間の上限容量なのだそう。あの世が飽和して行き場をなくした死者がネットを通じて溢れ出してくる……そんなシーンが浮かんできます。そう思うと、死(4)や苦(9)といった不吉な言葉の羅列にも見えてくるから不思議。

    #4 “連鎖”
    ミニマルなビートに冷たいピアノを散りばめた退廃的なインダストリアル。In Slaughter NativesといったCold Meat Industry産ダークアンビエント/インダストリアルとの共鳴も感じさせ、名状しがたい恐怖をじわじわと心に植え付けていく。

    #5 “狂う夢”
    シューゲイズ/ポストロック風の導入で幻想的な白昼夢に浸らせておいて、ドス黒いノイズとシャウトで一気に地獄へと突き落とす。ジル・ド・レイばりの鬼畜さについ下卑た笑いが漏れてしまう。

    #6 “NECTAR”
    甘く気だるげな歌声と脈動するベースの調和にうっとり聴き入っていると、突如ぶっといギターにぶん殴られる。一瞬たりとて油断は禁物、それがPLOTOLEMS。

    #7 “paranoia”
    内側が鏡張りの箱に詰められたまま、坂道を転がされるような無軌道な展開に揺さぶられる。そこに金属を穿つようなピアノと、砂利をぶちまけたようなギターノイズが襲いかかる。これで気が狂わずにいられようか……

    全7曲、計28分。まさに耳で体感するホラー・オムニバス。『Total Feedback 2024』のコンピでキラキラした曲を出して、まさかの陽キャ化?なんて思ったりもしたけれど、まったくもって杞憂でした。この勢いで闇の奥底へと突き進んでほしいものです。

    次は『para?anomaly』というタイトルについて考察していきます。

    ホラー映画ファンなら、真っ先に『パラノーマル・アクティビティ』(Paranormal Activity)を連想するでしょう。しかし「Paranormal=超常現象」の間に「?」が差し挟まれ、「para」(反する)と「anomaly」(異常)に分解されることで、その異質さが浮き彫りになります。

    そのまま「異常の反転」=「正常」と捉えることもできますが、ここで「para」を「parallel」(並行あるいは並列)と置き換えると、「anomaly」(異常)はどこにでも偏在している、というメッセージにも読み取れます。つまりこのタイトルは、こう問いかけているのではないでしょうか──『“異常”があたりまえのように存在しているのなら、それを“異常”と呼ぶこと自体が、すでに異常なのだ』

    某漫画の「君らの神の正気は一体どこの誰が保障してくれるのだね?」という台詞にも通じる視点ですね。あくまで私の勝手な解釈なので、可能性の1つとして受け取ってください。

    そしてアートワークも魅力の一つ。顔にポッカリと空いた木の洞のような穴が、実におぞましくも美しい。個人的には架空の人物(ロングVer)の顔が掻き消えたカバーアートもTravis Smithみたいで気に入っています。Tシャツが欲しいのでぜひ作ってください(願望は声に出していくスタイル)。

    さて、そんなPLOTOLEMSですが、2025年8月3日に初の自主企画が決定しました! 暗黒音楽愛好家はぜひお見逃しなく!

    最新情報はPLOTOLEMSのSNSをチェック

    PLOTOLEMS:X

    kuragari

    天和

    kuragari

    天和

    • release date /
      2025-05-05
    • country /
      Japan
    • gerne /
      Alternative Rock, Bedroom Pop, Noise Pop, Shoegaze
    Light
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    Slow
    Fast
    Pop
    Extreme

    日本のベッドルーム・シューゲイズ・アーティスト、kuragariの5thアルバム。

    本サイトの2024年度ベストを飾ったkuragariから、今年もニューアルバムが届きました!

    kuragariの最大の個性である、凶悪なノイズと切ないメロディの融合は今作でも健在。まるでマーシャルアンプをぎっしり積み上げた四畳半の真ん中で、歪んだエレキギターをかき鳴らしながらフォークソングを歌っているかのようです。

    歌声はさらに歪みが増した印象で、#6 “(ff) おぼえている!” を除けば、ブラックゲイズのスクリームのようにも聴こえてきます。いや〜毎度ながら攻めてますね。

    ちなみに、このkuragariのように極限まで歪ませまくったノイジーなシューゲイズを私は『聴覚破壊系』と呼んでいるのですが、kuragariは他の追随を許さないほど過激な音造りで、当ジャンルでも唯一無二の存在感を放っています。また、日本のアーティストであること以外は一切の素性が不明という点もkuragariをいっそう孤高の存在へと押し上げていると思います。

