
Seasurfer
Electronic Monsters
Seasurfer
Electronic Monsters
- release date /2025-05-30
- country /Germany
- gerne /Darkwave, Electro Pop, Gothic, Post-Punk, Shoegaze, Synth Pop
ドイツ・ハンブルク出身のドリームパンク/シューゲイザー・デュオ、Seasurferの4thアルバム。
2013年にDirk Knightを中心にハンブルクで結成されたSeasurferは、初期2作ではドリームポップ/シューゲイズを軸にした夢幻的なウォール・オブ・サウンドを展開していた。しかし、3rdアルバム以降はエレクトロニックなアプローチを強め、本作でもその流れをさらに推し進めている。ミニマルなエレクトロニック・ビート、オーガニックなシンセサイザーのテクスチャー、深いリバーブをまとったギターが重なり合い、ドリームポップ、シューゲイズ、ダークウェイヴ、ポストパンクを横断しながら、80年代の空気感を漂わせる。
ボーカルは前作『Zombies』に続きApoloniaが担当。美しい歌声がアルバム全体を淡い霧のように包み込み、デヴィッド・リンチ作品を連想させる神秘的かつ退廃的なムードを生み出している。
中でも印象的なのは、#3 “Get Burned”だ。ポストパンク由来の力強いグルーヴが際立ち、踊るには最適なトラックだ。#8 “The Short Term Effect”は、彼らが敬愛するThe Cureのカバー。浮遊感を帯びたエレクトロニック・アレンジによって、原曲の陰影を保ちながらも、Seasurfer独自のサウンドへと落とし込んでいる。Cocteau Twins、The Cure、Drab Majestyなどを好むリスナーは要注目の作品だ。
2026年には数年ぶりにライブ活動を再開。来日経験のあるBuzz Kullとの交流の深さを踏まえると(『Zombies』のカバーアートでApoloniaがBuzz KullのTシャツを着用している)、HANDS AND MOMENT周辺との接点を含め、来日にも期待がかる。

Mary Mortem
Phantoms of the Fall
Mary Mortem
Phantoms of the Fall
- release date /2026-02-26
- country /US
- gerne /Doom Metal, Doomgaze, Funeral Doom, Gothic, Post-Metal, Shogaze, Sludge Metal
USオクラホマ州タルサのポストメタル/ドゥームゲイズ・アーティスト、Mary Mortemのデビューアルバム。
Mary Mortemは2018年頃から始動したプロジェクト。貧困や薬物依存、暴力が身近にある過酷な環境で育ち、その孤独感や現実逃避への衝動を音楽へ投影してきた。その背景にはSlipknotやDeftonesなど90〜2000年代初頭のラウドミュージックを入口に、ポストハードコアやモールエモを経由しながら、Chelsea WolfeやNicole Dollangangerといった内省的なアーティストへ傾倒していった経緯がある。
本人は初期音源に否定的な姿勢を見せているが、当初はウィッチハウスやトラップ寄りの作風を展開。本作で初のフルバンド体制へ移行し、ドゥームゲイズ/ポストメタルの領域へと踏み込んでいる。ノイジーなトレモロギターと催眠的なリフ、儚げなクリーンボーカルと悲痛なスクリームが交錯し、随所にAmenraを彷彿とさせる場面もあるが、シューゲイズ由来の幽玄美と浮遊感が、サウンドに奥行きを与えている。
#1 “Dead in Oologah”は幼少期を過ごした土地Oologahの名を冠しており、劣悪な家庭環境の記憶が負のイメージを浮かび上がらせる。アルバムのテーマを暗示する内容となっている。#5 “The Hollowing”は、弔いの鐘のようなギターに虚ろなボーカルが重なり、次第にかきむしるようなノイズへと変質していく中で、“Offer your bones and lie down /
