ダークシューゲイズ・ドリームポップのベストアルバム(2025年版)ダークシューゲイズ・ドリームポップのベストアルバム(2025年版)

BEST OF
DARK
SHOEGAZE & DREAMPOP
2025

Wisp

If Not Winter

Wisp

If Not Winter

  • release date /
    2025-08-01
  • country /
    US
  • gerne /
    alternative-rock, dream-pop, grunge, shoegaze, slowcore
Light
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Pop
Extreme
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Dark
Soft
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Pop
Extreme

サンフランシスコ出身のシューゲイズ・アーティストWisp(本名:Natalie R Lu)の1stフルアルバム。Billie Eilish、Kendrick Lamar、Lady Gagaといったトップアーティストを擁する大手レーベル Interscope Records からリリース。

Wispのバイオグラフィー:TikTok発のシンデレラストーリー

Wispのバイオグラフィーはご存知の方も多いでしょうが、先に軽くおさらいしておきます。

当時18歳のNatalie R Luが発表した“Your Face”がTikTokでバイラルヒットとなり、これを契機にInterscope Recordsと契約し、本格的にキャリアを始動。2024年にEP『Pandora』をリリースし、2025年にはCoachellaへ出演。System of a DownやDeftonesといった大物アーティストのオープニングアクトにも抜擢され、現在進行系でライブバンドとしても急速に進化を遂げています。

そんなシンデレラストーリーを含め、いまシューゲイズ好きの間で最も熱い注目を浴びているのがWispなのです。

詳しいバイオグラフィーはこちら▶Wisp『Pandora』レビュー

サウンド面の進化と制作陣

約1年の制作期間を経て完成した本作は、Wispの魅力をスケールアップし、シューゲイズの限界を拡張する冒険心に満ちた作品となりました。ミキシングはLars Stalfors(St. Vincent、Soccer Mommy)とStephen Kaye(Laufey、Ziggy Marley)、マスタリングはRuairi O'Flaherty(Phoebe Bridgers、boygenius)が手掛け、音質が飛躍的に向上。歪んだギターが炸裂しても耳障りにならず、シューゲイズらしい儚いウィスパーボイスの細部まできちんと聴き取れます。前作『Pandora』と聴き比べると一目(耳)瞭然ですね。

注目曲ピックアップ

#1 “Sword”
フォーク調のギターと霧のように儚い歌声でゆったりと幕を開け、突如として力強いドラムが加わり、一気に轟音を解き放つ。夢心地のリスナーを一瞬で現実に引き戻し、物語の始まりを鮮烈に告げるオープナー。

#5 “Guide light”
My Bloody Valentineを彷彿とさせるサイケデリックな轟音シューゲイズ。徐々にダウンテンポになり、ヘヴィさを増していく展開は、重轟音好きなら歓喜不可避。

#7 “If not winter”
スロウコア風にしっとりと離別の哀しみを綴る。アウトロの切ないピアノが追い打ちのように涙を誘う。

#8 “Mesmerized”
Wispとしては珍しいアップテンポなナンバー。サビメロの飛翔感がたまらない。

#9 “Serpentine”
Jシューゲイズとの共鳴も感じさせるキャッチーさが光る一曲。歌メロには the brilliant green や大野愛果など、90〜00年代のJ-POPの香りもかすかに漂う。

#11 “Black swan”
再びKrausと手を組んだWisp史上トップクラスのヘヴィシューゲイズで、本作のハイライトの1つ。轟音を切り裂く美しいボーカルに息を呑む。前作のKrausプロデュース曲『Pandora』と対になる配置なのも興味深い。

#12 “All i Need”
アコースティック調の牧歌的なナンバー。雪解けを経て、緑豊かな草原へと歩みだした─そんな光景が浮かんできます。

多彩なプロデューサー/コンポーザーが参加しているのに世界観が全くブレないのは、まさにプロの仕事。一連のミュージックビデオも、Wispがお城で助けを待つヒロインに扮したり、甲冑をまとった騎士へと変わったりと、ファンタジックな世界観で統一されています。これもアルバムの物語性を強固にしている要因の1つでしょう。(『Pandora』では天使の姿でしたね)

シューゲイズ界への貢献と未来予測

新たな挑戦を取り入れつつ、Wisp流のシューゲイズをとことん磨き上げた珠玉の12曲。個人的にかなりハードルを上げて臨みましたが、『Pandora』を遥かに凌駕するほどの感動がありました。ヒット曲“Your Face”誕生の経緯から、『Pandora』では批判も少なからずありましたが、本作では全曲にコンポーザーとしてNatalie R Luの名前がクレジットされており、制作に深く関わっていることは明白。TikTokが創り上げたスターだと揶揄するのは、もはやナンセンスでしょう。本年度、いやここ数年のシューゲイズ界を代表するにふさわしい傑作。

きっと20年代のシューゲイズ(ニューゲイズ)・ブームのマイルストーンとして後世に語り継がれると思いますが、この作品以後、レッドオーシャン化したニューゲイズがさらに加熱するのか、あるいは収束するのか。いちリスナーとして非常に興味があります。今後の指標となることは確かですが、これを超えるのは並大抵ではなく、業界全体にどれほどの影響を与えるかはまだ未知数。もしかすると、いま私たちは歴史の転換期に立ち会っているのかもしれません。

来日公演への期待、そして次章へ

TikTokのいちシューゲイズ好きだった人物が、ひょんなことから作り上げた一曲が鬼バズり、大手レーベルに見初められ、世界各地をツアーで巡りながら、デビューアルバムを世に送り出す。なんというシンデレラストーリーでしょう。

しかし、これにてハッピーエンド……と言うにはまだ早すぎます。あくまでWispの第一章が終わったばかり。レーベルのバックアップを受けて、コアなシューゲイズ好きだけでなく、ジャンルにこだわりのない一般の音楽リスナーの元にも届き、その反響は厳正に分析されるでしょう。その結果は、シューゲイズ界全体の今後の運命をも左右しかねません。リリース直前のSpotify月間リスナー数は307万。ここからどう推移するのか注目したいところです。

私はいちファンとしてWispの成功と繁栄を祈るばかり……そして、来日公演が実現する日を心待ちにしたいと思います。

さて、冬(Pandora)を乗り越え、春(If Not Winter)を迎えたWispが次に向かうのは、やはり『夏』でしょうか? とことんポップでキャッチーなWispも見てみたいものです。夏への扉は、“Mesmerized”ですでに開かれた……そう感じるのは気が早いでしょうか。

前作のレビューはこちら▶Wisp『Pandora』レビュー

Hermyth

Aether

Hermyth

Aether

  • release date /
    2025-03-07
  • country /
    Italy
  • gerne /
    ambient, doom-metal, doomgaze, drone, post-rock, shoegaze
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Pop
Extreme
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Dark
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Pop
Extreme

イタリアのコズミック・ドゥームゲイズ・デュオ、Hermythの2ndアルバム。

Hermythは2021年に、Nick Magister(ギター、シンセ、ドラム)とTherese Tofting(ボーカル)によって結成。NickはGhostheart Nebula、ThereseはFuneral Voidといったドゥームメタル系バンドの出身であり、Hermythにもその要素が色濃く受け継がれています。なお、「Hermyth」は、おそらくギリシャ神話の神・ヘルメス(Hermes)神話(Myth)を掛け合わせた造語と推測されます。

本作のタイトル『Aether』(エーテル)は、古代において天空を満たすと信じられていた第五元素を意味しています。現在では科学的に否定されているものの、「この世のものとは思えない美しさ」を表す言葉として、今なお象徴的に使われています。

荘厳なキーボードと美しいギターにThereseの幽玄なボーカルが調和したサウンドは、まさにエーテルの名にぴったり。一方で、1stアルバムに比べるとギターのトーンに煌めきが増し、ボーカルの存在感もより前に出ているため、シューゲイズらしい溶け込むような感覚はやや控えめになった印象です。

とはいえ、近い音楽性を持つISONに比べると、曲の尺は短めで、歌メロ重視の展開となっているため、ドゥームゲイズやポストロックを「長くて退屈」と感じる人にもしっくりくるはずです。

ここからはお気に入りの曲をピックアップ。

#1 “Heavens”
星々の煌めきを宿したギター、恒星が放つ光の波のようなシンセ、儚く美しい歌声が織りなす天上の調べ。まるで幽体離脱して星間飛行をしているかのようなスピリチュアルな感覚を味わえます。日本の有名な曲に例えるなら、渡辺典子『火の鳥』をドゥームゲイズ化したらこんな感じかもしれません。

