cissné - awake children under the moon

Cissné

Awake children under the moon

Cissné

Awake children under the moon

  • release date /
    2026-04-10
  • country /
    Japan
  • gerne /
    Alternative, Ambient, Blackgaze, Dream Pop, Folk, Hardcore, Post-Black Metal, Post-Classical, Post-Rock, Screamo, Shoegaze, Skramz
Light
Dark
Soft
Heavy
Clear
Noisy
Slow
Fast
Pop
Extreme

東京のポストブラック/スクリーモ・バンド、Cissnéの1st EP。

2025年10月、東京にて結成。メンバーはhikage(Vo.)、hiiro(Gt.)、藍(Ba.)の3名。ポストブラック、スクリーモ、アンビエント、ポストクラシカルを自在に操りながら、繊細なメロディと攻撃的なサウンドの融合を試みている。

hikageは、ソロ・プロジェクトswancryでも活動していたボーカリストで、本作では繊細なクリーンボーカルと激情的なスクリームを自在に使いこなし、Cissnéの感情的な核を担っている。美しい歌声で魅了して破滅へと誘うセイレーンと、悲鳴を耳にした者を死に至らしめるマンドラゴラが同居したかのようだ。さらにポエトリーリーディングでのささやくような声色から、激しい怒りや嘆きをも滲ませる幅広い表現も魅力である。

ギターのhiiroは、叙情系ハードコア・バンドFall of Tearsに所属していた経験を持つ。ポストロックやアンビエント、ポエトリーリーディングを取り込んだ同バンドで培われた静寂から爆発へと至るドラマチックな構成はCissnéにも通じるものがある。swancryのアルバム『幾つもの祈りへ』にも作曲で参加しており、“イノセント”では、すでに流麗なピアノとブラストビートを自然に融合した現在のCissnéの原型ともいうべきサウンドが見て取れる。このコラボレーションを経てCissnéの結成へと至ったのは、2人が培ってきた音楽性が共鳴した末の自然な流れだったのだろう。

Cissnéという名前の由来は明らかではないが、hikageのソロ・プロジェクトswancryがアルバム『幾つもの祈りへ』のクロージングトラック“Birth”で再生を示唆していたことを踏まえると、swancryの「白鳥」の遺伝子が静かに引き継がれているようにも思える。Cissnéのグッズに白鳥をモチーフにしたデザインのキーホルダーやTシャツがあることも、この説を補強している。

全5曲で構成される本作は、ポストブラックやスクリーモの激しい音像を軸に、ピアノやクリーンボーカル、ポエトリーリーディングを交えながら静寂と轟音を往来する。激しさと美しさを単純にシーソーさせるのではなく、歌詞に描かれる人物たちの感情の起伏そのものを増幅し、音楽へと昇華している。

#1 “home”は、儚げなクリーントーンから幕を開ける。やがて熱を帯びたスクリームとディストーションギターが爆発し、ドラムとベースが楽曲を力強く推進する。ポエトリーを挟みながら静寂と爆発を繰り返し、終盤ではクリーンボーカルとスクリームが交錯してクライマックスへ。Cissnéの耽美性と攻撃性の融合を容赦なく見せつける、鮮烈なオープナーだ。

歌詞には、行き場を失った子どもの苦悩が浮かび上がる。その感情の揺れが、静寂と轟音が交錯する楽曲構成にも重なる。

#2 “straysheep”では、Cissnéの醍醐味であるポストクラシカルの要素が顔を覗かせる。美しいピアノのリフレインやポエトリー、クリーンボーカルから、ゴリゴリと刻む轟音リフと凶悪なスクリームへ目まぐるしく切り替わる。終盤で子守唄のように穏やかなパートから激情的なスクリームへ転じる場面は特に強烈だ。あまりの上昇負荷でありとあらゆる穴から血を吹き出してしまいそうである。「柵を越えて行かなきゃ」「だからもう置いて行ける」という歌詞も含め、閉じた世界から一歩踏み出そうとする意思が一気に解き放たれる。

#3 “water lily”は、クリーンボーカルを主体としたポストブラック/ブラックゲイズ色の強い楽曲。牧歌的なメロディ、繊細な歌声、強烈なスクリームの調和はSylvaineにも匹敵するレベルで、本作の中でもひときわ印象的だ。白い睡蓮になぞらえて深い愛の執着を歌う様はトップオブリリーこと、るるくれさながらである。※リリーという共通する名称を持つが、睡蓮と百合は分類学的には近縁ではない。