The forest is your home”──「骨を捧げて、横たわれ/森がお前の家だ」というフレーズが反復される。自らの意思が強迫観念によって溶解していき、忌まわしい記憶に囚われ続けるサイクルを示唆している。本作の闇深さが最も結実した瞬間の1つだ。
なお、2026年には次回作のリリースも予定されており、前作以上にエモーショナルかつヘヴィな内容になるという。しかし、単なる絶望ではなく、傷や孤独に寄り添い、前へ進むための糧となる作品を目指していると語る。今後の動向に注目したい。

OSNOVA
Rise the Sun
OSNOVA
Rise the Sun
- release date /2025-06-13
- country /US
- gerne /Alternative Rock, Darkwave, Gothic Rock, Industrial, Post-Punk, Post-Rock, Shoegaze
LAのシューゲイズ・バンド、OSNOVAの2nd EP。
2018年にJean-Claude Vorgeack(guitar)を中心に始動し、後にSam Ribeyro(drums)、Caroline McLaughlin(vo.)が加入し、トリオ編成となっている。
本作はシューゲイズとポストパンクを融合したサウンドが特徴。オーロラのように煌めくシンセ、泡立ちながらうねるベース、幽玄にたなびくギター、透明感のあるボーカルがなめらかに溶け合い、満天の星が輝く夜の海を漂うような浮遊感を生む。そこにはかつての4ADのエーテル的な美的感覚が息づいている。
特筆すべきは#5 “Climbing Dues”。ポストパンクの推進力と繊細耽美な歌声が調和し、Sisters of MercyとCocteau Twinsの融合を思わせるナンバーだ。幻想的な世界観の中で高揚感がより際立ち、本作のハイライトとなっている。ゴスとシューゲイズのクロスオーバーは退廃的であるがゆえに、抑制的な曲調になりがちな側面もあるが、OSNOVAはフックのあるボーカルによりしっかりとキャッチーさを担保している点が独自の魅力だ。
なお12月には初期の楽曲をまとめた『Early Singles』もリリースされている。こちらはポストパンク色が強く、“Climbing Dues”のようなロック志向のサウンドが中心となっている。本作が気に入った方は、ぜひチェックしてほしい。OSNOVA – Early Singles(Spotify)

Heretoir
Solastalgia
Heretoir
Solastalgia
- release date /2025-09-19
- country /Germany
- gerne /Blackgaze, Post-Black Metal, Post-Metal, Post-Rock, Progressive
ドイツのポストブラックメタル・バンド、Heretoirの4thアルバム。
2006年にDavid Conrad(Vo/Gt)のソロ・プロジェクトとして始動。その後、Matthias Settele(Ba)、Nils Groth(Dr)が加入。現在はKevin Storm(Gt)、Stefan Dietz(Gt)を含む5人体制で活動している。アルバムタイトル『Solastalgia』は、“solācium”(慰め)と“algia”(痛み)を組み合わせた造語で、環境破壊による喪失感や苦悩をテーマにしている。
サウンドは前作以上に立体感と迫力を増し、幻想的なメロディと重厚な轟音が鮮やかなコントラストを描く。David Conradのボーカルも表情豊かで、繊細なクリーンボーカルと激情的なスクリームを自在に行き来しながら、楽曲に深い陰影を与えている。
冒頭を飾る#1 “The Ashen Falls”と#2 “Season of Grief”は特に強力。シューゲイズ/ポストロック由来の繊細さとブラックメタルの獰猛さが激しく交錯し、哀愁を帯びたメロディとドラマティックな展開で、一気にアルバムの世界へ引き込んでいく。特にドラムが秀逸で、ブラストビートの爆走パートでリズムパターン使い分け、激しさの中に緩急を生み出している。
前半はヘヴィかつダークな空気感が支配する一方、ピアノインスト#5 “Rain”以降はAlcestを思わせる夢幻的なパートも増加。#8 “Burial”と#9 “Solastalgia”で陰鬱さがピークに達した後は、わずかな光も滲ませていく。約1時間の長尺ながら、Alcestの幻想美とDeafheavenの激情を受け継ぎ、起伏に富む構成で描き切っている。アルバム全体を通して聴くことでテーマの本質が理解できる作品だろう。