    一方、歌詞に注目すると、かつての懐かしい日々を振り返るような内容が描かれています。

    タイトルの『天和』は、麻雀における非常に珍しい役のひとつで、その確率は約33万分の1とされています。約80億人が生きるこの地球で、かけがえのない人と出会い、共に過ごした奇跡を「天和」に重ねているのかもしれませんね。

    また、歌詞の中で音楽記号が使われているのもユニークな試みです。

    • ||: :||(リピート記号)
    • Fine(フィーネ)
    • D.C.(ダ・カーポ)
    • 8va(オッターヴァ)
    • #(シャープ)
    • ff(フォルティッシモ)

    意味を知った上で歌詞を読むと、新しい発見があるかもしれません。ぜひ、歌詞とともに聴いてみることをおすすめします。

    なお、再生時の音量にはくれぐれもご注意を。Ulverの3rd級にノイジーなので、大音量で聴くと確実に耳がヤラれます。耳は音楽ライフの資本ですので用法・用量を守って安全に楽しみましょう!

    Violet Cold

    Modular Consciousness

    Violet Cold

    Modular Consciousness

    • release date /
      2025-02-09
    • country /
      Azerbaijan
    • gerne /
      Black Metal, Blackgaze, Dreamwave, Shoegaze, Synthwave
    Light
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    Pop
    Extreme

    アゼルバイジャンのブラックゲイズ・アーティスト、Violet Coldによる2025年リリースの5曲入りEP。

    Violet Coldはアゼルバイジャン・バクー出身のEmin Guliyevによるソロ・プロジェクト。Alcestに大きな感銘を受けた彼は、活動初期はAlcest系の美メロブラックゲイズをやっていましたが、次第にアンビエント、ポストクラシカル、民族音楽、EDM、ブレイクコア、Hip Hopなど多彩なジャンルを取り入れ、唯一無二の世界観を構築。型にとらわれない自由なスタイルは、人呼んでブラックゲイズ界のトリックスター。

    2023年のアルバム『Multiverse』以降は、ポストクラシカルやLo-fi Hip Hop、レイブ系といった多彩なシングルを連発。傾向が全く読めない状況で登場した新作は、意外にも全編シンセウェイヴ路線でした。ブラックゲイズ×シンセウェイヴならAbstract Voidがいるから、そこまで意外じゃなくね? と思った人は甘い。Abstract Voidがブラックゲイズをメインにシンセウェイヴを加えたのに対し、Violet Coldはシンセウェイヴがメインでブラックゲイズをちょい足しするという、真逆のアプローチになっています。

    オススメは#2 “Nightfall”。ノリノリのダンスビートとともにバブリーなシンセが弾けた瞬間、熱狂渦巻くダンスフロアやネオンきらめくナイトシティへ強制転送。シンセウェイヴオタクの目線でもかなりイケてます。エモーショナルなボーカルと邪悪なスクリームが交錯し、ブラックゲイズの醍醐味である美醜の対比もしっかり完備。どんな具材をブチ込んでも美味しく仕上げるあたり、さすがはブラックゲイズ界のトリックスター。

    なお、本作の後にリリースされたシングル“Oh My Goth I'm Emo”は、ポップパンク×ブラックゲイズ×アニソン風日本語女性ボーカルという斜め上の作風で、またしてもファンをざわつかせました。かわいい歌声はボーカロイドと思われますが、アゼルバイジャンのアーティストがmikgazerの領域に踏み込んでくるだなんて、誰が予想できたでしょうか。しかも、ちゃんと意味の通る日本語なのも興味深いところ。もしかすると、Violet ColdからHanazawa EP級の萌え系シューゲイズが飛び出す日も近いのかもしれません──まあ、そんな予想すらきっと軽々と飛び越えてくれるんでしょうけど(笑)。

    Unreqvited

    A Pathway to the Moon

    Unreqvited

    A Pathway to the Moon

    • release date /
      2025-02-07
    • country /
      Canada
    • gerne /
      Ambient, Black Metal, Blackgaze, Post-Metal, Post-Rock, Progressive, Soundtrack
    Light
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    Fast
    Pop
    Extreme

