
The Midnight
Syndicate
The Midnight
Syndicate
- release date /2025-10-03
- country /US
- gerne /Drum&Bass, Dreamwave, Retrowave, Synth Pop, Synthwave
アメリカ・ロサンゼルスのシンセウェイヴ・デュオ、The Midnightの6tnアルバム。
The Midnightは作曲家兼プロデューサーのTim McEwanとシンガーソングライターのTyler Lyleにより2012年に結成。2016年の1stアルバム『Endless Summer』において、80年代風のエレクトロニックなサウンドとエモーショナルなボーカル、叙情的なサックスを融合させたサウンドを提示。シンセウェイヴの源流はインストが主流だったが、Tylerの歌声は強烈な存在感を放ち、ジャンルの代表格としての地位を確立した。近年は「Kids」3部作(『Kids』『Monsters』『Heroes』)を通じてローファイや80年代ロックの要素を取り入れるなど音楽性を拡張し続けてきたが、本作は自由な発想のもと制作され、新たな要素を取り入れながら、初期の傑作『Endless Summer』や『Nocturnal』への回帰も覗かせる集大成的な作品となっている。
その方向性を象徴するのが、先行シングル#15 “Love is an ocean”だ。エレクトロビートが静かに鼓動を刻む中、シンセサイザーが夜の海面に反射する星の光のように煌めき、Tyler Lyleのなめらかな歌声がリフレインする。そしてブレイクを挟み、静寂を切り裂くように哀愁のサックスが一気に炸裂する展開は、まさに彼らの真骨頂といえる。初めて彼らの音楽に触れるリスナーにとっても、最適なトラックだろう。
他のトラックもメランコリックな作風が貫かれていて、本作のサイバーパンク的な世界観を強固にしている。ここからは初期のテイストが強い楽曲をピックアップして紹介する。
#3 “Runaways”は、ゲストのBonnie McKeeの力強くも透明感のあるボーカルが自由への渇望を歌い上げるダンスチューン。終盤のサックスがもたらす高揚感も印象的で、『Nocturnal』期を愛するファンの心を掴むだろう。
#12 “Fatal Obsession”はJupiter Winterをフィーチャーし、ダウンテンポの哀愁漂うアンサンブルで愛の執着がもたらす心の陰影を描く。サックスもなめらかに寄り添い、メランコリックなムードに深みを与えている。なおJupiter Winterは、Lelia BroussardとRoyce Whittakerによるデュオであり、近年のThe Midnightの制作・ライブ双方に関与する重要な存在だ。
しかし、本作は単なる過去への回帰に留まらない。ダークシンセの重鎮Carpenter Brutをフィーチャーした#10 “First Night in Paris”では、重厚なベースとアグレッシブなビートで激しく攻め立て、続く#11 “Afterglow pt. 2”ではドラムンベースの鋭利なリズムを導入するなど、既存のシンセウェイヴの枠組みに囚われない新たなアプローチも覗かせる。
#16 “Sanctuary”は、ピアノの伴奏からシンセの重層的なシンフォニーへと発展する壮大なバラード。7/8拍子で進行し、終盤に一気にダンスビートへと転換する展開も鮮烈だ。ボコーダーを介して震えるように歌われる「Hold me til the world fades away」(世界が消え去るまで、私を抱きしめて)という一節は、崩壊していく世界で人類が最後にアーカイブしたメッセージのようにも聞こえる。
そしてクロージングの#17 “Summer’s Ending Soon”では、柔らかな歌声が凪いだ海のように優しく響き、物語の終わりを告げる。このタイトルは、デビューアルバムである『Endless Summer』から続く歩みの集大成であると受け取れる。
洗練されたプロダクションと多彩なアレンジ、そしてより深みを増したボーカル・パフォーマンス。全てにおいてキャリア史上最高峰のクオリティに到達した傑作だ。初期作を再構築しつつ、新たな方向性を提示したという点においても、マンネリに陥りがちなシンセウェイヴの未来を示唆する作品といえる。彼らの鳴らす音はネオンライトが輝く都市のように、どこか希望に満ちた光を投げかけている。
また、シンセウェイヴというジャンルの枠を超え、バンド編成によるライブ・パフォーマンスを展開している点も特筆すべきだろう。現時点で来日公演の予定はないが、一人でも多くの日本のリスナーに彼らの音が届くよう、このレビューが一助となれば幸いだ。