環境破壊、戦争、経済不安──人類が積み重ねてきた歪みを前に、その嘆きはどこまでも重く響く。本作は、ゆるやかに滅びゆく世界に向けた弔歌であると同時に、それでもなお抗い続けようとする微かな希望も宿している。
EUヘッドラインツアーも決定しており、来日にも期待したい。

Shedfromthebody
Everything Out There Has Teeth
Shedfromthebody
Everything Out There Has Teeth
- release date /2025-10-23
- country /Finland
- gerne /Doomgaze, Drone, Folk, Gothic Metal, Post-Metal
フィンランドのドゥームゲイズ・プロジェクト、Shedfromthebodyの5thアルバム。
Shedfromthebodyは、フィンランド出身のSuvi Savikkoによるソロプロジェクト。ヴィジュアルアートをルーツに持ち、音楽制作のみならずアートワークやミュージックビデオまで自ら手掛けるDIYアーティストだ。2018年のデビュー以来、ゴシック、ダークウェイヴ、シューゲイズ、ドゥームメタルを横断するダークなサウンドに、北欧フォーク由来の神秘的なメロディを溶け込ませた独自のスタイルを築いてきた。
前作『Whisper and Wane』が北欧フォーク色を強め、催眠的な世界観を描いていたのに対し、本作ではさらにヘヴィかつダークな方向へ進化。プログレッシブなリズムワークも強化され、幻惑的なグルーヴと重苦しい緊張感が全編を覆っている。
#1 “Crossing”は、地を揺るがすような重苦しいドラムとともにダークフォーク風に進行する。静寂の合間に浮かび上がる歌声が一筋の光にように輝くも、再び重々しいギターによって闇に閉ざされる。#3 “Nature's Weapons”は、不穏な5拍子のリズムと禍々しいリフ、吐き捨てるような濁声ボーカルの組み合わせで新境地を提示。濁流のようにうねる展開の中で、静謐なクリーンボーカルが束の間の安らぎをもたらす。
神秘性を保ちながらも、闇の深層へ踏み込み、新たな暗黒神話を築き上げた一作。前作と甲乙つけがたい完成度だが、よりダークなサウンドを求めるリスナーには本作をおすすめしたい。特にDead Can Dance、Chelsea Wolfe、Ethel Cainなどのファンはぜひチェックしてほしい。

Deafheaven
Lonely People With Power
Deafheaven
Lonely People With Power
- release date /2025-03-28
- country /US
- gerne /Blackgaze, Dream Pop, Post-Hardcore, Post-Metal, Post-Punk, Post-Rock,Shoegaze
USカリフォルニアのブラックゲイズ/ポストブラック・メタル・バンド、Deafheavenの6thアルバム。
2010年にサンフランシスコで結成されたDeafheavenは、ブラックメタルとシューゲイズを融合した『ブラックゲイズ』というジャンルを代表する有名なアクトの1つ。2013年の2ndアルバム『Sunbather』は大手音楽メディアで高い評価を獲得。その影響は世界中へと広がり、今ではAlcest『Souvenirs d'un Autre Monde』と並び、同ジャンルを象徴する作品としての地位を確立している。現在は、George Clarke(Vo)、Kerry McCoy(Gt)、Daniel Tracy(Dr)、Chris Johnson(Ba)、Shiv Mehra(Gt)の5人で活動している。
これまで作品ごとに方向性を変化させてきたが、大きな転換点となったのが2021年の5thアルバム『Infinite Granite』だ。ドリーミーなサウンドとクリーンボーカルを前面に押し出し、“脱ブラックメタル”へ舵を切った。旧来のリスナーの間で賛否両論を呼んだ一方、純度の高いシューゲイズ/ドリームポップのリスナーからの関心をさらに高める契機となった。
