剥製の空 - 幻想の惑星、剥製の蒼天

剥製の空

幻想の惑星、剥製の蒼天

剥製の空

幻想の惑星、剥製の蒼天

  • release date /
    2026-05-29
  • country /
    Japan
  • gerne /
    Alternative, Ambient, Blackgaze, Dream Pop, Folk, Post-Black Metal, Post-Classical, Post-Rock, Shoegaze
Light
Dark
Soft
Heavy
Clear
Noisy
Slow
Fast
Pop
Extreme

滅びと再生を描くシネマティック・ポストロック

東京のシューゲイズ/ポストロック・バンド、剥製の空の1stアルバム『幻想の惑星、剥製の蒼天』。

杉山航平(ギター/ピアノ)と杉山悠佑(ボーカル/ギター)の兄弟によって2017年に結成され、2019年に1st EP『雨の中、光溢れて』を発表。シューゲイズやポストロックを基盤に、繊細なアンビエンスと轟音ギターが交錯するダイナミックなサウンドスケープを展開してきた。透明感のあるイノセントな歌声と、和の情緒を帯びた哀愁のメロディを有機的に結びつけ、物語を紐解くような没入感のある世界観を築いている。

約4年にわたる制作期間とメンバーの離散・再集結を経て完成した本作では、ヴァイオリン、チェロ、フルートを新たに導入。さらにシネマティックな音像へと深化を遂げている。

「滅びと再生」をテーマとする本作は、インストゥルメンタルとボーカル曲を交互に配置した構成が特徴だ。インスト曲は物語の幕間をつなぐ語り部のように機能し、ボーカル曲では詩情豊かな言葉が、古い歌集や昔話を読み聞かせるように紡がれていく。静寂と轟音の狭間に浮かび上がるのは、風に揺れる草木や茜色のうろこ雲といった、四季折々の日本的な情景だ。まさに花鳥風月という言葉が相応しいサウンドである。幼い頃に聴いた童歌を思わせる郷愁味のあるメロディと、シューゲイズ/ポストロックの轟音の結びつきは、和製Alcestと例えたくなる独特の趣がある。

AlcestやSylvaineに代表される、トラッド/フォークとシューゲイズの融合を日本独自の感性でここまで高純度に体現しているバンドは、剥製の空くらいだろう。古謡にも通じる都節音階が生み出す郷愁は、海外のリスナーにとっても日本特有の異国情緒や侘び寂びを感じ取れるはずだ。

収録曲はいずれも完成度が高いが、なかでも印象的なのが#8 “凛冽たる銀世界は警鐘の如く”。繊細でゆったりとした曲調から一転、後半には吹雪を思わせる轟音とともにブラストビートの爆走パートが姿を現す。まさかの展開に驚くかもしれないが、これは決して気まぐれな突然変異ではない。

コンポーザーの杉山航平が、かつてポストブラックメタル・バンド、desire of the mothに在籍していたことを踏まえれば、この黒い衝動は彼の音楽的バックグラウンドとも自然につながっている。繊細な美しさの奥底には、確かな黒い血が流れているのだ。

なお、CD版には#11 “再生の気配”#12 “耐えられるだけの雨量で”の2曲が追加されている。なかでも「再生の気配」は、真のエピローグともいえる楽曲だ。

終わりを迎えた世界で、何もない乾いた景色をさまよいながらも、まだ命があり、息をしていることを実感する。そして、すべてを失った先で、再び明日を夢見る──。滅びの先にある再生を描き、本作のテーマを締めくくる。

ポストロック/シューゲイズからポストブラック/ブラックゲイズのファンはもちろん、久石譲、志方あきこ、なるけみちこ、岡部啓一といった作家の音楽を好むリスナーにも響くだろう。幻想的な世界にじっくり浸りたい人にオススメだ。

伝承かSFか──『幻想の惑星、剥製の蒼天』の歌詞を読み解く

本作はサウンドだけでなく、歌詞にもぜひ注目してほしい。

歌詞は「滅びと再生」をテーマに、伝承を思わせる古風な言葉遣いで綴られており、まるで古代の物語や神話を読んでいるような印象を受ける。

ところが、細かく読み解いていくと、この世界観には意外なギミックが潜んでいる。

まず、#2 “満天の虚像に夢見た鼓動は”には、「記録の先人ら 穢れなき囲炉裏 遺して 逡巡の重なる水底と 広がる叡智」とある。ここでは、遠い過去の先人たちが残した記録を主人公が辿り、そこに刻まれた知識に触れる様子が描かれている。

#6 “褪せた碧落より響く木霊を”には、「かの子守唄の節 果てにもう一つの国 残り火たちが終の日までに やって来る噺」とあり、子守唄として滅亡が語り継がれているように読める。#8 “凛冽たる銀世界は警鐘の如く”の「空白の史の再来」にも、かつての滅亡の影を読み取ることができる。

ここから、ひとつの解釈が浮かび上がる。

この世界で語り継がれている伝承は、もともと過去の文明の記録だったのではないか。文明が滅びて本来の意味は失われ、昔話や子守唄へと姿を変えて後世に残った──そんな捉え方だ。

そう考えると、#2に描かれる「先人の記録」に触れるくだりは、∀ガンダムの冬の宮殿で黒歴史が開示される場面のようなものなのかもしれない。

そして、もう一つ興味深いのが、世界そのものに対する疑念だ。

#2 “満天の虚像に夢見た鼓動は”の「夜空 一面の光 疑念の余地も無く 明け暮れは投射されて 永遠に公転する陽」、#10 “邂逅の須臾、融解の復唱と共に”の「斜陽の記憶 深紅の模倣と違わぬ陽」で、太陽が人工物である可能性が提示されているのだ。

さらに「全ては陽の創った虚構」「記憶の言葉 辿る『此処は仮想の現』」という決定的な一節もある。

これらの描写から、舞台となる惑星や、そこで見上げる空や太陽に至るまで、何者かによって創造された仮想世界なのではないか──という可能性まで浮かび上がってくる。

そうなると、アルバムタイトル『幻想の惑星、剥製の蒼天』もまた意味深なものになる。「剥製」とは、生きていたものを形だけ残した存在でもある。仮初めの惑星と青空──それはかつて存在した世界のアーカイブなのかもしれない。『幻想の惑星、剥製の蒼天』というタイトルそのものが、世界の真相を暗示しているようにも思える。

もちろん、これは歌詞から導き出したひとつの仮説に過ぎない。明確な答えが提示されているわけではないからこそ、言葉の裏側に何が隠されているのか、想像しながら読み進める楽しさがある。

「滅亡と再生」の物語を、あえて古い伝承のような言葉遣いで描きながら、その内部にSF的なガジェットや未来的な世界観を忍ばせる。その手法は、いわば叙述トリックのようでもあり、本作の世界観に深い奥行きを与えている。

なお、歌詞は「碧落」「凛冽」「須臾」といった難読漢字がかなり多い。最初は少し身構えるかもしれないが、今ならスマートフォンですぐに調べられるので、ぜひ辞書──というよりスマホを片手にじっくり紐解いてみてほしい。

フル編成ライブへの期待

本作で新たに加わったストリングス隊やフルートを含むサウンドを、今後フル編成のライブでどのように再現するのかにも期待したい。永福町にある白亜のコンサートホール、sonoriumで開催されれば、サウンドとの相乗効果で一生忘れがたい体験になりそうだ。