#2 “Aether”
民族音楽や伝統音楽由来のエキゾチシズムが感じられる神秘的なナンバー。古代の人々が星々の煌めきから神話のキャラクターを見出し、敬虔な気持ちを抱いた──そんな感覚を追体験できます。

#5 “Divination”
Aeonian SorrowのGogo Meloneがゲストボーカルとして参加。情感豊かにビブラートで歌い上げる姿は、Thereseとはまた異なる魅力を放っています。さしずめThereseのボーカルが青いリゲルだとすれば、こちらは真っ赤に燃えるアルデバラン。

#6 “The High Priestess”
最もアトモスフェリックで、アルバムタイトル『Aether』の世界観を濃密に味わえるナンバー。10分を超える長尺で、じっくりと浸らせてくれます。目を閉じて聴けば、満天の星空がまぶたの裏に浮かんでくるよう。

全体的にシューゲイズ要素はやや控えめになっていますが、Hermythならではの神話的宇宙観は健在。ぜひ、エーテルの海に身をゆだねて、44分間の星間旅行をお楽しみください。

Myriad Drone

A World Without Us

Myriad Drone

A World Without Us

  • release date /
    2025-03-08
  • country /
    Australia
  • gerne /
    blackgaze, doomgaze, post-metal, post-rock, progressive, shoegaze
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Fast
Pop
Extreme
Light
Dark
Soft
Heavy
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Pop
Extreme

オーストラリア・メルボルン発のシネマティック・ポストメタル・バンド、Myriad Droneの2ndアルバム。

Myriad Droneは、2016年にShane Mulhollandのソロ・プロジェクトとして始動し、翌年には4人編成のバンドへと発展。1stアルバム制作以降に2名のメンバー変更があり、本作のラインナップはShane Mulholland(Gt/Vo)、Jacob Petrossian(Gt)、Simon Delmastro(Ba)、Frankie Demuru(Dr)となっています。2019年のデビュー作『Arka Morgana』は、YouTubeのポストロック専門チャンネル「Where Post Rock Dwells」で2019年のベストアルバム第5位に選出。私もレビューで絶賛した名作です。

それから6年ぶりとなる本作『A World Without Us』(私たちのいない世界)は、タイトルや映画『ピンク・クラウド』を思わせるカバーアートからして、「世界の終末」がテーマであると思われます。

サウンド面では、Shaneのクリーンボーカルが大幅にボリュームアップしているのが最大のポイント。さらにスクリームも取り入れられ、柔らかな叙情と猛々しい激情とのコントラストがより鮮明になりました。彼のクリーンボーカルは、非常に繊細で美しく、まるでSigur RósのJónsiやAlcestのNeigeを思わせます。前作でも「もっと歌唱パートが増えてほしい」と思っていたので、この変化は大歓迎。曲調もややポストロック寄りで牧歌的なムードが増しており、Alcestへの接近も感じられます。

#1 “A World Without Us”
クリーンなパートから一気に轟音とエモーショナルなボーカルが炸裂。ポストロックらしい静と動のダイナミズムで揺さぶりつつ、中間部では一転して民族調のコーラスが挿入され、ボーカルとユニゾンで盛り上がるAlcest風の展開へシフトします。10分強の長尺ながら掴みは上々。

#2 “Forlorn Hope”
ギターが轟音をブチ撒けながら、神秘的なボーカルと邪悪なスクリームが交錯する様は、まるで神と悪魔による最終戦争(アルマゲドン)。レーベルが「ポストロックとシューゲイズの要素をバランスよく取り入れながら、よりダークなサウンドを追求している」と語る通り、本作を象徴するナンバー。いや〜これは巻き添えを食らった人間の生存が危ぶまれますね。

#3 “DYHAMTTAJ”
プログレッシブなリズムワークに神々しいボーカルが飛翔する壮大なナンバー。

#4 “Longing”
繊細なクリーンボーカルを活かした優美なポストロックで、クライマックスには壮大な轟音でカタルシスを演出。

#5 “Disharmonia”
ブラストビートとトレモロギターで疾走するブラックゲイズ。クリーンボーカルが一瞬光を呼び込むも、すぐに轟音にかき消されて闇へと飲み込まれます。まるで人類が滅びに抗うさまを描いているよう。

#6 “Whereabouts Unknown”
TOOL風の変拍子&民族調のイントロで幕を開け、徐々にボルテージを上げていき、聖歌隊の合唱のような荘厳なクライマックスへと到達します。ドラムのFrankieが閃いたイントロのドラムパターンから、新メンバーがアイデアを持ち寄って完成させた新境地的名曲。「TOOL meets シューゲイズ」はまだ例が少ないながら、じわじわと観測されつつあり、いま私の中で大注目のスタイル。まさかMyriad Droneがそれをやってくれるとは、嬉しい誤算でした。今年のベストチューン最有力候補の1つ!

ラストの#7 “Valediction”は、どこか物寂しくも穏やかなメロディで、余韻たっぷりに幕を閉じます。最後に訪れたこの静けさは、人類が絶えた後の世界を示唆しているかのよう。このアルバムは、いずれ滅びゆく人類への鎮魂歌なのかもしれません。

本年度のポストロック/シューゲイズ界を代表する傑作の1つ。Sigur RósやAlcest、Holy Fawnなどのファンは、必ずチェックよろです!

前作のレビューはこちら▶ Myriad Drone『Arka Morgana』

雨の中の馬

Triste EP.

雨の中の馬

Triste EP.

  • release date /
    2025-03-28
  • country /
    Japan
  • gerne /
    alternative-rock, dream-pop, electronic, shoegaze
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Extreme

日本のシューゲイズ・バンド、雨の中の馬による2017年発表のEP。2025年に中国のインディーレーベル『雨模様』(Amemoyo)から初のフィジカル化。あわせて公開されたサブスク版はDisc1・Disc2の2枚組仕様となっています。

雨の中の馬は、Akihiro Nio(Gt/Vo)を中心としたプロジェクトで、本作では作詞・作曲からレコーディング、ミックス、マスタリングに至るまですべて自ら手がけています。また、サポートメンバーとしてKeisuke Yoshimura(Gt/Vo)、Rintaro Yamamoto(Ba)、Saki Miyamoto(Dr)がクレジットされており、Disc1ではシューゲイズらしいノイジーでライブ感のあるサウンドを展開。#1 “Triste”は、サイレンのように狂おしく響き渡るギターノイズに、哀しげな歌声が溶け込み、メランコリック・シューゲイズの理想形といえる上質な仕上がり。甘さや痛みも内包したイノセントな声質は、ART-SCHOOLの木下理樹を彷彿とさせ、Triste=哀しみを表す曲調とよくマッチしています。

続く#2 “Dancer In The Dark”は、後期Supercarの名曲“Yumegiwa Last Boy”を彷彿とさせる轟音ダンスチューン。クールな歌メロや、「愛されたいだけ」と「触れていたい夢幻」の語感に共通点が見られるため、オマージュの可能性もありそうです。

Disc2には、宅録バージョンの音源を収録。こちらはローファイで素朴なタッチが魅力で、同じ曲でもまったく異なる表情を見せてくれます。なお、SoundCloudには1年前に新曲が投稿されており、現在も活動を継続しているようです。気になる方はぜひチェックしてみてください。

bdrmm

Microtonic

bdrmm

Microtonic

  • release date /
    2025-02-28
  • country /
    UK
  • gerne /
    alternative-rock, dream-pop, electronic, industrial, shoegaze, trip-hop
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Pop
Extreme
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Pop
Extreme

UKのハルを拠点に活動するシューゲイズ・バンドbdrmmの3rdアルバム。前作に続き、Mogwai主宰のレーベルRock Actionからのリリース。

bdrmmは、フロントマンであるRyan Smithの宅録プロジェクトとしてスタートし、やがてバンド編成へと発展。2020年の1stアルバム『Bedroom』では、ゴスやポストパンク由来の陰りをまとったシューゲイズで注目を集め、2022年の2ndアルバム『I Don’t Know』ではアンビエントやトリップホップの要素を取り入れ、新たな魅力を開花させました。

本作『Microtonic』では、その進化がさらに加速し、BjörkやFour Tet、Massive Attackといったアーティストの影響を受け、エレクトロニックな領域へとさらに深く踏み込みました(※Jordan SmithがClashのインタビューで発言)。パンデミック以降の不安や孤独、社会の閉塞感が色濃く反映され、かつてのようなシューゲイジーな轟音は影を潜めています。その代わり、不穏なメロディのシンセが霧のようにまとわりつき、じわじわと不安を掻き立てながらも、機械的なビートがトランシーな没入感をもたらしてくれます。彼らが提示しているのは、単なるレイブの高揚感ではなく、現実の不安を払うための逃避行為としてのダンスミュージックなのでしょう。