そして本作『Lonely People with Power』は、ブラックメタル色を再び取り戻しながら、スクリームとクリーンボーカル、激情と静寂、ノイズとメロディをバランスよく配置し、これまでのキャリアの集大成というべき作品に仕上げている。
アルバムは、“Incidental”というインタールードを配置して、全体を三部構成のように演出。前半で美しさと激しさを交錯させ、中盤で黒い衝動を解き放ち、後半ではエモーショナルな高揚へ至る流れが、一本の映画のようなドラマ性を生み出している。長尺の傾向があった楽曲も、5分前後に抑えられて即効性がアップし、リスナーの集中力を持続させる効果を生んでいる。また、全員が同じ部屋で同時に演奏・録音したことで、ライブさながらの緊張感と熱量が生まれ、さらにフィジカルの強いサウンドになっている点も大きな強みだ。
#1 “Incidental I”に続く#2 “Doberman”では、嵐のようなブラストビートと獰猛なスクリームが炸裂する一方、メランコリックな轟音ギターや淡いトーンも随所に差し込まれ、これまでのDeafheavenらしさを凝縮した内容となっている。
#3 “Magnolia”は、『New Bermuda』を彷彿とさせる黒さと重さが炸裂する爆走チューン。目覚めた瞬間に霊柩車に載せられ、そのまま時速200キロで墓場へと連行されるような衝撃が襲う。先行公開時には、従来のエクストリーム路線を支持してきたリスナーから大きな反響を集めた。
#4 “The Garden Route”は、繊細なクリーントーンと重厚なギターリフのコントラストで魅せるドラマティックなポストロック/ポストメタル・ナンバー。
#5 “Heathen”は、George Clarkeのクリーンボーカルをフィーチャーした『Infinite Granite』の後継作というべきナンバー。深い陰影を帯びた幽玄なヴァースから、コーラスでスクリームへスイッチし、終盤へ向けてブラストビートとともに一気に熱を爆発させる。歌声は『Infinite Granite』時より美しさを増しており、フロントマンとしての成熟もうかがえる。
#6 “Amethyst”は、ワルツ調の牧歌的なメロディのAlcest風のブラックゲイズだが、ドラムのパワフルさが格別だ。
ここまでの第一章で、全く異なるテイストの5曲を通して、Deafheavenの歩みが集約されている。
#7 “Incidental II” (feat. Jae Matthews)では、ドローン風の不穏な音をバックにBoy HarsherのボーカリストJae Matthewsが妖艶なスポークンワードを披露。突然ノイズが爆発し、禍々しい叫びがこだますると一気にEthel Cain『Perverts』級の底知れない不穏さに包まれる。
第二章の幕開けとなる#8 “Revelator”は、絶え間ないブラストビートと凶悪なトレモロギターに初期ブラックメタルの血が滲む。
#9 “Body Behavior”は、ポストパンク風のリズムにメロディアスなギターが絡むドライブ感のあるナンバー。サビでブラストビートをアクセントとして加えるアレンジが秀逸。
#10 “Incidental III (feat. Paul Banks)”は、InterpolのボーカリストPaul Banksのスポークンワードをフィーチャーしたインタールード。続く第三章でいよいよクライマックスへと移行する。
#11 “Winona”は、静かな導入から『Sunbather』を思わせる陽性メロディを一気に放ち、光に満ちた世界を拓く。
ラストを飾る#12 “The Marvelous Orange Tree”は、重厚なウォールオブサウンドに美しいクリーンボーカルが溶け込み、天国へ誘うようなカタルシスをもたらす。長い旅路を締めくくるに相応しいドラマティックな終幕だ。
ブラックメタルの陰鬱さ、『Sunbather』のエモーショナルさ、そして『Infinite Granite』の幽玄美を全てすくい上げ、高い熱量で結実させた本作は、まさにキャリアの集大成と呼ぶにふさわしい傑作だ。Deafheaven、ひいてはブラックゲイズの現在地を把握する上で欠かせない作品となりそうだ。

Split Chain
motionblur
Split Chain
