くゆる

Lovescape

くゆる

Lovescape

  • release date /
    2025-02-19
  • country /
    Japan
  • gerne /
    Alternative Rock, Blackgaze, Doomgaze, Grunge, Post-Rock, Shoegaze, Slowcore
Light
Dark
Soft
Heavy
Clear
Noisy
Slow
Fast
Pop
Extreme

東京のシューゲイズ・バンド、くゆるの1stアルバム。

2022年の結成以降、圧倒的なライブパフォーマンスで注目を集めてきたくゆる。その初のフルアルバムが本作『Lovescape』である。現メンバーは以下の5名。

  • 下戸あやな (Vo/Gt)
  • 飛田熙 (Gt)
  • 上田隆太 (Gt)
  • 河瀬塁 (Ba)
  • 山口航 (Dr)

国内屈指の轟音による暴力と美の対比

サウンドの核となるのは、トリプルギターが生み出す圧倒的な轟音だ。リスナーを竜巻の中に叩き込むかのような苛烈さは、国内でもトップクラスを誇る。さらにドラムは暴力的な音の壁を貫くほどパワフルで、強靭なサウンドの屋台骨として機能している。

楽器隊の過激さゆえ、初めはシューゲイズとかけ離れた印象を持つかもしれないが、蜃気楼のように幽玄にたなびくボーカルが、くゆるを本格的なシューゲイズたらしめている。この「暴力」と「美」のコントラストはくゆるの世界観にとって欠かせない要素だ。

ジャンルを横断する多様な楽曲群

単なるシューゲイズに留まらない、ジャンルを横断する多様な楽曲群も本作の大きな魅力だ。

静と動を交錯させながら闇へ堕とす#1 “mope”。鼓膜を苛む強烈なノイズが渦巻き、やがて全てを破壊せんばかりにブラックゲイズ風の轟音へ収束する#2 “蒼い空”。スロウコアの寂寥感とドゥームゲイズの重厚さを巧みにブレンドした#7 “momo”、ポストロック譲りの展開美で広大なサウンドスケープを演出する#8 “BESIDE”など、8曲それぞれが非常に強い個性を放っている。

近年、日本ではNothingやWhirrなどをルーツとするヘヴィシューゲイズ志向のバンドが増加傾向にあるが、くゆるはさらに一歩先の未来を提示している。エクストリームなハードコアやメタルが集うイベントにも招致され、過激な轟音でオーディエンスを熱狂させている事実が、彼らが日本のシューゲイズ・シーンにおけるオルタナティブ精神の真の体現者であることを雄弁に物語っている。

くゆるの真髄はライブにあり

サウンドプロダクションはクリアで快適でありながらも、ライブに近いエネルギーを有しており、何度もライブを経験しているリスナーでも高い満足感を得られるだろう。ライブではさらに全身を切り刻むような音圧で襲いかかってくるため、未体験であればぜひ直に浴びてブッ飛ばされてほしい。きっと「くゆるはライブこそ真骨頂」だと実感するはずだ。なお耳栓は必ず持参のこと。

カバーアート考察

次はカバーアートに注目したい。

暗闇の中で目を閉じて身をくるめる姿に私は胎児を連想した。胎内で聞いている音は、母親の心臓の脈動血流によるノイズが主であるという。絶え間ない喧騒の中で耳にする母の呼びかけや歌声は、暗闇に差し込む光のようにいっそう美しい音色として届いているに違いない。これはある種のシューゲイズ・サウンドの原型とも解釈できる。

近年のシューゲイズ・ブームは、厳しい現実から「愛にあふれる場所」=「Lovescape」への逃避、すなわち胎内回帰願望の表れではないだろうか。くゆるの音楽は、この願望を満たすためのサウンドトラックとして最適な作品である。

私に還りなさい、生まれる前に──(突然のエヴァで締め)