かなり大胆な変化で賛否両論ありそうですが、私は大歓迎! The KVBやSPC ECOといったダークでエレクトロニックなサウンドが好きな方はぜひお試しあれ。

SOM

Let The Light In

SOM

Let The Light In

  • release date /
    2025-07-14
  • country /
    US
  • gerne /
    alternative-rock, doomgaze, post-metal, shoegaze
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Heavy
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Pop
Extreme
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Dark
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Pop
Extreme

US出身のポストメタル/ドゥームゲイズ・バンドSOMの3rdアルバム。ポストメタル界の名門レーベル、Pelagic Recordsからリリース。

SOMは、Caspian、Junius、Constantsの現・元メンバーによって結成され、これまでアルバムとEPをそれぞれ2作ずつリリース。本作のレコーディング中に創設メンバーのドラマー、Duncan Richが脱退し、それに伴ってメンバー構成が変更。現在のラインナップは以下の4人編成となっています。

  • Will Benoit(Vo, Ba, Gt, Electronics)
  • Justin Forrest(Dr, Ba)
  • Mike Repasch-Nieves(Gt, Piano)
  • Joel Reynolds(Gt, Syn)
  • グランジやシューゲイズ、ドゥームメタル由来の重厚なギターと幽玄なボーカルの調和が生み出す陶酔的なサウンドは、メタル系の音楽メディアMetal Injectionによって「ドゥームポップ」と形容され、まるで茨の棘に絡みつく甘美な蜜のような個性的な味わいを生み出しています。2023年のEPで見せたDepeche Modeへの憧憬や、グリーンのアートワークで示されるType O Negativeへのリスペクト*もしっかりと継承されています。

    インタビューで、グリーンのアートワークがType O Negativeのオマージュであることが明かされています。また、別のインタビューでは、ボーカリストのWill Benoitがバンド初期の構想において「Type O NegativeのPeter Steeleのような圧倒的な存在感を持つキャラクター」を思い描いていたと語っています。彼自身はそのような人物にはなれないとしながらも、そのイメージは常に頭の片隅にあったとのことです。

    本作では『Let The Light In』というタイトルの通り、従来のメランコリックな作風から希望の光へと歩みを進めるような変化が感じられます。パンデミック期の陰鬱なムードの中で書かれた#2 “Let The Light In”では、「光を招き入れよう」と繰り返し歌われており、その変化を象徴するナンバーとなっています。

    その影響で、全体的にダークさは控えめになっており、ダークシューゲイズ目線だと少々物足りなさもありますが、静と動・光と闇のコントラストが冴える#5 “Give Blood”、退廃的で深い哀愁を放つ#8 “The Light”といったダークな楽曲たちは、かえって強く存在感を放っています。「光が強ければ、闇もまた深くなる」とは実に言い得て妙ですね。とはいえ、過去作より光のオーラが強めな点は、少々好みが分かれるところです。

    10月からは、Slow CrushのUKツアーでBlanketとともに各地を巡る予定のSOM。闇の中で希望の光を見出した彼らがどんな成長を遂げるのか、とても楽しみです。いつか日本にも来てほしいですね。

    Circuit des Yeux

    Halo On The Inside

    Circuit des Yeux

    Halo On The Inside

    • release date /
      2025-03-14
    • country /
      US
    • gerne /
      darkwave, drone, gothic, industrial, neoclassical, synth-pop
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    Extreme
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    Slow
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    Pop
    Extreme

    イリノイ州シカゴのSSW、Circuit des Yeux(本名:Haley Fohr)の8thアルバム。InterpolやSnail Mailを擁するMatador Recordsからリリース。4オクターブの歌声を駆使しながら、ゴシック/ポストパンク/ネオクラシカル/ダークウェイヴ/インダストリアル/フォークを自在に渡り歩くボーダーレスなサウンドが特徴。

    本作ではインダストリアル色を強化し、よりダークに進化。低音とファルセットを巧みに使い分け、Chelsea WolfeやDead Can Dance、Depeche Modeが電脳世界でセッションしたかのようなシネマティックな暗黒舞踏を展開しています。

    シューゲイズ好きにイチオシなのは、#4 “Anthem of Me”。荘厳なネオクラシカルとドローン風の歪んだギター、巨像の足音のような重厚なビートが見事に融合しており、ISONやLovesliescrushingといった幽玄なドローン/ドゥームゲイズ好きにもきっと刺さるはず。

    ちなみに、ドローン風の音響にフォークやネオクラシカル/ダークウェイヴを融合させる試みは、最近のEthel CainやPenelope Trappesの楽曲にもいくつか見られ、個人的に注目しているスタイルの1つ。今後も積極的にご紹介していくので、乞うご期待です。

    Ritualmord

    This is not Lifelover

    Ritualmord

    This is not Lifelover

    • release date /
      2025-03-08
    • country /
      Sweden
    • gerne /
      ambient, blackgaze, depressive-black-metal, folk, industrial, post-black-metal, post-rock
    Light
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    Pop
    Extreme

    Lifeloverの元メンバーによる新バンドRitualmordのデビューアルバム。

    スウェーデンのデプレッシブ・ブラックメタル・バンドLifeloverの元創設メンバーである( )(本名:Kim Carlsson)と1853によって2007年に結成され、2020年から本格的に活動を開始しています。

    Lifeloverの1stアルバムにそっくりなアートワークなのに「This is not Lifelover」(これはLifeloverじゃない)というタイトルで戸惑う方もいるかもしれません。これはLifeloverの20周年を祝いつつ、「何をしても比較されるからこそ、あえてLifeloverではない」と明言し、新たなスタートを印象づける狙いがあるようです。

    実際に音を聴いてみると、アンビエント、フォーク、インダストリアルからポストロック〜シューゲイズに至るまで、多彩な要素がブレンドされていて、「確かにLifeloverではない」と納得させられます。一部の楽曲は、当初Lifeloverのために書かれたもので(実現はしなかったものの)、随所に挿入されるKim Carlssonのスクリームからは、Lifeloverの遺伝子を感じずにはいられません。しかしKatatoniaの『Brave Murder Day』直系のデプレ路線だったLifeloverと比べると、Ritualmordはもっとドリーミーで、ブラックゲイズやポストブラックの領域に踏み込んでいるのが最大の違い。Lifeloverの残滓をわずかに漂わせつつ、別の可能性──すなわち“Lifeloverオルタナティブ”とでも呼ぶべき、新たな世界観を打ち出しています。

    デビュー作だけに、まだまだ模索中という印象もありますが、今後シューゲイズやポストロックの要素がさらに強化される予感もあり。Lifeloverという枷を外れて自由を得た2人が、今後どのような世界を描いていくのか非常に楽しみです。

    なお、Kim Carlssonが関わるもう1つのプロジェクト、Kallも個性的な作品をリリースしているので、ぜひあわせてチェックしてみてください。

    Glixen

    Quiet Pleasures

    Glixen

    Quiet Pleasures

    • release date /
      2025-02-21
    • country /
      US
    • gerne /
      alternative-rock, grunge, dreampop, shoegaze
    Light
    Dark
    Soft
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    Pop
    Extreme
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    Pop
    Extreme

    アリゾナ州フェニックスを拠点とするシューゲイズ・バンドGlixenの2nd EP。プロデューサーはMy Bloody ValentineやDIIVなどを手がけたSonny DiPerri。

    Glixenは、2020年に結成して以来、SXSWをはじめとする多数のフェスティバルに出演し、2025年4月にはついにCoachellaのステージに立ったシューゲイズ界の超新星。現メンバーは、Aislinn Ritchie(Vo/Gt)、Esteban Santana(Gt)、Sonia Garcia(Ba)、Keire Johnson(Dr)の4人となっています。ちなみにバンド名の「Glixen」は、Lovesliescrushingの楽曲名が由来です。

    砂嵐のようなノイズに、ダークで官能的なメロディを溶け込ませた重厚なサウンドが最大の特徴で、若手ながらMBVファンも唸らせる本格派のオーラを放っています。

    本作は甘美さを残しつつ、さらにダークかつソリッドに深化。オープニングの #1 “shut me down” は、ドラムの連打と轟音ギターの壁で圧倒するインスト。ライブでラストを飾る定番曲となっています。日本のくゆるが好きな人にぶっ刺さること請け合いです。

    イチオシは #4 “sick silent”。甘美なメロディとJesu級のヘヴィなノイズが渦巻くサウンドは、ゼクノヴァ砲さながらの破壊力。

    近年のニューゲイズ勢がDeftonesやWhirrの影響下で独自進化を遂げている一方で、Glixenはその流れにMBVへの原点回帰のエッセンスを加えている印象を持ちました。新規のシューゲイズファンを原典へと導く「ジークアクス」的な循環を生み出してくれることを期待したいですね。

    シューゲイズの新世代を担う存在として、Wispともども目が離せません。もし来日が実現したら、ぜひくゆると対バンしてほしいですね!