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- release date /2025-07-11
- country /UK
- gerne /Alternative Rock, Emo, Grunge, Nu-Metal, Post-Punk, Shoegaze
UKブリストルのシューゲイズ・バンド、Split Chainのデビュー・アルバム。
2023年に結成。現在のメンバーはRoberto Martinez-Cowles(Vo)、Jake Reid(Gt)、Oliver Bowles(Gt)、Tom Davies(Ba)、Aaron Black(Dr)の5名。楽曲制作だけでなく、グラフィックや映像、ウェブサイト、マーチまで自ら手掛けるDIYなスタイルで注目を集めてきたバンドだ。初期シングルの段階からTikTokを中心に支持を拡大し、Bad Religionの創設者が運営する名門レーベルEpitaph Recordsから劇的なデビューを飾った。
本作は、シューゲイズとポストハードコア、グランジ、ニューメタルのクロスオーバーが軸となっている。ざらついたギターの質感と浮遊感のあるメロディ、メロディアスな歌唱とスクリームのコントラストが共存し、轟音の中に湿度の高いメランコリーを滲ませている。全11曲・約35分というコンパクトな構成ながら、柔と剛、静と動を軽やかに横断し、強度を保ったまま一気に駆け抜ける。
プレイステーションの起動音で始まる#1 “Under The Wire”は、ヘヴィかつグルーヴィーなリフとビートダウンで、瞬きする間もなく強烈な先制攻撃を食らわせる。一転してメロディックな#2 “bored. tired. torn.”では、メランコリックなサビが高揚感をもたらし、#3 “I'm Not Dying to Be Here”では、アンニュイな歌唱とエモーショナルなサビのコントラストで感情を激しく揺さぶる。この3曲だけですでにインパクトは絶大だ。
さらに特筆すべきは#5 “who am i?”だ。ポストパンク由来の疾走感とゴスの毒気をまとったアグレッシブな楽曲で、バンドのダークな美学が色濃く表れている。また、#7 “Greyintheblue”では、沈み込むような重さと退廃的な空気感、コーラスの幽玄な美しさが強い余韻を残す。
こういったダークな楽曲の背景を語る上で、ダークウェイヴやニューウェイヴを好むベーシストTomの貢献に加え、Type O Negativeからの影響も外せない。Split ChainはライブでType O Negativeの“I Don’t Wanna Be Me”をカバーし、後に音源化も行っているほか、『October Rust』をモチーフにしたマーチを制作するなど、同バンドへの強いリスペクトを表明している。
ハードコア・パンクとゴスのロマンチシズムを併せ持つ点に強く共鳴しているのだろう。アートワークに関しても、Type O Negativeを象徴するグリーンに対し、Split Chainはブルーをメインカラーに採用している(最初のMV『Get Inside』の色調を模索していた時に偶然出会った表現と述べている)。このアプローチからも両者に共通する美学が浮かび上がる。また、Type O Negative自身も影響源としてCocteau TwinsやMy Bloody Valentineを挙げている。これはシューゲイズとゴスの結びつきを示す興味深い接点ともいえる。
総じて『motionblur』は、Deftones-coreの文脈を踏まえつつ、シューゲイズ、エモ、ハードコア、グランジ、ゴスの有機的な融合に成功している。ラウドでありながら浮遊感を失わず、生々しい憂鬱な感情を鮮明に捉える感覚が、このバンドの大きな強みだ。Soul Blind、Narrow Head、Fleshwater周辺のオルタナメタル/ヘヴィシューゲイズを追っているリスナーはもちろん、ゴス/ダークウェイヴを好むリスナーにもフィットするだろう。
結成から現在までを猛烈なスピードで駆け抜けてきたSplit Chainだが、2026年にはアルバム以降初となる新曲“sylvia (i won't belong to you)”を発表し、ツアーも精力的に継続している。"The chain does what it wants.(チェーンはやりたいようにやる)"というバンド内の共通言語が示す通り、その勢いはなお拡大を続けている。Roberto Martinez-Cowlesはインタビューで「日本で演奏する・Deftonesと共演する・アメリカでヘッドライン公演を行う」を3大目標として語っているが、その未来も決して遠い話ではないだろう。