    カナダ発ポストブラックメタル/ブラックゲイズ・プロジェクトUnreqvitedの7thアルバム。

    Unreqvitedは、鬼(Ghost)によるソロプロジェクトで、2016年のデビュー以来、ピアノやストリングスによる壮麗なシンフォニーとブラックメタルの暴力性を融合してドラマティックな作品を生み出してきました。本作から新たな試みとして本格的にクリーンボーカルを導入し、未踏の領域へと踏み出しています。

    冒頭の#1 “Overture: I Disintegrate”で、メランコリックなピアノの伴奏にのせて本人による美しいクリーンボーカルを披露。これまでもコーラス風の演出はありましたが、ここまで全面的に歌っているのは初めてだと思います。

    #2 “The Antimatter”は、従来のUnreqvitedらしいシンフォニックな爆走でスタートし、緩急を巧みにスイッチしながら、クリーンボーカルとスクリームを交錯させるドラマティックな構成で魅せる。Unreqvitedの過去と現在、そして未来を暗示する象徴的なナンバー。

    ハイライトは#3“The Starforger”。物悲しいアルペジオで始まり、神秘的なシンセと泣きのギターが絡み合いながらじっくりと進行し、サビで一気にエモーショナルな歌声を爆発させる。これがTesseracTのダニエル・トンプキンスを彷彿とさせる美声で衝撃……!

    #4 “Void Essence / Frozen Tears”、#5 “Into the Starlit Beyond”は、クリーンボーカルとスクリームの対比が光るミドルテンポのポストロック風ナンバー。トレモロギターとシンセの煌めきが天球を埋め尽くす星々のよう。

    ラストの#7“Departure: Everlasting Dream”は、エンドロールにふさわしいピアノとストリングスによる安らかなナンバー。“The Starforger”のメロディが走馬灯のようにプレイバックされ、静かに物語は幕を下ろします。

    プログレッシブかつドラマティックに進化を遂げた革新作。目を閉じて聴けば、SF映画のような壮大なヴィジョンが脳裏に浮かぶことでしょう。アルバムを聴き終えた時、私の頭の中にはクリストファー・ノーラン監督の『インターステラー』や星野之宣の『緑の星のオデッセイ』の感動的なラストシーンが浮かんできましたが、あなたはどんな物語を思い浮かべましたか?

    Unreqvitedは、2025年5月からTribulation・Unto Othersと共に北米ツアーを敢行。バンド編成のUnreqvitedが、どんなパフォーマンスを繰り広げるのか非常に楽しみです。明日の叙景とのスプリットを出した縁もあることですし、来日にも期待したいところですね!

    Self Destruction in Your Dreams

    焦葬

    Self Destruction in Your Dreams

    焦葬

    • release date /
      2025-02-08
    • country /
      Japan
    • gerne /
      Black Metal, Blackgaze, Depressive Black Metal, Post-Black Metal, Progressive, Shoegaze
    Light
    Dark
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    Fast
    Pop
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    Light
    Dark
    Soft
    Heavy
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    Noisy
    Slow
    Fast
    Pop
    Extreme

    岐阜発デプレッシブ・ブラックゲイズ・バンドSelf Destruction in Your Dreamsの1stアルバム。A.Aoki(Gt/Vo)、ののの(Gt/Key/Vo)、Takeuchi(Gt)、食事報告ニキ(Ba)、Redkensamba(Dr)の5人編成で制作されました。

    ブラックゲイズ(ブラックメタル×シューゲイズ)はAlcestやDeafheavenのおかげでご存知の方も多いでしょうから、まずデプレッシブ・ブラックメタルについて軽く解説を。

    90年代初頭、ノルウェーのブラックメタルは、「インナーサークル」と呼ばれる集団による教会放火や殺人事件をきっかけに、過激なイメージを確立しました。一方、デプレッシブ・ブラックメタルは苦悩、絶望、鬱、自殺といった内省的なテーマを深く掘り下げ、陰鬱なムードを打ち出しているのが特徴です。ブラックメタルが外へ向かう破壊衝動を描くのに対し、デプレッシブ・ブラックメタルは自身の内にある破滅願望を音に込めています。