    【Glixenメンバーの小ネタ集】

    • Aislinn(Vo/Gt)
      映画好きで、特にグレッグ・アラキ監督の『リビング・エンド』『ノーウェア』『スプレンダー/恋する3ピース』がお気に入り。1st EP収録の名曲 “Splendor” の由来にもなっている
      好きなアニメは『NANA』『lain』『エルゴプラクシー』『ちょびっツ』『寄生獣』『チェンソーマン』など(妙に濃いラインアップに親近感……!)
    • Esteban(Gt)
      元メタル畑の出身で、Godfleshがお気に入り
      意外にもDead Can Danceも嗜むそう
    • Sonia(Ba)
      2019年にベースを始めたばかりで、Glixenが初めてのバンド
      好きなアニメは『鋼の錬金術師』
    • Keire(Dr)
      好きなアニメは『アフロサムライ』
      インタビューで「日本に行ってみたい」と語っている

    路傍の石

    alternative mick

    路傍の石

    alternative mick

    • release date /
      2025-01-19
    • country /
      Japan
    • gerne /
      alternative-rock, emo, grunge, post-rock, shoegaze,
    Light
    Dark
    Soft
    Heavy
    Clear
    Noisy
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    Pop
    Extreme
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    Pop
    Extreme

    ボカロPとバンド、2つの顔を持つ東京発のアーティスト・路傍の石の7thアルバム。

    前作『Pater Noster』ではブラックゲイズ/ポストブラックメタルにフォーカスしていましたが、本作では一転してエモ、グランジ、シューゲイズ、ハードコアなどを融合したオルタナティブ・ロック色の強い作風になっています。

    ここではダークシューゲイズ好きにおすすめの2曲をご紹介します。

    #4「僕は彼女の幽霊を見た」
    冬の冷たさをまとったサッド・シューゲイズ。愛する人を失った哀しみが、心に凍傷のような痛みを刻みつける。Whirrの『Sway』が好きな方に特におすすめ。

    #5「生きていてごめんなさい」
    路傍の石史上、最もダークな楽曲のひとつ。自罰的なセリフが延々と綴られる中、突如として悲痛な絶叫が放たれ、儚い歌声と重なり合いデプレッシブ・ブラックメタル級の希死念慮を撒き散らす。絶叫はおそらくミクさんの声を加工したもので、『深淵に心在りて』などでも使われていましたが、これほどエグいものは初めてではないでしょうか。ボーカロイドも工夫次第でここまでの感情表現ができるとは驚きです。

    ただし、あまりにも暗いため、気分が落ち込みやすい方や感受性の強い方はくれぐれもご注意ください。私も元気がないときにうっかり聴いてしまって闇に呑まれそうになりましたが、咄嗟にぼっちちゃんの電子音めいた悲鳴に脳内変換して難を逃れました(笑)

    なお本作の翌月には、早くも8thアルバムがリリースされ、さらに6/17にはバンド形式での初音源も公開。創作への貪欲な熱意に頭が下がります。

    今回レビューを書くにあたって、比較のために過去作もすべて履修したのですが、どれも素晴らしかったです。そろそろライブで体感してみたいですね!

    Autumn's Grey Solace

    The Dark Space

    Autumn's Grey Solace

    The Dark Space

    • release date /
      2025-01-25
    • country /
      US
    • gerne /
      darkwave, dream-pop, ethereal-wave, folk, gothic, shoegaze
    Light
    Dark
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    Pop
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    フロリダ州セント・オーガスティンを拠点とするデュオ、Autumn's Grey Solaceの17thアルバム。※Winterrim(2012)は新録のない編集盤なのでオリジナルアルバムは16作目だと思いますが、公式に従って17とします。

    Autumn's Grey Solaceは、マルチ・インストゥルメンタリスト/作曲家のScott FerrellとボーカリストのErin Weltonによって2000年に結成されたエセリアルウェイヴ・デュオ。2002年に自主制作で1stアルバムをリリースし、今も現役で活動している大ベテランです。

    彼らの紹介に入る前に、エセリアルウェイヴ(Ethereal Wave)というジャンルについて軽く解説しておきます。エセリアルウェイヴは、広義のダークウェイヴのサブジャンルの1つで、1980年代初頭のゴシックロック/ポストパンクから誕生したとされています。このムーブメントを代表する4ADの中で、とりわけ幻想的なサウンドのCocteau TwinsやThis Mortal Coilが「ethereal」と評されたことが由来のもよう。

    「ethereal」の語源となったエーテルは、古代ギリシャでは天上の領域を構成する第五元素とされ、のちの近代科学では光や電磁波を伝える媒体と考えられていました。いずれの概念も現代科学では否定されていますが、その名残として「ethereal」という言葉は「この世のものとは思えないような繊細さや美しさ」を形容する際に使われています。

    エセリアルウェイヴは初期ゴシックロック/ポストパンクから誕生した背景もあって、ゴシックとシューゲイズ〜ドリームポップを繋ぐ存在となっています。特に代表格であるCocteau Twinsは、現在でも両ジャンルからオリジネイターの1つとしてリスペクトされており、これが「ゴシックとシューゲイズは親和性が高い」と私がよく言っている根拠の1つでもあります(同列にThe Cureもいるけど長くなるので割愛)。

    のちにエセリアルウェイヴは、1983年にBlack Tape for a Blue GirlのSam Rosenthalによって創設されたProjekt Recordsに受け継がれ、Love Spirals DownwardsLyciaといった名アーティストを輩出しました。その後、2000年初期に現れたのが、今回ご紹介するAutumn's Grey Solaceです。

    Scottは14歳からギターを始めて、様々な楽器に手を伸ばしていき、作中のベースやドラム、マンドリンなどの演奏はほぼ全てScottが手掛けています。演奏を始めた頃は、Dead Can Dance、Cocteau Twins、The Cure、The Smithsなどから影響を受けていたそうです。

    いっぽうErinは、完全に独学で妖精のような美しい歌声を身につけたのだとか。インタビューでは、Dead Can DanceのLisa Gerrard、Morrissey、Madonnaといった様々なボーカリストから影響を受けていると語っています。※Autumn's Grey SolaceはProjekt RecordsのDead Can Danceトリビュートで“Musica Eternal”をカバーしています。

    サウンド面は、キラキラしたテクスチャーのギターによる幻想的なムードがCocteau Twinsを想起させますが、Autumn's Grey Solaceはマイナーコードを多用しており、秋や夜にぴったりのメランコリックな作風が特徴です。本作『The Dark Space』でもその魅力はしっかり継承されています。

    #1 “Forever Dreaming”は温もりのあるアコースティックナンバーで、今までにない小悪魔的な歌声が飛び出します。路線変更?かと思いきや、#2 “Catch My Canaries”からはいつもの妖精のような繊細な歌声を響かせてくれます。物憂げなアルペジオの後に放たれる神秘的なソプラノはまるでDead Can Danceのよう。

    #3 “Darkens the Soul”
    雨や夜の光景が浮かぶメランコリックなメロディはまさにAutumn's Grey Solaceの真骨頂。

    #4 “Silhouettes of Light”
    美しいギターの合間に漂う哀しいメロディが、光が生む影のように心に深い陰影を刻む。アルバムのハイライトにふさわしい名曲。

    これ以降も良曲揃いで、ラストまで息つく暇なく徹底的に耽美な世界へ沈めてくれます。今年の耽美部門ベスト入り間違いなしの充実作。17作目でも全く衰えないクオリティにリスペクトしきりです。

    彼らがいる限りエセリアルウェイヴは不滅……と言いたいところだけど、後継があまりいないのが少々気がかり。近い系統は若いアーティストだとdearyくらいでしょうか。ところがZ世代のシューゲイズファンの間でCocteau TwinsやSlowdiveが非常に人気となっている影響で、エセリアルウェイヴも徐々に注目されているようです。この先、新世代のエセリアルウェイヴが登場してくれると期待しましょう。

