路傍の石 - human

路傍の石

HUMAN

路傍の石

HUMAN

  • release date /
    2025-11-12
  • country /
    Japan
  • gerne /
    Alternative Rock, Grunge, Noise, Post-Hardcore, Post-Rock, Shoegaze
Light
Dark
Soft
Heavy
Clear
Noisy
Slow
Fast
Pop
Extreme

東京のボカロP兼バンド・プロジェクト、路傍の石の10thアルバム。

本作の制作メンバーは、ヒガシハルカ(Vo)、戦車(Gt)、幽霊大好きラボ!(Gt)、くるしみ(Ba/Vo)、月乃(Dr)の5名。これまでのアルバムから厳選された全10曲がバンドアレンジによって再構築されており、血の通った生々しく肉厚なサウンドへと進化を遂げている。ライブハウスのスピーカーから至近距離で音を浴びるような臨場感のある音響で、振動すら伝わってきそうな錯覚を覚えるほどだ。原曲と聴き比べてみると、その差は明白だろう。

シューゲイズ好きにまずおすすめしたいのは、#7 “phantom girl in summer”だ。男女ツインボーカルが美しいハーモニーを紡ぎながら、轟音の嵐に飲み込まれる感覚は、まさにシューゲイズファン垂涎の出来。歌詞は、著名なADVゲームで定型化された「真夏の海辺で出会う理想の少女像」(当時のオタクたちは、それが幻と知りつつも本気で憧れていた)がモチーフで、美しいサウンドとは裏腹に、コンプレックスを刺激されて胸が痛くなるリスナーも少なくないだろう。

また#4 “冷血”は、思わず口ずさみたくなる歌メロと、エンジン音のような強烈なノイズが見事に共存しており、そのインパクトは絶大だ。このノイズとポップネスの対比には、The Jesus and Mary ChainのPsychocandyから連綿と受け継がれる美学が感じられる。他にも#1 “suicide snowcide”#2 “優しさを集めて”#5 “Yucky”といった親しみやすいキャッチーな曲が揃っており、メロディメーカーとしての地力の高さが窺える。

しかし、私が特に惹かれるのは、路傍の石の自己破壊的な衝動に満ちたダークサイドだ。その極致が#9 “DXM(私が見た天使の夢)”で、陰鬱なメロディとノイズの奔流に、美しい歌声と凶悪なスクリームがせめぎ合い、錯乱状態にある人間の脳内を音にしたような禍々しさが支配している。闇深い歌詞もあいまって、メンタルがどん底まで堕ちかねない刺激的な曲だ。耐性がないリスナーは、用法用量を守って聴いてほしい。

続く#10 “see you”は、前曲とは対照的な美しいメロディと浮遊感を備えたシューゲイズで、天に舞い上がるような心地よい余韻とともにアルバムを締めくくる。しかし、“DXM(私が見た天使の夢)”の歌詞や、“see you”のイントロに仕込まれたイースターエッグに気づけば、この2曲の流れが単なる救いではないことが理解できるだろう。こうした一筋縄ではいかない世界観も、路傍の石の魅力の1つだ。

本作のリリース後、ほどなくして月乃と戦車が脱退したが、新メンバーを迎えて4月19日のワンマンから本格的にフルバンドでのライブ活動を再開。本作『HUMAN』の完全再現に加え、次なる方向性を示唆するセットリストを披露した。ブラックゲイズ作『Pater Noster』から“荒野にて”を組み込むなど、より過激なサウンドへと躊躇なく踏み込む豪胆さを見せつけている。

『HUMAN』というタイトル通り、ボーカロイドの楽曲群を人間の演奏によって血肉化することで、これまでの歩みを総括した路傍の石。しかし本作は、あくまでマイルストーンのひとつに過ぎない。中心人物であるくるしみ氏のクリエイティビティは衰えを知らず、その後リリースされた作品では、ワンマンライブで予告されていた「尖ったサウンド」への進化がすでに現れている。同じ轍を踏むことなく、常に未知の領域へと歩みを進める姿勢こそが、路傍の石のオルタナティブ精神の本質だ。今後の活動からも目が離せない。