    世界でもトップクラスに治安が良いとされる日本ですが、将来への不安や孤独、鬱に苦しむ人が多く、自殺率が高いことで知られています。よってデプレッシブ・ブラックメタルは、我々日本人の抱える闇に深く共鳴する音楽の1つだといえるでしょう。

    前置きが済んだところで、さっそく本題に入ります。

    本作は短いポエトリーリーディング#1“Five Seconds of Pleasure”で幕を開け、続く#2“ひとでなしの恋”で、陰鬱なトレモロギターと悲痛な絶叫で聴く者の魂を一気に地獄へと引きずり込むも、随所に女性コーラスや儚げなキーボードを散りばめ、闇と美のコンストラストによってブラックゲイズ好きの心をしっかり掴んできます。ブレイクしてポエムパートを挟み、絶叫とともに轟音を放ちクライマックスへ──初っ端から9分越えの長尺ながら緩急の妙で魅せてくれます。

    #3“灯火”の冒頭では、Silent Hill 2の『Theme of Laura』のオマージュと思われるメロディが顔を出します。ホラゲー・鬱ゲー界の校歌みたいなものなので、初耳でしたらこの機会に覚えて帰ってください。その後は、絶叫を皮切りにワルツ調のピアノが主体となり、爆走パートへなだれ込みます。ここから更に切れ味の良い刻みリフが暴れまわり、ヘドバン欲を否応なく掻き立てます。そして再びワルツ調のピアノが顔を出し、冒頭のTheme of Laura風のメロディが戻ってきて、絶望の輪廻を暗示するかのような円環構造で締めくくられます。10分を超える長尺ながら非常にドラマティックで、間違いなく本作のハイライトといえるでしょう。

    #5“ひとりぼっちの心中”は、ののの氏の美しい歌声をメインにしたヘヴィシューゲイズ風のナンバー。和の情緒を感じさせるメロディが、既存のUSシューゲイズにはない個性を打ち出しています。突如としてブラスト&絶叫で爆走する展開もスリリング。

    ポストロック風にゆっくりと哀しみを紡いでいく#6“雨”、後期Emperorに通じる不穏なフレーズが心をかき乱す#8“Red Eyes”、腐臭漂うリフで毒沼に沈める#9“If”(コントのオチみたいなフレーズが飛び出すのも面白い)など、バラエティーに富んだ楽曲が次々と繰り出され、最後まで息をつく暇を与えません。音質もクリアで、デビューアルバムとは思えないクオリティ。

    ここからは歌詞を考察していきます。歌詞に注目すると、第三者が介在しない『僕』と『君』だけの閉じた世界が徹底して描かれています。さらにゲシュタルト崩壊を起こしそうなほど【死・殺・壊・消】といった負のワードが溢れかえっていて、あまりの異常さに読んでいて気が滅入りそうになることでしょう。

    おそらく『僕』はすでに正気を失った、ミステリでいう『信頼できない語り手』であって、実は『君』の存在は『僕』の妄想の産物なのではないでしょうか。自分の頭の中に創り出した『君』を愛しながらも破滅を願う矛盾がさらなる狂気を生み、『僕』と『君』が延々と死を繰り返す夢の世界に囚われているのかもしれません。#3“灯火”の円環構造もこの説を裏付ける証拠の1つです。Self Destruction in Your Dreams=『夢の中での自己破壊』とは実に言い得て妙ですね……あっこれ全部私の妄想の話しね!

    本作が気に入った方は、新曲の“3番ホーム、僕は飛び込む”もぜひチェックしてください。音と歌詞が密接にリンクし、語り手の壊れきった精神状態が浮き彫りになるとても恐ろしい曲です。部屋の明かりをすべて消し、ガタガタ震えながら聴きましょう。この調子で次はNorttよろしく葬式系の激遅デプレブラックドゥームなんていかがですか?(願望は声に出していくスタイル)

    また、ソロプロジェクトが多いDSBM系にあって、バンド編成でライブ活動を行っているのも彼らの強み。2025年5月10日㈯にワンマンライブが予定されているので、近隣の方はぜひ足を運んでみてください。今後もkokeshiやLifeblood、SAWAGI、Paleたちと共に日本全土に闇を撒き散らして欲しいものです。