    最後に「アルバムが多すぎてどこから聴けばいいの?」という人のために、私のオススメを挙げておきます。

  • 2nd『Over The Ocean』:Projektと契約して初のリリースとなるアルバムで、光と闇がバランスよく楽しめます。開幕の“Waning Faithful”が超メランコリックでオススメ。
  • 4th『Shades Of Grey』:ゴシックかつ轟音シューゲイズ色強め。特に“Angel of Light”はAutumn's Grey Solace最強のシューゲイズ曲の1つ。
  • 5th『Ablaze』:キャッチーな曲からクラシカルで荘厳なもの、プログレ風にダークなゴシック系まで揃うエネルギッシュな作品。レーベル屈指のセールスを記録したのも納得の名作。煉獄さんみたいなジャケもインパクト大。
  • 12th『Englelícra』:研ぎ澄まされた高純度の美メロに溺れる至福……耽美系の1つの到達点。
  • ここに挙げきれなかったアルバムもいずれ劣らぬ素晴らしさなので「どこから聴いても問題なし!」が私の結論です(笑)

    聴き心地は同人音楽界でいう幻想浮遊系に通じるものがありますし、ZABADAKや新居昭乃、近年だと青葉市子が好きな人もハマると思うので、ぜひ気軽に触れてみてください。

    PLOTOLEMS

    para?anomaly

    PLOTOLEMS

    para?anomaly

    • release date /
      2025-05-28
    • country /
      Japan
    • gerne /
      alternative-rock, darkwave, gothic, industrial, newwave, noise, shoegaze
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    Dark
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    東京のオルタナティブロック・バンドPLOTOLEMSの1stミニアルバム。

    PLOTOLEMSは、さくれむ(Gt/Vo)のソロプロジェクトとして始まり、2020年7月にしょう(Dr)が加入して本格始動。その後、1st EP『A FICTION』(2020)、2nd EP『A GHOST』(2022)をリリース。現在はフジモト(Ba)が加入して3ピースとなっています。

    彼らを初めて知ったのは、シューゲイザー特化型イベント『Total Feedback』の2022年9月公演でした。全くの初見でしたが、キャッチーなバンドが集う中、ひときわダークなサウンドで攻める異質さに衝撃を受けました。

    『第一印象はコールドウェイヴ×インダストリアル×シューゲイズ。闇の中に青い炎を灯すような冷たく美しいサウンドで、冷たい音色のキーボードとアンニュイな歌声のマッチングはAsylum Partyといったコールドウェイヴの血脈を。エレクトロ色の強い曲にはSkinny PuppyやSOFT BALLETに通じるセンスを感じました。』とTwitterへ興奮気味なコメントを残しています。そして2nd EP『A GHOST』に触れて彼らの世界観にズブズブとハマっていったのでした。ちなみに2nd EPの推し曲は“This City is Hell”です。

    本作においてもオルタナティブロックにシューゲイズ、ノイズ、インダストリアル、ニューウェイヴなどを巧みにブレンドした越境的なサウンドで、彼らが掲げる「Japanese Industrial Horror Dark Alternative」にふさわしい闇深き世界観が徹底的に描かれています。あどけなさと狂気をあわせ持つさくれむ氏のボーカルはさらに表現力が増し、繊細なクリーンボーカルから悲鳴じみた絶叫をも操り、リスナーを狂気の深淵へと誘います。

    ここからは各曲の感想に移ります。

    #1“見ている”
    仄暗い水の底から響く、工場の駆動音のようなインダストリアル。太古の儀式のようなシャーマニックな響きが陶酔へと導く。

    #2“int main()”
    初期ART-SCHOOLばりに青い衝動と焦燥感をほとばしらせる疾走チューン。本作で最もキャッチーで、ライブ映えは間違いなし。

    #3 “4294967296”
    ここから一気にPLOTOLEMSらしさ全開。さくれむ氏のシャウトと、グリッチノイズばりの轟音ギターが脳を灼く。荒れ狂うノイズと淡々と鳴り響くキーボードのアンバランスさも病みつきになりそう。そして鬱々と唱えられる数字が破滅へのカウントダウンを予感させる──Wikiによると4294967296は、32ビットCPUが(素直に)管理することができるメモリアドレス空間の上限容量なのだそう。あの世が飽和して行き場をなくした死者がネットを通じて溢れ出してくる……そんなシーンが浮かんできます。そう思うと、死(4)や苦(9)といった不吉な言葉の羅列にも見えてくるから不思議。

    #4 “連鎖”
    ミニマルなビートに冷たいピアノを散りばめた退廃的なインダストリアル。In Slaughter NativesといったCold Meat Industry産ダークアンビエント/インダストリアルとの共鳴も感じさせ、名状しがたい恐怖をじわじわと心に植え付けていく。

    #5 “狂う夢”
    シューゲイズ/ポストロック風の導入で幻想的な白昼夢に浸らせておいて、ドス黒いノイズとシャウトで一気に地獄へと突き落とす。ジル・ド・レイばりの鬼畜さについ下卑た笑いが漏れてしまう。

    #6 “NECTAR”
    甘く気だるげな歌声と脈動するベースの調和にうっとり聴き入っていると、突如ぶっといギターにぶん殴られる。一瞬たりとて油断は禁物、それがPLOTOLEMS。

    #7 “paranoia”
    内側が鏡張りの箱に詰められたまま、坂道を転がされるような無軌道な展開に揺さぶられる。そこに金属を穿つようなピアノと、砂利をぶちまけたようなギターノイズが襲いかかる。これで気が狂わずにいられようか……

    全7曲、計28分。まさに耳で体感するホラー・オムニバス。『Total Feedback 2024』のコンピでキラキラした曲を出して、まさかの陽キャ化?なんて思ったりもしたけれど、まったくもって杞憂でした。この勢いで闇の奥底へと突き進んでほしいものです。

    次は『para?anomaly』というタイトルについて考察していきます。

    ホラー映画ファンなら、真っ先に『パラノーマル・アクティビティ』(Paranormal Activity)を連想するでしょう。しかし「Paranormal=超常現象」の間に「?」が差し挟まれ、「para」(反する)と「anomaly」(異常)に分解されることで、その異質さが浮き彫りになります。

    そのまま「異常の反転」=「正常」と捉えることもできますが、ここで「para」を「parallel」(並行あるいは並列)と置き換えると、「anomaly」(異常)はどこにでも偏在している、というメッセージにも読み取れます。つまりこのタイトルは、こう問いかけているのではないでしょうか──『“異常”があたりまえのように存在しているのなら、それを“異常”と呼ぶこと自体が、すでに異常なのだ』

    某漫画の「君らの神の正気は一体どこの誰が保障してくれるのだね?」という台詞にも通じる視点ですね。あくまで私の勝手な解釈なので、可能性の1つとして受け取ってください。

    そしてアートワークも魅力の一つ。顔にポッカリと空いた木の洞のような穴が、実におぞましくも美しい。個人的には架空の人物(ロングVer)の顔が掻き消えたカバーアートもTravis Smithみたいで気に入っています。Tシャツが欲しいのでぜひ作ってください(願望は声に出していくスタイル)。

    さて、そんなPLOTOLEMSですが、2025年8月3日に初の自主企画が決定しました! 暗黒音楽愛好家はぜひお見逃しなく!