Gísli Gunnarsson
Úr Öskunni
Gísli Gunnarsson
Úr Öskunni
- release date /2025-11-07
- country /Iceland
- gerne /Ambient, Post-Classical, Post-Rock, Shoegaze
アイスランド出身のアーティスト、Gísli Gunnarssonの2ndアルバム。
Gísli Gunnarssonは、ポストクラシカルを基盤にポストロックやシューゲイズ、ブラックメタルの要素を取り込み、アイスランドの自然を連想させる広大なサウンドスケープを表現している。そのスタイルは、Ólafur ArnaldsやSigur Rósの静謐さに、Alcestの哀愁味のある轟音を巧みに融合したサウンドと評される。
前作『Mementos』はゲストを迎えたコラボレーション色の強い作品で、繊細なポストクラシカル〜ポストロックが主体だった。一方、本作は火山活動によって避難を余儀なくされ、家を失ったGísliの実体験が背景にある。自然の脅威と畏怖、そして失われた故郷の情景を描くにあたり、ピアノやストリングスによる静謐な美しさと、ドラマティックな轟音の対比がより強調されている。
オープニングの#1 “Heima”は、Gísliが育った漁村Grindavíkのかつての姿を表現した一曲だ。重厚で美しいストリングスが、自然あふれるアイスランドの雄大なランドスケープへと誘ってくれる。#2 “Lúpína”はアコースティック・ギターとピアノ、ストリングスを軸にした穏やかな楽曲で、光に満ちた風景を克明に描写している。
続く#3 “Andlitin í Berginu”では、Gísliの柔らかな歌声を軸にゆったりと進行し、やがて火山が噴火するかのように歪んだギターが一気に爆発する。ドラムにはコラボも果たした盟友AlcestのWinterhalterが参加し、楽曲に奥行きと立体感をもたらしている。
#4 “Aska”は、地鳴りのごときドローンの音響で住み慣れた家が炎に包まれた絶望を表現。胸が詰まるほどの重苦しさとともに深い無力感が心に刻みつけられる。
決定的な崩壊を経て、視点は個人の感情へと深く潜り込んでいく。ストリングス主体のクラシカルなパートから轟音とともに哀愁を爆発させる#6 “Söknuður”は、温もりを失い凍てついた世界で、出口のない霧の向こうを彷徨うような喪失感が綴られている。
序盤から重厚な轟音を放つ#7 “Þjófagjá”は、Alcestがポストメタルやドゥームゲイズへと接近したような新機軸のアプローチを見せる。悲痛なメロディに吹雪の中に独り取り残されたような孤独が滲む。
ラストの#10 “Þar sem vindurinn þekkir nafn mitt”は、「帰るべき場所は灰に消え、かつての記憶をとどめているのは、今や吹き荒れる風のみである」という諦念が漂う。しかし、ヘヴィな轟音に浮かぶメロディには、わずかながら再生を予感させる光が宿っている。終盤に向けて牧歌的なフィドルへと移行し、瓦礫の山に再び緑が芽吹くような希望の兆しを覗かせながら静かに幕を閉じる。
科学が進歩した現代においても、自然の圧倒的な力の前では、人の存在はあまりに小さい。『Úr Öskunni』は、その力によって失われたものたちへ捧げられた、気高く美しい鎮魂歌である。

iVy
混乱するアパタイト
iVy
混乱するアパタイト
- release date /2025-06-18
- country /Japan
- gerne /Alternative Rock, Dream Pop, Electro Pop, Indie Pop, Shoegaze
東京を拠点に活動するオルタナティブ・ポップ・デュオ、iVyの1stフルアルバム。