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    Amira Elfeky

    Surrender

    Amira Elfeky

    Surrender

    • release date /
      2025-03-28
    • country /
      US
    • gerne /
      Alternative Metal, Gothic Metal, Grunge, Nu Metal, Shoegaze
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    Dark
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    LAを拠点に活動するアーティスト、Amira Elfekyの2nd EP。

    コネチカット州出身のAmira Elfekyは、子供時代に兄たちから00年代のニューメタルを紹介され、DeftonesやLinkin Park、Evanescenceといったヘヴィなサウンドの洗礼を受けて育ちました。ティーンエイジャーの頃にはハードコアに傾倒し、10代後半になるとバスルームでギターを練習しながら、BandLabというアプリで作曲を始めたそうです。

    18歳の時、後のプロデューサー兼マネージャーとなるTylor Bondarと出会い、自作の曲を聴かせたところ、彼は感銘を受け、無料で録音することを申し出たそうです。そしてセッションを通じて、彼女が探し求めていたサウンドに少しずつ近づいていきました。

    その後、YouTubeで“Linkin Park Deftones type beat”と無作為に入力して最初に表示された曲を聴いて衝撃を受け、衝動的に制作されたのが初期の代表曲である “Tonight”。2023年7月初旬にTikTokへ投稿したところ、バズりにバズって数百万の「いいね」がついたそうです。これがAmira Elfekyの存在が世界に知られるようになった最初の出来事でした。そして翌年3月にリリースされたデビューEPは、ニューメタル・リバイバルの体現者として世界各国から絶賛されたのは記憶に新しいところ。TikTokの投稿から1年もかからずにこれほど大きな存在となるとは、本当に驚くべきサクセスストーリーです。

    こうして振り返ると、ヒットの経緯がWispとよく似ているのも興味深い点ですね。次世代のスターがTikTokを起点にブレイクするのはもはや一過性の現象ではなく、音楽業界の新たなスタンダードといえるでしょう。

    デビューEPから約1年後にリリースされた本作は、共同制作・プロデュースにBring Me The Horizon、Pale Waves、Architects、Poppyなどを手掛けたZakk Cerviniを迎えて制作され、さらにヘヴィかつエモーショナルに進化を遂げました。

    特に変化が感じられるのは#3“Forever Overdose”。ミステリアスなヴァースから轟音とともに一気に狂おしいほどの哀しみを爆発させたかと思うと、Amiraのスクリームを皮切りに超ヘヴィなブレイクダウンへなだれ込みます。この手法は他の楽曲にも見られ、作品全体のヘヴィな印象を強固なものにしています。よりヘヴィになったことで、Amira Elfekyの最大の魅力であるゴシック風のロマンティックなメロディがさらに際立っているのも好印象。

    その結果、前作のシューゲイジーな雰囲気がだいぶ失われてしまいましたが、いくつかのメディアでは今もニューゲイズ(ニューメタル×シューゲイズ)として扱われていますし、ニューゲイズが一般的に浸透した今となっては十分シューゲイズ好きにも受け入れられると思います。

    ともあれ、この素晴らしいクオリティを前に細かいジャンルの区別など些末なこと。ダークでヘヴィな音楽が好きな人にとって最高の贈り物であると保証します。本年度のベスト入り間違いなしの傑作です!

    そんなAmira Elfekyですが、Download Festival 2025への出演が決定し、Bring Me The Horizonの全米ツアーのサポートに抜擢されるなど、今や飛ぶ鳥を落とす勢いで活動の場を広げています。Spotifyの月間リスナー数は、本作リリース時の80万から、わずか1週間で30万もアップし、あっさり100万超えを達成。この傑作を起爆剤に、ますます注目を浴びることは間違いないでしょう。

    日本ではLOUD PARKの奇跡的な復活が話題をさらっていますが、今がAmira Elfekyを呼ぶ絶好のチャンスなんじゃないでしょうか? クリエイティブマンさん、新しい血を取り入れるためにもぜひご検討ください。できればDeftonesとLacuna Coil、Spiritboxもお願いします!(言うだけならタダ)

    ちなみに本作では、カバーアートやミュージックビデオに『青』が多用されていることにお気づきでしょうか。特に“Forever Overdose”でブラウン管に映る映像に、Evanescence『Fallen』のカバーアートを連想した方も少なくないはず。