    最新情報はPLOTOLEMSのSNSをチェック

    PLOTOLEMS:X

    kuragari

    天和

    kuragari

    天和

    • release date /
      2025-05-05
    • country /
      Japan
    • gerne /
      alternative-rock, bedroom-pop, noise-pop, shoegaze
    Light
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    日本のベッドルーム・シューゲイズ・アーティスト、kuragariの5thアルバム。

    本サイトの2024年度ベストを飾ったkuragariから、今年もニューアルバムが届きました!

    kuragariの最大の個性である、凶悪なノイズと切ないメロディの融合は今作でも健在。まるでマーシャルアンプをぎっしり積み上げた四畳半の真ん中で、歪んだエレキギターをかき鳴らしながらフォークソングを歌っているかのようです。

    歌声はさらに歪みが増した印象で、#6 “(ff) おぼえている!” を除けば、ブラックゲイズのスクリームのようにも聴こえてきます。いや〜毎度ながら攻めてますね。

    ちなみに、このkuragariのように極限まで歪ませまくったノイジーなシューゲイズを私は『聴覚破壊系』と呼んでいるのですが、kuragariは他の追随を許さないほど過激な音造りで、当ジャンルでも唯一無二の存在感を放っています。また、日本のアーティストであること以外は一切の素性が不明という点もkuragariをいっそう孤高の存在へと押し上げていると思います。

    一方、歌詞に注目すると、かつての懐かしい日々を振り返るような内容が描かれています。

    タイトルの『天和』は、麻雀における非常に珍しい役のひとつで、その確率は約33万分の1とされています。約80億人が生きるこの地球で、かけがえのない人と出会い、共に過ごした奇跡を「天和」に重ねているのかもしれませんね。

    また、歌詞の中で音楽記号が使われているのもユニークな試みです。

    • ||: :||(リピート記号)
    • Fine(フィーネ)
    • D.C.(ダ・カーポ)
    • 8va(オッターヴァ)
    • #(シャープ)
    • ff(フォルティッシモ)

    意味を知った上で歌詞を読むと、新しい発見があるかもしれません。ぜひ、歌詞とともに聴いてみることをおすすめします。

    なお、再生時の音量にはくれぐれもご注意を。Ulverの3rd級にノイジーなので、大音量で聴くと確実に耳がヤラれます。耳は音楽ライフの資本ですので用法・用量を守って安全に楽しみましょう!

    Violet Cold

    Modular Consciousness

    Violet Cold

    Modular Consciousness

    • release date /
      2025-02-09
    • country /
      Azerbaijan
    • gerne /
      black-metal, blackgaze, dreamwave, shoegaze, synthwave
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    Pop
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    アゼルバイジャンのブラックゲイズ・アーティスト、Violet Coldによる2025年リリースの5曲入りEP。

    Violet Coldはアゼルバイジャン・バクー出身のEmin Guliyevによるソロ・プロジェクト。Alcestに大きな感銘を受けた彼は、活動初期はAlcest系の美メロブラックゲイズをやっていましたが、次第にアンビエント、ポストクラシカル、民族音楽、EDM、ブレイクコア、Hip Hopなど多彩なジャンルを取り入れ、唯一無二の世界観を構築。型にとらわれない自由なスタイルは、人呼んでブラックゲイズ界のトリックスター。

    2023年のアルバム『Multiverse』以降は、ポストクラシカルやLo-fi Hip Hop、レイブ系といった多彩なシングルを連発。傾向が全く読めない状況で登場した新作は、意外にも全編シンセウェイヴ路線でした。ブラックゲイズ×シンセウェイヴならAbstract Voidがいるから、そこまで意外じゃなくね? と思った人は甘い。Abstract Voidがブラックゲイズをメインにシンセウェイヴを加えたのに対し、Violet Coldはシンセウェイヴがメインでブラックゲイズをちょい足しするという、真逆のアプローチになっています。

    オススメは#2 “Nightfall”。ノリノリのダンスビートとともにバブリーなシンセが弾けた瞬間、熱狂渦巻くダンスフロアやネオンきらめくナイトシティへ強制転送。シンセウェイヴオタクの目線でもかなりイケてます。エモーショナルなボーカルと邪悪なスクリームが交錯し、ブラックゲイズの醍醐味である美醜の対比もしっかり完備。どんな具材をブチ込んでも美味しく仕上げるあたり、さすがはブラックゲイズ界のトリックスター。

    なお、本作の後にリリースされたシングル“Oh My Goth I'm Emo”は、ポップパンク×ブラックゲイズ×アニソン風日本語女性ボーカルという斜め上の作風で、またしてもファンをざわつかせました。かわいい歌声はボーカロイドと思われますが、アゼルバイジャンのアーティストがmikgazerの領域に踏み込んでくるだなんて、誰が予想できたでしょうか。しかも、ちゃんと意味の通る日本語なのも興味深いところ。もしかすると、Violet ColdからHanazawa EP級の萌え系シューゲイズが飛び出す日も近いのかもしれません──まあ、そんな予想すらきっと軽々と飛び越えてくれるんでしょうけど(笑)。

    Unreqvited

    A Pathway to the Moon

    Unreqvited

    A Pathway to the Moon

    • release date /
      2025-02-07
    • country /
      Canada
    • gerne /
      ambient, black-metal, blackgaze, post-metal, post-rock, progressive, soundtrack
    Light
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    Dark
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    Noisy
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    Fast
    Pop
    Extreme

    カナダ発ポストブラックメタル/ブラックゲイズ・プロジェクトUnreqvitedの7thアルバム。

    Unreqvitedは、鬼(Ghost)によるソロプロジェクトで、2016年のデビュー以来、ピアノやストリングスによる壮麗なシンフォニーとブラックメタルの暴力性を融合してドラマティックな作品を生み出してきました。本作から新たな試みとして本格的にクリーンボーカルを導入し、未踏の領域へと踏み出しています。

    冒頭の#1 “Overture: I Disintegrate”で、メランコリックなピアノの伴奏にのせて本人による美しいクリーンボーカルを披露。これまでもコーラス風の演出はありましたが、ここまで全面的に歌っているのは初めてだと思います。

    #2 “The Antimatter”は、従来のUnreqvitedらしいシンフォニックな爆走でスタートし、緩急を巧みにスイッチしながら、クリーンボーカルとスクリームを交錯させるドラマティックな構成で魅せる。Unreqvitedの過去と現在、そして未来を暗示する象徴的なナンバー。

    ハイライトは#3“The Starforger”。物悲しいアルペジオで始まり、神秘的なシンセと泣きのギターが絡み合いながらじっくりと進行し、サビで一気にエモーショナルな歌声を爆発させる。これがTesseracTのダニエル・トンプキンスを彷彿とさせる美声で衝撃……!

    #4 “Void Essence / Frozen Tears”、#5 “Into the Starlit Beyond”は、クリーンボーカルとスクリームの対比が光るミドルテンポのポストロック風ナンバー。トレモロギターとシンセの煌めきが天球を埋め尽くす星々のよう。

    ラストの#7“Departure: Everlasting Dream”は、エンドロールにふさわしいピアノとストリングスによる安らかなナンバー。“The Starforger”のメロディが走馬灯のようにプレイバックされ、静かに物語は幕を下ろします。

    プログレッシブかつドラマティックに進化を遂げた革新作。目を閉じて聴けば、SF映画のような壮大なヴィジョンが脳裏に浮かぶことでしょう。アルバムを聴き終えた時、私の頭の中にはクリストファー・ノーラン監督の『インターステラー』や星野之宣の『緑の星のオデッセイ』の感動的なラストシーンが浮かんできましたが、あなたはどんな物語を思い浮かべましたか?

    Unreqvitedは、2025年5月からTribulation・Unto Othersと共に北米ツアーを敢行。バンド編成のUnreqvitedが、どんなパフォーマンスを繰り広げるのか非常に楽しみです。明日の叙景とのスプリットを出した縁もあることですし、来日にも期待したいところですね!

    Self Destruction in Your Dreams

    焦葬

    Self Destruction in Your Dreams

    焦葬

    • release date /
      2025-02-08
    • country /
      Japan
    • gerne /
      black-metal, blackgaze, depressive-black-metal, post-black-metal, progressive, shoegaze
    Light
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    岐阜発デプレッシブ・ブラックゲイズ・バンドSelf Destruction in Your Dreamsの1stアルバム。A.Aoki(Gt/Vo)、ののの(Gt/Key/Vo)、Takeuchi(Gt)、食事報告ニキ(Ba)、Redkensamba(Dr)の5人編成で制作されました。

    ブラックゲイズ(ブラックメタル×シューゲイズ)はAlcestやDeafheavenのおかげでご存知の方も多いでしょうから、まずデプレッシブ・ブラックメタルについて軽く解説を。

    90年代初頭、ノルウェーのブラックメタルは、「インナーサークル」と呼ばれる集団による教会放火や殺人事件をきっかけに、過激なイメージを確立しました。一方、デプレッシブ・ブラックメタルは苦悩、絶望、鬱、自殺といった内省的なテーマを深く掘り下げ、陰鬱なムードを打ち出しているのが特徴です。ブラックメタルが外へ向かう破壊衝動を描くのに対し、デプレッシブ・ブラックメタルは自身の内にある破滅願望を音に込めています。

    世界でもトップクラスに治安が良いとされる日本ですが、将来への不安や孤独、鬱に苦しむ人が多く、自殺率が高いことで知られています。よってデプレッシブ・ブラックメタルは、我々日本人の抱える闇に深く共鳴する音楽の1つだといえるでしょう。