AlcestやSylvaineといった海外のフォーク×ブラックゲイズの系譜に対する、日本からの強力な回答ともいえる一曲だ。ただ、サビのスクリームとクリーンボーカルが同時に展開するパートは、ライブでどう再現されるのか気になるところ。AlcestのZEROのような高域コーラスを担うメンバーがいれば、この美しいコントラストもさらに映えそうだ。

#4 “will”は、日記形式で綴られる独白から始まる。少年Aと少女A、それぞれの視点から先に顛末が提示され、物語の全貌を明かさないまま進んでいく。麻枝准×やなぎなぎにも“凍る夢”という日記形式でミステリー風に展開する楽曲があるが、“will”は二人の視点を断片的に交差させることで、リスナーに真相を想像させる構成がユニークだ。

楽曲もまた、序盤では日記を淡々と読み進めるように静かに進む。しかし、抑え込まれていた感情が決壊すると、無慈悲な轟音と悲鳴めいた叫びが感情の奔流となって爆発し、その凄まじさに思わず息を呑む。

最後を飾る#5 “doors”は、美しいピアノから始まる繊細なバラード。閉じた世界で出会う「僕」と「君」について綴られた歌詞も相まって、90〜00年代のセカイ系ADVの挿入歌を思わせる感傷的な趣がある。

しかしCissnéの本領はここからだ。Sigur Rósを彷彿とさせる荘厳なギターとともにポエトリーも熱を帯び、激しい感情を吐露していく。「狭い箱」「選べない扉」「どこにも行けやしない」という言葉からは、閉ざされた世界から逃れられない運命が浮かび上がる。「銃弾を込めただけで/抗ったつもりでいた/何もできてなかった」という無力感から、「銃弾を込めて撃ったんだ」へ変わり、「僕は君に出会って/別れてまた出会えたら/覚えた歌をうたうよ」と穏やかな声音に回帰すると、わずかな希望を残して物語が結末を迎えたような安堵感が胸に去来する。

“home”で行き場を失った子ども。“straysheep”で柵を越えて出ていこうとする者。“water lily”で愛の執着に溺れる者。“will”で別離に至る二人。そして“doors”で、閉じた世界の中に一縷の希望を見出す者。『Awake children under the moon』は、大人になりきれない子どもたちの心の機微を捉えた、5つのオムニバス形式の物語のようにも思える。

もちろん、明確なストーリーは公表されておらず、これは歌詞から想像を膨らませた私の妄想に過ぎない。しかし5曲を通して聴けば、喪失、孤独、理不尽に苛まれながら、それでも先へ進もうとする意思が貫かれているように思える。本作には、こうした物語をリスナーの中に呼び起こすだけの強い力が宿っている。

EPのリリースを目前に控えた2026年2月14日、吉祥寺WARPで開催された初ワンマンに足を運んだが、ソールドアウトの大盛況で、あらためてリスナーの熱量の高さに驚かされた。対バンにはポストブラックメタルのPale、アンビエント/ポストクラシカルのSmanyを迎え、静と動のコントラストが際立つイベントとなっていた。一見すると意外な組み合わせにも思えるが、Cissnéの音楽的ルーツと美学を示すには実に的確な布陣だったといえる。

スクリーモやポストブラックといったエクストリームミュージックを土台にしながら、アンビエント、フォーク、ポストクラシカルの幻想美をまとい、幅広いリスナーに訴求する魅力を備えているのはCissnéならでは強みだ。envyはもちろん、heaven in her arms、夢中夢、凛として時雨、MyGO!!!!!、Alcest、Sylvaine、Sigur Rós、Ólafur Arnalds、Hammock、ZABADAK、新居昭乃、岡部啓一、Evan Callなど、さまざまなアーティストの要素を内包している。この中に好きなアーティストがひとつでもあれば、ぜひ一度聴いてみてほしい。きっと新たな道が拓けるはずだ。

4月10日に本作をリリースした後、7月4日にはタイ・バンコク公演を開催。さらに8月7日にはコスタリカのシューゲイズ・バンド、Adiós Cometaとのスプリットをリリースし、Cissnéは新曲“Zero”を提供した。2027年にはラテンアメリカツアーも決定しており、現時点では5月8日のチリ・サンティアゴ、5月9日のブラジル・サンパウロ公演が発表されている。

結成から間もないにもかかわらず、活動の舞台はすでに海外へ広がり始めている。この先、MyrkurやSylvaineといった海外のポストブラック/ブラックゲイズ勢と同じステージに立つ日も、そう遠くないかもしれない。

嘆きの白鳥は、新たな翼を携えて、世界へと羽ばたいている──。