    『Fallen』といえば、ゴシック界にパラダイムシフトを起こしたモンスターアルバムなのは皆さんもご承知の通り。

    本作は『Fallen』へのオマージュ、あるいはリスペクトであり、「いつかEvanescenceと肩を並べるアーティストになる」というAmira Elfekyの決意表明なのかもしれません。今後リリースされるであろうデビューフルアルバムは、とんでもないことになりそうな予感がしますね。

    Shedfromthebody

    Whisper and Wane

    Shedfromthebody

    Whisper and Wane

    • release date /
      2025-01-17
    • country /
      Finland
    • gerne /
      Doomgaze, Drone, Folk, Gothic Metal, Post-Metal
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    フィンランドのソロアーティスト、Shedfromthebodyによる4thアルバム。

    Shedfromthebodyは、フィンランド出身のSuvi Savikkoによるソロプロジェクト。彼女はヴィジュアルアートをルーツに持ち、音楽制作のみならず、アートワークやミュージックビデオの制作も手掛けるという徹底した美学を持つDIYアーティストで、2018年にデビューして以来、ゴシック、ダークウェイヴ、シューゲイズ、ドゥームメタルなどをブレンドしたダークなサウンドに北欧フォーク由来の神秘的なメロディを調和させた独自のスタイルを確立しています。

    本作は北欧フォークとドローン/ドゥームメタルの影響が色濃く現れており、ゆったりとしたリズムをベースに、妖精のように儚げな、あるいは魔女のように妖艶な歌声を巧みに使い分け、ヘヴィかつ催眠的なサウンドを展開しています。イチオシは#4“Sungazer”。子守唄風の穏やかな導入から、徐々にヘヴィなギターが加わり、躍動感のあるリズムで恍惚へと至らしめる古代の祭祀めいたナンバー。ミュージックビデオでシャーマンのように一心不乱に踊るSuvi Savikkoの姿も見どころです。

    北欧フォークとブラックゲイズのクロスオーバーは少なくないものの、ドゥームゲイズの文脈ではなかなか貴重だと思います。Dead Can DanceやChelsea Wolfe、Sylvaineなどがお好きな方はぜひチェックしてください。

    Echos

    QUIET, IN YOUR SERVICE

    Echos

    QUIET, IN YOUR SERVICE

    • release date /
      2025-01-17
    • country /
      US
    • gerne /
      Alternative Rock, Darkwave, Dream Pop, Electronic, Gothic, Neoclassical, Nu Metal, Shoegaze
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    ワシントン州バトルグラウンド出身のシンガーソングライター、Echosの4thアルバム。Sumerian Records傘下のOutlast Recordsからリリース。

    Echosは、ボーカリスト/シンガーソングライターのAlexandra Nortonが19歳の時に始動させたプロジェクト。名義はParamoreの楽曲『Misguided Ghosts』の歌詞に由来しています。これまで繊細な歌声を活かしたエレクトロ路線で人気を博してきましたが、本作ではオルタナティブロックやニューメタルに由来するヘヴィなギターを取り入れ、よりダークな世界観を開拓しています。この変化の背景には、Paramoreの影響に加え、Alexandraが現在お気に入りとして挙げるEthel CainやSpiritboxの存在があったようです。

    注目はタイトルトラックの#3“QUIET, IN YOUR SERVICE”。Evanescence(オルタナ/ゴシックメタル)とWisp(ニューゲイズ)を巧みに融合させたような楽曲で、ダークなサウンドの中に深い哀しみを宿した歌声が響き渡り、胸が張り裂けそうなほどの切なさが押し寄せてきます。#5“OVER & OVER”ではさらに激しいギターが飛び出し、エコーズACT3ばりのヘヴィネスを見せつけます。これには従来のファンも驚いたことでしょう。その後も暗く哀しい楽曲が連続しますが、ラストを飾る#9“TOLERANCE”では神秘的なコーラスが降り注ぎ、長い夜の先に訪れる日の出のようなカタルシスをもたらしてくれます。

    Alexandra自身が「鬱病を克服し、自分を取り戻す手助けをしてくれた」と語るように、このアルバムは同じような苦しみを抱える人々の心を癒やしてくれることでしょう。近い系統のアーティストとしてはAmira Elfekyが挙げられますが、Echosはより幻想的で浮遊感があるため、ドリームポップやシューゲイズのリスナーにもおすすめです。