    前置きが済んだところで、さっそく本題に入ります。

    本作は短いポエトリーリーディング#1“Five Seconds of Pleasure”で幕を開け、続く#2“ひとでなしの恋”で、陰鬱なトレモロギターと悲痛な絶叫で聴く者の魂を一気に地獄へと引きずり込むも、随所に女性コーラスや儚げなキーボードを散りばめ、闇と美のコンストラストによってブラックゲイズ好きの心をしっかり掴んできます。ブレイクしてポエムパートを挟み、絶叫とともに轟音を放ちクライマックスへ──初っ端から9分越えの長尺ながら緩急の妙で魅せてくれます。

    #3“灯火”の冒頭では、Silent Hill 2の『Theme of Laura』のオマージュと思われるメロディが顔を出します。ホラゲー・鬱ゲー界の校歌みたいなものなので、初耳でしたらこの機会に覚えて帰ってください。その後は、絶叫を皮切りにワルツ調のピアノが主体となり、爆走パートへなだれ込みます。ここから更に切れ味の良い刻みリフが暴れまわり、ヘドバン欲を否応なく掻き立てます。そして再びワルツ調のピアノが顔を出し、冒頭のTheme of Laura風のメロディが戻ってきて、絶望の輪廻を暗示するかのような円環構造で締めくくられます。10分を超える長尺ながら非常にドラマティックで、間違いなく本作のハイライトといえるでしょう。

    #5“ひとりぼっちの心中”は、ののの氏の美しい歌声をメインにしたヘヴィシューゲイズ風のナンバー。和の情緒を感じさせるメロディが、既存のUSシューゲイズにはない個性を打ち出しています。突如としてブラスト&絶叫で爆走する展開もスリリング。

    ポストロック風にゆっくりと哀しみを紡いでいく#6“雨”、後期Emperorに通じる不穏なフレーズが心をかき乱す#8“Red Eyes”、腐臭漂うリフで毒沼に沈める#9“If”(コントのオチみたいなフレーズが飛び出すのも面白い)など、バラエティーに富んだ楽曲が次々と繰り出され、最後まで息をつく暇を与えません。音質もクリアで、デビューアルバムとは思えないクオリティ。

    ここからは歌詞を考察していきます。歌詞に注目すると、第三者が介在しない『僕』と『君』だけの閉じた世界が徹底して描かれています。さらにゲシュタルト崩壊を起こしそうなほど【死・殺・壊・消】といった負のワードが溢れかえっていて、あまりの異常さに読んでいて気が滅入りそうになることでしょう。

    おそらく『僕』はすでに正気を失った、ミステリでいう『信頼できない語り手』であって、実は『君』の存在は『僕』の妄想の産物なのではないでしょうか。自分の頭の中に創り出した『君』を愛しながらも破滅を願う矛盾がさらなる狂気を生み、『僕』と『君』が延々と死を繰り返す夢の世界に囚われているのかもしれません。#3“灯火”の円環構造もこの説を裏付ける証拠の1つです。Self Destruction in Your Dreams=『夢の中での自己破壊』とは実に言い得て妙ですね……あっこれ全部私の妄想の話しね!

    本作が気に入った方は、新曲の“3番ホーム、僕は飛び込む”もぜひチェックしてください。音と歌詞が密接にリンクし、語り手の壊れきった精神状態が浮き彫りになるとても恐ろしい曲です。部屋の明かりをすべて消し、ガタガタ震えながら聴きましょう。この調子で次はNorttよろしく葬式系の激遅デプレブラックドゥームなんていかがですか?(願望は声に出していくスタイル)

    また、ソロプロジェクトが多いDSBM系にあって、バンド編成でライブ活動を行っているのも彼らの強み。2025年5月10日㈯にワンマンライブが予定されているので、近隣の方はぜひ足を運んでみてください。今後もkokeshiやLifeblood、SAWAGI、Paleたちと共に日本全土に闇を撒き散らして欲しいものです。

    最新情報はSelf Destruction in Your DreamsのSNSをチェック

    Self Destruction in Your Dreams : X

    Self Destruction in Your Dreams : Instagram

    Amira Elfeky

    Surrender

    Amira Elfeky

    Surrender

    • release date /
      2025-03-28
    • country /
      US
    • gerne /
      alternative-metal, gothic-metal, grunge, nu-metal, shoegaze
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    LAを拠点に活動するアーティスト、Amira Elfekyの2nd EP。

    コネチカット州出身のAmira Elfekyは、子供時代に兄たちから00年代のニューメタルを紹介され、DeftonesやLinkin Park、Evanescenceといったヘヴィなサウンドの洗礼を受けて育ちました。ティーンエイジャーの頃にはハードコアに傾倒し、10代後半になるとバスルームでギターを練習しながら、BandLabというアプリで作曲を始めたそうです。

    18歳の時、後のプロデューサー兼マネージャーとなるTylor Bondarと出会い、自作の曲を聴かせたところ、彼は感銘を受け、無料で録音することを申し出たそうです。そしてセッションを通じて、彼女が探し求めていたサウンドに少しずつ近づいていきました。

    その後、YouTubeで“Linkin Park Deftones type beat”と無作為に入力して最初に表示された曲を聴いて衝撃を受け、衝動的に制作されたのが初期の代表曲である “Tonight”。2023年7月初旬にTikTokへ投稿したところ、バズりにバズって数百万の「いいね」がついたそうです。これがAmira Elfekyの存在が世界に知られるようになった最初の出来事でした。そして翌年3月にリリースされたデビューEPは、ニューメタル・リバイバルの体現者として世界各国から絶賛されたのは記憶に新しいところ。TikTokの投稿から1年もかからずにこれほど大きな存在となるとは、本当に驚くべきサクセスストーリーです。

    こうして振り返ると、ヒットの経緯がWispとよく似ているのも興味深い点ですね。次世代のスターがTikTokを起点にブレイクするのはもはや一過性の現象ではなく、音楽業界の新たなスタンダードといえるでしょう。

    デビューEPから約1年後にリリースされた本作は、共同制作・プロデュースにBring Me The Horizon、Pale Waves、Architects、Poppyなどを手掛けたZakk Cerviniを迎えて制作され、さらにヘヴィかつエモーショナルに進化を遂げました。

    特に変化が感じられるのは#3“Forever Overdose”。ミステリアスなヴァースから轟音とともに一気に狂おしいほどの哀しみを爆発させたかと思うと、Amiraのスクリームを皮切りに超ヘヴィなブレイクダウンへなだれ込みます。この手法は他の楽曲にも見られ、作品全体のヘヴィな印象を強固なものにしています。よりヘヴィになったことで、Amira Elfekyの最大の魅力であるゴシック風のロマンティックなメロディがさらに際立っているのも好印象。

    その結果、前作のシューゲイジーな雰囲気がだいぶ失われてしまいましたが、いくつかのメディアでは今もニューゲイズ(ニューメタル×シューゲイズ)として扱われていますし、ニューゲイズが一般的に浸透した今となっては十分シューゲイズ好きにも受け入れられると思います。

    ともあれ、この素晴らしいクオリティを前に細かいジャンルの区別など些末なこと。ダークでヘヴィな音楽が好きな人にとって最高の贈り物であると保証します。本年度のベスト入り間違いなしの傑作です!