SNSで出会ったfuki(Vo/Gt)とpupu(Vo/Key)により2023年に結成。当初は宅録主体で、SoundCloudを中心としたプライベートな活動だったが、ライブを重ねる中で注目を集め、1st EP『幽泳プログラム』をリリース。iVyちゃんという架空のキャラクターをコンセプトに、内省的な感情をカラフルなサウンドで描く作風が人気を博した。2023年10月の初ライブから2年足らずで、2025年8月にはWWWでの初ワンマンを成功させ、同年11月には初の海外公演も実現。国内外で存在感を急速に高めている。私が初めてライブを観たのは2024年3月の中野heavysick ZEROだったが、その後の飛躍は目を見張るものがある。
本作のタイトル『アパタイト』は、iVyちゃんのイメージカラーでもある水色の宝石に由来し、サウンドの透明感や幻想的な世界観を象徴している。前作で確立されたドリーミーなサウンドはさらに磨かれ、ポップさやユーモアを強めつつ、多彩で感情豊かなアプローチへと発展している。
重厚なギターのサウンドメイクにWispとの共鳴を感じさせる#2 “ホワイト・リバー・ジャンクション”、ドリーミーでキャッチーなサウンドと自罰的な歌詞のコントラストが印象的な#3 “ヴァンパイア”、切実な感情を吐露するポエトリーパートが胸に迫る#6 “any n○ise”、サイレンのようにうねるシンセがパーティーのような高揚感をもたらす#12 “ファミレス・ロック”など。アルバム全体を通して、カラフルな曲調が次々と飛び出し、まるで遊園地に放り込まれたような心地が味わえる。
その一方で、前作と比較するとメランコリックなムードはやや後退している印象だが、それはあくまで表層的な変化に過ぎない。歌詞に目を向けると、ポップなメロディの裏に、わずかな不穏さや痛みが潜んでいることに気づくはずだ。グリム童話の原典や、MOTHER、UNDERTALEに通じる、純粋さの奥に潜む陰影。その気配に、私はどうしても惹きつけられてしまう。
また、歌詞はメロディに滑らかに寄り添うよう配置され、ときに意味を越えて、心地よい響きそのものとして機能している。ポップなメロディセンスと、歌詞がもたらす言語的な快楽の調和こそが、iVyの人気の秘訣の1つといえるだろう。

terraplana
natural
terraplana
natural
- release date /2025-03-11
- country /Brazil
- gerne /Alternative Rock, Dream Pop, Grunge, Indie Rock, Noise Pop, Psychedelic Rock, Shoegaze
ブラジルのクリチバを拠点とするシューゲイザー・バンド、terraplanaの2ndアルバム。
Twitterでの出会いをきっかけにStephani Heuczuk(Ba/Vo)とVinícius Lourenço(Gt/Vo)を中心に2017年に結成。現在はCassiano Kruchelski(Gt/Vo)とWendeu Silverio(Dr)を加えた4人編成で活動している。
前作『Olhar Pra Trás』は、シューゲイズ/ポストロック由来の轟音と柔らかなボーカルの対比が特徴で、南米のSlowdiveとも評される内省的な幻想美が魅力だった。今作『natural』では、ツインボーカルの比重に変化が見られ、ソロパートが増えたことで構成にメリハリが生まれている。さらに、ややポストロックを離れ、90年代グランジ風のギターワークが多くフィーチャーされているのも特徴だ。
その変化を象徴するのが、#3 “charlie”だ。Nirvana風のリフで幕を開け、そこに淡く繊細なメロディが重なる。ポルトガル語の歌がどこか異国的な響きを演出することで、独自のスタイルを確立させている。 #4 “hear a whisper (feat. Winter)”での、軽快に跳ねるリズムと、英語とポルトガル語が混在するボーカルも新境地を感じさせる。
2023年にDeafheavenブラジル公演のOAを務め、2025年にはSXSW出演とアメリカツアーを実施。2026年にはUSの新興シューゲイズ・フェスslide away(Hum、Nothing、Chapterhouseがヘッドライナー)のLA公演への参加も決定した。ヨーロッパツアーも控えるなど、国際的な評価は着実に高まりつつある。目覚ましい成長を遂げているブラジル産シューゲイズの現在地を知る上で、『natural』は最良の入門編となるだろう。