    ちなみにEchosのSNSで#twilightcoreというタグが頻繁に使用されていたため、どんな意味か調べたところ、映画『トワイライト』のゴシック調のロマンティックなスタイルを指す言葉だと判明しました。EchosがいかにParamoreから強く影響を受けているかが覗えますね。

    Nostalgiaisfun

    Obituary

    Nostalgiaisfun

    Obituary

    • release date /
      2025-01-21
    • country /
      US
    • gerne /
      Alternative Rock, Grunge, Nu-Gaze, Shoegaze
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    フィラデルフィアのソロ・シューゲイズ・プロジェクトの2ndアルバム。

    ドリーミーだった前作から一転して、退廃的なシューゲイズへと大変身。深いリバーブを効かせた音響に虚ろなささやき声が木霊し、雨音のようなクリーントーンを散りばめながら、スロウテンポでじっくりメランコリーに沈めてくれます。

    注目は流麗なストリングスをフィーチャーした#4“Decolate Circuit”と#6“Existential Crisis”。ヴァイオリンではなく、ヴィオラやチェロを使用しているとのことです。シューゲイズにおいては轟音ギターとの棲み分けが難しいので、あまりストリングスが使われることはありませんが、工夫次第で非常に強力な武器になるという好例ですね。

    Pale

    Our Hearts In Your Heaven

    Pale

    Our Hearts In Your Heaven

    • release date /
      2025-01-10
    • country /
      Japan
    • gerne /
      Blackgaze, Noise, Post-Black Metal, Post-Hardcore, Shoegaze
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    東京のポストブラックメタル/ブラックゲイズ・バンドのデビューアルバム。

    2018年のEPリリース以来、約7年ぶりの新作となります。メンバーはギタリストの渡邊氏を除いて刷新され、本作はNiiK(Vo/Noise)、Hirofusa Watanabe(Gt)、Takahiro Watanabe(Ba)、Kou Nakagawa(Dr)の4人編成で制作されました。

    Alcestの幻想美やDeafheavenの光に満ちたサウンドとは一線を画したダークな路線が彼らの魅力です。ブラックメタルの狂気をハードコアの推進力でブーストし、荒涼としたメロディを爆発させるサウンドは、闇夜の雪原を疾走する蒸気機関車さながら。

    そして本作の最大の特徴は、ボーカリストNiiK氏が操るノイズ。#1“Euphoria”でその真価が早々に発揮されます。まるで脳に直接電極を突き刺され、電流で焼かれるような強烈さで、映画『π』の主人公になった気分が味わえること請け合いです。それに負けじとボーカルは狂気じみたスクリームと、汚物をぶちまけるようなデスボイスを使い分け、「俺が人力ノイズだ!」と言わんばかりに圧倒的な存在感を放っています。さらにノイジーなギターに爆速のブラストビートまで加わって鼓膜がもう大変なことに。ええ、エクストリームミュージック好きには最高のご褒美です!

    そんな過激なサウンドに浸っていると、#4"Almost Transparent Blue"で突如として透明感のあるギターが顔を出し、クリーンボーカルで歌い始めるではないですか。どことなくニューウェイヴやゴスのムードも感じられ、Amesoeursを思い出す聴き心地。しかし「甘い夢は終わりだ」とばかりに再び爆走。雷雲を抜けて天へと駆け昇るようなカタルシスをもたらします。Paleの新境地とも言える楽曲で、アルバム中盤のアクセントになっています。

    続く#5 "Dakhme"では、再び狂戦士モードに突入。時速300キロで暴走するブルドーザーのようにすべてをなぎ倒していきます。#6"Lament"は悲壮なトレモロをかき鳴らしながら徐々にフェードアウトし、ラストの#7 "Shringavera" では、雪原で狂い叫ぶ男の姿が真っ白な吹雪に覆われていき、余韻たっぷりに締めくくられます。起伏ある構成で物語を想起させる手腕もお見事。

    大衆化しつつあるポストブラックメタル・シーンに対するカウンターのように、アンダーグラウンドの領域をさらに拡張する形で進化を遂げた意欲作。ポストブラックやブラックゲイズは「ブラックメタル」がルーツであり、闇を孕んだ狂気こそが真髄であると再認識させられます。4月25日からは東南アジアツアーも予定されており、彼らの美学が海外のリスナーにも衝撃を与えることを期待せずにはいられません。