    そんなAmira Elfekyですが、Download Festival 2025への出演が決定し、Bring Me The Horizonの全米ツアーのサポートに抜擢されるなど、今や飛ぶ鳥を落とす勢いで活動の場を広げています。Spotifyの月間リスナー数は、本作リリース時の80万から、わずか1週間で30万もアップし、あっさり100万超えを達成。この傑作を起爆剤に、ますます注目を浴びることは間違いないでしょう。

    日本ではLOUD PARKの奇跡的な復活が話題をさらっていますが、今がAmira Elfekyを呼ぶ絶好のチャンスなんじゃないでしょうか? クリエイティブマンさん、新しい血を取り入れるためにもぜひご検討ください。できればDeftonesとLacuna Coil、Spiritboxもお願いします!(言うだけならタダ)

    ちなみに本作では、カバーアートやミュージックビデオに『青』が多用されていることにお気づきでしょうか。特に“Forever Overdose”でブラウン管に映る映像に、Evanescence『Fallen』のカバーアートを連想した方も少なくないはず。

    『Fallen』といえば、ゴシック界にパラダイムシフトを起こしたモンスターアルバムなのは皆さんもご承知の通り。

    本作は『Fallen』へのオマージュ、あるいはリスペクトであり、「いつかEvanescenceと肩を並べるアーティストになる」というAmira Elfekyの決意表明なのかもしれません。今後リリースされるであろうデビューフルアルバムは、とんでもないことになりそうな予感がしますね。

    Shedfromthebody

    Whisper and Wane

    Shedfromthebody

    Whisper and Wane

    • release date /
      2025-01-17
    • country /
      Finland
    • gerne /
      doomgaze, drone, folk, gothic-metal, post-metal
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    フィンランドのソロアーティスト、Shedfromthebodyによる4thアルバム。

    Shedfromthebodyは、フィンランド出身のSuvi Savikkoによるソロプロジェクト。彼女はヴィジュアルアートをルーツに持ち、音楽制作のみならず、アートワークやミュージックビデオの制作も手掛けるという徹底した美学を持つDIYアーティストで、2018年にデビューして以来、ゴシック、ダークウェイヴ、シューゲイズ、ドゥームメタルなどをブレンドしたダークなサウンドに北欧フォーク由来の神秘的なメロディを調和させた独自のスタイルを確立しています。

    本作は北欧フォークとドローン/ドゥームメタルの影響が色濃く現れており、ゆったりとしたリズムをベースに、妖精のように儚げな、あるいは魔女のように妖艶な歌声を巧みに使い分け、ヘヴィかつ催眠的なサウンドを展開しています。イチオシは#4“Sungazer”。子守唄風の穏やかな導入から、徐々にヘヴィなギターが加わり、躍動感のあるリズムで恍惚へと至らしめる古代の祭祀めいたナンバー。ミュージックビデオでシャーマンのように一心不乱に踊るSuvi Savikkoの姿も見どころです。

    北欧フォークとブラックゲイズのクロスオーバーは少なくないものの、ドゥームゲイズの文脈ではなかなか貴重だと思います。Dead Can DanceやChelsea Wolfe、Sylvaineなどがお好きな方はぜひチェックしてください。

    Echos

    QUIET, IN YOUR SERVICE

    Echos

    QUIET, IN YOUR SERVICE

    • release date /
      2025-01-17
    • country /
      US
    • gerne /
      alternative-rock, darkwave, dream-pop, electronic, gothic, neoclassical, nu-metal, shoegaze
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    Dark
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    Slow
    Fast
    Pop
    Extreme

    ワシントン州バトルグラウンド出身のシンガーソングライター、Echosの4thアルバム。Sumerian Records傘下のOutlast Recordsからリリース。

    Echosは、ボーカリスト/シンガーソングライターのAlexandra Nortonが19歳の時に始動させたプロジェクト。名義はParamoreの楽曲『Misguided Ghosts』の歌詞に由来しています。これまで繊細な歌声を活かしたエレクトロ路線で人気を博してきましたが、本作ではオルタナティブロックやニューメタルに由来するヘヴィなギターを取り入れ、よりダークな世界観を開拓しています。この変化の背景には、Paramoreの影響に加え、Alexandraが現在お気に入りとして挙げるEthel CainやSpiritboxの存在があったようです。

    注目はタイトルトラックの#3“QUIET, IN YOUR SERVICE”。Evanescence(オルタナ/ゴシックメタル)とWisp(ニューゲイズ)を巧みに融合させたような楽曲で、ダークなサウンドの中に深い哀しみを宿した歌声が響き渡り、胸が張り裂けそうなほどの切なさが押し寄せてきます。#5“OVER & OVER”ではさらに激しいギターが飛び出し、エコーズACT3ばりのヘヴィネスを見せつけます。これには従来のファンも驚いたことでしょう。その後も暗く哀しい楽曲が連続しますが、ラストを飾る#9“TOLERANCE”では神秘的なコーラスが降り注ぎ、長い夜の先に訪れる日の出のようなカタルシスをもたらしてくれます。

    Alexandra自身が「鬱病を克服し、自分を取り戻す手助けをしてくれた」と語るように、このアルバムは同じような苦しみを抱える人々の心を癒やしてくれることでしょう。近い系統のアーティストとしてはAmira Elfekyが挙げられますが、Echosはより幻想的で浮遊感があるため、ドリームポップやシューゲイズのリスナーにもおすすめです。

    ちなみにEchosのSNSで#twilightcoreというタグが頻繁に使用されていたため、どんな意味か調べたところ、映画『トワイライト』のゴシック調のロマンティックなスタイルを指す言葉だと判明しました。EchosがいかにParamoreから強く影響を受けているかが覗えますね。

    Nostalgiaisfun

    Obituary

    Nostalgiaisfun

    Obituary

    • release date /
      2025-01-21
    • country /
      US
    • gerne /
      alternative-rock, grunge, nugaze, shoegaze
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    Pop
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    Noisy
    Slow
    Fast
    Pop
    Extreme

    フィラデルフィアのソロ・シューゲイズ・プロジェクトの2ndアルバム。

    ドリーミーだった前作から一転して、退廃的なシューゲイズへと大変身。深いリバーブを効かせた音響に虚ろなささやき声が木霊し、雨音のようなクリーントーンを散りばめながら、スロウテンポでじっくりメランコリーに沈めてくれます。

    注目は流麗なストリングスをフィーチャーした#4“Decolate Circuit”と#6“Existential Crisis”。ヴァイオリンではなく、ヴィオラやチェロを使用しているとのことです。シューゲイズにおいては轟音ギターとの棲み分けが難しいので、あまりストリングスが使われることはありませんが、工夫次第で非常に強力な武器になるという好例ですね。

    Pale

    Our Hearts In Your Heaven

    Pale

    Our Hearts In Your Heaven

    • release date /
      2025-01-10
    • country /
      Japan
    • gerne /
      blackgaze, noise, post-black-metal, post-hardcore, shoegaze
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    Dark
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    Extreme

    東京のポストブラックメタル/ブラックゲイズ・バンドのデビューアルバム。

    2018年のEPリリース以来、約7年ぶりの新作となります。メンバーはギタリストの渡邊氏を除いて刷新され、本作はNiiK(Vo/Noise)、Hirofusa Watanabe(Gt)、Takahiro Watanabe(Ba)、Kou Nakagawa(Dr)の4人編成で制作されました。

    Alcestの幻想美やDeafheavenの光に満ちたサウンドとは一線を画したダークな路線が彼らの魅力です。ブラックメタルの狂気をハードコアの推進力でブーストし、荒涼としたメロディを爆発させるサウンドは、闇夜の雪原を疾走する蒸気機関車さながら。

    そして本作の最大の特徴は、ボーカリストNiiK氏が操るノイズ。#1“Euphoria”でその真価が早々に発揮されます。まるで脳に直接電極を突き刺され、電流で焼かれるような強烈さで、映画『π』の主人公になった気分が味わえること請け合いです。それに負けじとボーカルは狂気じみたスクリームと、汚物をぶちまけるようなデスボイスを使い分け、「俺が人力ノイズだ!」と言わんばかりに圧倒的な存在感を放っています。さらにノイジーなギターに爆速のブラストビートまで加わって鼓膜がもう大変なことに。ええ、エクストリームミュージック好きには最高のご褒美です!

    そんな過激なサウンドに浸っていると、#4"Almost Transparent Blue"で突如として透明感のあるギターが顔を出し、クリーンボーカルで歌い始めるではないですか。どことなくニューウェイヴやゴスのムードも感じられ、Amesoeursを思い出す聴き心地。しかし「甘い夢は終わりだ」とばかりに再び爆走。雷雲を抜けて天へと駆け昇るようなカタルシスをもたらします。Paleの新境地とも言える楽曲で、アルバム中盤のアクセントになっています。

    続く#5 "Dakhme"では、再び狂戦士モードに突入。時速300キロで暴走するブルドーザーのようにすべてをなぎ倒していきます。#6"Lament"は悲壮なトレモロをかき鳴らしながら徐々にフェードアウトし、ラストの#7 "Shringavera" では、雪原で狂い叫ぶ男の姿が真っ白な吹雪に覆われていき、余韻たっぷりに締めくくられます。起伏ある構成で物語を想起させる手腕もお見事。

    大衆化しつつあるポストブラックメタル・シーンに対するカウンターのように、アンダーグラウンドの領域をさらに拡張する形で進化を遂げた意欲作。ポストブラックやブラックゲイズは「ブラックメタル」がルーツであり、闇を孕んだ狂気こそが真髄であると再認識させられます。4月25日からは東南アジアツアーも予定されており、彼らの美学が海外のリスナーにも衝撃を与えることを期待せずにはいられません。